教養・歴史書評

『ファクトで読む 米中新冷戦とアフター・コロナ』 評者・田代秀敏

著者 近藤大介(『週刊現代』編集次長) 講談社現代新書 990円

2大覇権間の「戦略的曖昧性」をファクトに基づき徹底検証

 松山英樹氏が優勝した米国マスターズ・トーナメントを、中国の国営テレビ放送局CCTVは、リアルタイムで、国内向けに実況中継した。

 中国のSNS(交流サイト)には祝福の投稿が溢(あふ)れ、「現在そして次の世代が努力を重ねれば、30年後に中国人が優勝のグリーン・ジャケットを着る夢が実現するかもしれない」というコメントも投稿された。

 このことが示す通り、21世紀の「米中新冷戦」は、20世紀の「東西冷戦」と大きく異なる。

 それにもかかわらず日本では、「東西冷戦」で米国が勝利したのだから「米中新冷戦」でも米国が勝利するという見通しが主流である。それに対して著者は、疑問を呈する。

「果たして、本当にそうでしょうか? 普段、ファクトで米中を俯瞰(ふかん)している私からすると、話はそう単純なものではありません」

 この言葉の通り「『親中』や『反中』といった感情ではなく、ファクト(確実な事実)で読み解く」というのが、天安門事件以来、英語・中国語・フランス語・朝鮮語を駆使して、「日本を取り巻く東アジア情勢の研究・取材を30年以上にわたって行ってきた」著者のスタンスである。

 第1章「米中、七つの戦争」では、貿易、技術、人権、金融、疫病、外交、軍事の7分野での対立が複雑に絡み合い重層するダイナミズムが、中国側への周到な定点観測に基づいて、詳細かつ大胆に描かれる。

 新型コロナウイルスの感染防止に成功し経済をV字回復させた中国が、日米欧英に先んじて開発に成功したデジタル法定通貨を切り札にして、米国との「長期的かつ全面的な持久戦」へ挑む戦略が示唆される。

 第2章「『コロナ対応』の東アジア比較」では、日本が東アジアで「一人負け」した現状をあぶり出し、「老朽化した日本の社会システムの脆弱(ぜいじゃく)性」を中台韓との対比に基づいて明らかにしていく。

 第3章「韓国と台湾を見ると5年後の日本が分かる」では、米中対立の激震に日本より機敏に対応している韓国・台湾を日本が追っているというファクトが詳細に示される。

 韓国・台湾に5〜10年遅れ日本でも「左派の再復権」が起きるという極めて大胆な予測が展開される。

 第4章「日本は中国とどう付き合うか」では、軍事は米国に依存し、経済は中国に依存する日本の対中関係をファクトから読み解く。

 米中いずれも敵としない「戦略的曖昧性」を慎重に構築すべきという提案は、ファクトに基づくだけに重く、真剣な検討に値する。

(田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)


 近藤大介(こんどう・だいすけ) 1965年生。東京大学国際情報学修士。北京大学留学。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て現職。2019年に『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)で岡倉天心記念賞受賞。

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