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ホンダの世界初「自動運転レベル3」に歓喜する人たちが見落としている意外な落とし穴=中尾真二

    ホンダのレベル3の自動運転では定められた条件下でスマホの操作も可能
    ホンダのレベル3の自動運転では定められた条件下でスマホの操作も可能

     ホンダが3月、世界初となる「レベル3」の自動運転技術を搭載した「ホンダ・レジェンド」を発売した。レベル3は、条件付きではあるが、運転主体が人間(ドライバー)ではなく車両(システム)となることを意味し、この点がレベル1や2と決定的に異なる。自動車メーカー各社が自動運転技術を巡って開発競争にしのぎを削る中、なぜホンダが世界初を実現できたのか。このまま日本が「完全自動運転(レベル5)」一番乗りを果たすのか。背景を探ると、意外な〝落とし穴〟が見えてくる――。

    「レベル3」は日本が世界で初めて定義

     自動運転のレベルについては、米国自動車技術者協会(SAE)が0から5までの段階に分けて定義しており、一応、これが国際的な共通認識となっている。

     具体的には、①自動ブレーキや車線維持システム(LKAS)などを搭載した車が自動運転の「レベル1」、②高速道路で車線合流する、前方に遅い車がいたらウインカーを出して追い越すなどの高度な技術を持つ車が「レベル2」、③特定条件下でシステムが自動運転を実施する車が「レベル3」(ただし、システムが自動運転の継続が困難になった場合はドライバーが運転操作を引き継がなくてはならず、ドライバーは常に運転操作を引き受ける態勢でいなければならない)、④エリア限定で完全自動運転を実施する車が「レベル4」、⑤常に完全自動運転を実施する車が「レベル5」――とされている。

     ただし、SAEの規定は特定の技術や機能を定義しているわけではない。たとえば、手放しで車線変更や一般道の交差点の右左折(信号や歩行者を認識)ができても、メーカー側が「運転の責任はドライバーにある」とする限りは、レベル2となる。

     世界の自動車メーカーがレベル2は市販できてもレベル3の市販に踏み切れなかった背景には、特に「運転の引き継ぎ」の前後に事故が起きた場合の、責任の所在の位置づけが難しいという問題もあった。

     日本は2019年に、道路運送車両法や道路交通法を改正し、世界で初めて自動運転車両(レベル3相当)に必要な要件を明確化。「高速道路の同一車線内での最高速度を時速60㌔とする低速走行」に絞って基準を定めた。

     走行環境条件を外れる場合の運転操作引き継ぎの警報装置、引き継ぎまでの安全運転機能や、引き継がれない場合の緊急安全停止機能、システムの作動状況や運転士の状態を記録する装置、ドライバー監視機能、ハッカーにインターネット接続を通じて車の操縦を乗っ取られるのを防ぐサイバーセキュリティー機能――などを満たすこととした。

     ホンダ・レジェンドは、この要件をクリアし、「型式指定」を受けた初の車両ということになる。

    レベル3の自動運転システムが搭載されたホンダ・レジェンド
    レベル3の自動運転システムが搭載されたホンダ・レジェンド

     レジェンドに搭載されたトラフィックジャムパイロット(TJP、渋滞運転機能)は、高速道路や自動車専用道路における渋滞時などに(悪天候の場合を除く)、時速30㌔未満になると自動運行装置が作動し、時速50㌔を超えると終了する。システム作動中、ドライバーはテレビを見たりカーナビを操作したり、スマートフォンを使用したりすることができる。

     ホンダが「世界初」を打ち出せたのは、開発力や技術力のたまものでもあるが、見方を変えれば、国内の法整備によって何を持って「自動運転車両」と呼べるかが明確になったからであるとも言える。自動運転の開発競争で主導権を握りたいという官民共通の思惑もあっただろう。

    スバルやマツダは「人が運転する車」に限定

     今後、メーカー各社はレベル5の実現に向けて突き進むのか。実際のアプローチは、メーカーによって異なると筆者は考えている。

     レベル2と3、レベル4と5の間には、相当な技術的ギャップがある。特に、4と5の間は、人工知能(AI)の領域でも、いくつかのブレークスルーが必要とされる。

     建設現場や採石場、露天掘り現場では、すでに無人のトラックや重機が(遠隔操作ではない)自律走行を行っている。これらはレベル4の自動運転に分類される。ただし、これはあくまでも、無人のトラックや重機が限られたエリア内を走行するためだ。

     たとえば、米国や中国の実用化が進む、指定区域内だけを走行するロボタクシーは、「エリア内」という制限がつくためレベル4だが、同じ基準で公道を走行するとしたら、レベル5と同程度の機能が必要になる。

     ホンダは今後、レベル3の自動運転のパイオニアとして、自動運転機能の適用条件を拡大していくアプローチを取るだろう。

     一方、スバルやマツダは、「人間(ドライバー)が運転する車しか開発しない」ことを明確にしている。つまり、自動運転機能はレベル2までとし、システムが運転責任を負うレベル3以上は狙わない。レベル3以上で必要とされる機能は、ドライバーの支援と保護のために実装すると考えられる。

     日産自動車の運転操作支援システム「プロパイロット」はレベル2を表明している。日産は、以前から北米などで積極的に自動運転の公道試験を行ってきた。各社が「自動運転」という言葉にナーバスなっていた頃から、この言葉を使っている。日産はおそらく、レベルがいくつかということより、プロパイロットのバージョンを、法律などと整合させながら進化させていく戦略だろう。

     トヨタの高度運転支援技術「アドバンスドドライブ」は、当面レベル2のまま機能を強化し、適当なタイミングでレベル3や4をリリースしてくる可能性がある。レベル3の車両が社会にどう受け止められるのかを、静観(様子見)する戦略だ。

    「レベル」にこだわりすぎると限界も……

     今後、自動運転の「レベル」を引き上げていくのだとすれば、GPSと高精度なマップデータに依存した自車位置の把握に加え、暗い中でも障害物や歩行者を認識でき、対象物までの距離やその形状を瞬時に把握するレーザー光センサー「LiDAR(ライダー)」などによる周辺状況の立体的把握が不可欠になる。そのレベルの型式指定を受けるために、システムの稼働条件を設定するのに欠かせない。事故時の責任問題にもかかわるため、客観的な状況認識とデータが必要となる。

     ただし、この考え方では、永遠にレベル5の完全自動運転に到達できない可能性もある。例えばどのような条件下でも自動走行が可能なシステムがあったとして、そのシステムの責任範囲を明確にするには、やはり稼働条件を緻密に定義しておく必要があり、結局、制限条件ありの自動運転(=レベル4)にとどまってしまうからだ。

    「完全自動運転」に照準を合わせるテスラ

     自動運転について、ホンダと正反対のアプローチを採っているのがテスラだ。テスラは自動運転レベルを段階ごとに追うのではなく、最初からレベル5(完全自動運転)に照準を合わせて開発を進めてきた。現段階で、テスラ車に標準装備されている運転支援システム「オートパイロット」とオプションのFSD(完全自動運転向けの車載システム)は、レベル2に分類されるが、実装されている機能はレベル3以上といっていい。

    テスラはレベル5に照準を合わせる
    テスラはレベル5に照準を合わせる

     これについては「ユーザーで実験しながら技術開発をしている」「不完全な機能を市場にリリースしている」「適用範囲を広げすぎたことで、誤解・誤認によるユーザーの危険運転を誘引している」といった批判があるのも確かだ。

     テスラは、GPSは利用してもLiDARは使わない。センシングの中心はカメラであり、周辺状況は画像認識技術でまかなっている。高精度のマップ情報などに頼らず、カメラからの情報をそのつど認識して適切な処理を施していく。マップ情報やLiDARを使った方式より信頼性が落ちるようにも見えるが、実は、人間が普通に運転している感覚に近い。

     人間はナビや地図がなくても、初めての道でも、悪天候であっても、視覚情報を頼りに運転する。知らない建物や交差点を前にすると、進み方がわからなくなる、というドライバーはまずいないだろう。LiDARや高精度マップに依存している限り、いつまでたっても「一定条件下」や「知っている道」でしか走れない、ということになる。

     正しいのは、ホンダのアプローチなのか、テスラのアプローチなのか、議論はあるだろう。ただ残念ながら、現時点で完全自動運転にもっとも近いのは、テスラのアプローチだといえそうだ。

    (中尾真二・ITライター)

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