教養・歴史書評

『真のバリュー投資のための企業価値分析』 評者・平山賢一

著者 柳下裕紀(Aurea Lotus代表取締役) 金融財政事情研究会 2200円

企業の本質的将来価値見極め 運用職人が分析する投資術

 本書は、主要な株式投資スタイルの一つである「バリュー投資」に欠かせない企業価値分析を取り扱ったものである。バリュー投資とは、証券の本質的価値と市場価格との乖離(かいり)に着目した投資手法であり、一言で言うと「株の価格ではなく、あくまでも企業の価値」を重視する。一般的な手法では、企業の純資産を株価で除した株価純資産倍率(PBR)といった会計情報を基準に、それと株価を比較して割安な銘柄に投資するのがバリュー投資とされている。

 一方、企業の利益成長性に着目して、成長が見込める企業を選ぶスタイルをグロース株投資と呼ぶ。ファイナンスの実証研究では、このバリュー株は、長期間でみればグロース株よりも投資成果が高いとされてきた。それだけに、バリュー株投資家は、株式市場でも長年にわたり一定の評価を得てきたのである。だがグローバル金融危機前後から昨年までの直近10年間超では、ITプラットフォーマーに代表されるグロース株がもてはやされ、一般的なバリュー株投資の成績が振るわなかった。多くのバリュー株投資家が退場せざるを得なかった理由である。

 それにもかかわらず、バリューをうたう投資家である著者が、この淘汰(とうた)の波を乗り越え得たのはなぜか?その答えは、本書の「真のバリュー投資」という言葉に集約されている。単なる会計情報から得られる「企業価値もどき」ではなく、サステナブル(持続可能)な将来価値の成長を見通せる企業の本質的価値を基準としている点で、一般的なバリュー株投資とは異なる。この基準にのっとれば、「継続的に複利で本源的価値を上げていける優良企業」にスポットライトが当てられ、一般的なバリュー銘柄とは異なってくるのである。

 同じ運用職人として評者が注目したいのは「複利で」という言葉。複利を高めるためには企業価値の変動は小さい方が良いのだが、ここに着目する投資家は少数。ファイナンス理論で唱える「ハイリスク=ハイリターン」という言葉(高いリターンを得るためには高いリスクを許容しなければならない)が、真実を覆い隠しているのが明らかにされている。

 このように、運用職人だからこそつむぎだされる珠玉の言葉は、巷間(こうかん)多数出版される投資本とは一線を画していると言える。さらに、「人生は常に価値と価格の交換による投資決定の連続である」との言葉は、多くの読者の胸に突き刺さるだろう。間断なき飛翔(ひしょう)を目指し、投資だけではなく人生も、真の価値を探索し続ける旅路に他ならないからだ。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長)


 柳下裕紀(やぎした・ゆき) 1964年生まれ。国内のみならず香港や米国で20年以上、株式ファンド・マネジャーを経験。現在は私募ファンドの運用と共に企業向けコンサルティングや投資関連の支援・啓蒙活動を手がける。

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