教養・歴史書評

若い世代必読 これからの住宅土地問題を学ぶ教科書の決定版=小峰隆夫

『経済学で考える 人口減少時代の住宅土地問題』=評者・小峰隆夫

編者 土地総合研究所 著者 山崎福寿(共立女子大学教授) 中川雅之(日本大学教授) 東洋経済新報社 3630円

規制緩和推進の第一人者が最新の知見に基づき問題に回答

 本書の共著者である山崎福寿さんが、本年1月急逝した。山崎さんは一貫して経済学の立場から、都市問題、住宅土地問題に取り組んできた。その主張はずばり、「市場メカニズムの重視」「競争の重視」「規制の撤廃」である。

 特に評者の思い出に残るのは、評者が経済企画庁に勤務していた1996年に、経済審議会の場で展開された「6分野の経済構造改革」の議論だ。この中で住宅土地分野の報告では、山崎さんの主張が存分に生かされ、「土地・住宅問題の多くは市場メカニズムによって解決できるにもかかわらず、規制などにより阻まれている」という問題意識のもとに、容積率の緩和などの規制緩和が提案されたのだった。

 さて、本書は、土地不動産市場を中心に扱った教科書が少なく、少子高齢化や人口減少社会の実態についての記述も限られているという問題意識のもとに上梓(じょうし)されたものである。共著者の中川雅之さんも、一貫して経済学の立場から住宅土地問題に取り組んできた。その二人がまとめたのだから、本書は経済学に基づいて住宅土地問題を扱った教科書として決定版とも言えるものとなった。特に本書が優れていると感じたのは次のような点だ。

 第一は、ゲーム理論、行動経済学など最新の経済学的知見が盛り込まれていることだ。多くの住宅土地問題は、その問題を起こしている主体が「けしからん」というレベルで議論されることが多い。だからすぐに「規制すればいい」ということになる。しかし本書では、例えば「なぜコンパクトシティーの形成は難しいのか」という問題について「時間割引率」という概念(現在受けている便益より将来の便益をどのくらい小さく評価するかの尺度)に基づいて分析するなど、「なぜ人々はそういう行動を取るのか」が説明される。

 第二は、取り上げている問題が現実社会の中で身近に生じているものばかりであり、それが問いかけに答える形でまとめられていることだ。「空き家・空き地はどうして存在するの?」「持ち家と借家は結局どちらが得なのですか?」などである。読者は現実的な問題への関心を通じて自然に経済学の世界に入り込むことができるだろう。

 評者はもし多くの若者が本書を教科書として住宅土地問題を学び、将来それを身に付けて行動するようになれば、日本の住宅土地問題は相当程度解決に向かうのではないかとすら考える。山崎さんの早すぎる死を悼みつつ、本書を強く推薦する。

(小峰隆夫・大正大学教授)


 山崎福寿(やまざき・ふくじゅ) 1954年生まれ。著書に『土地と住宅市場の経済分析』(日経・経済図書文化賞)など。

 中川雅之(なかがわ・まさゆき) 1961年生まれ。建設省、国土交通省を経て現職。著書に『都市住宅政策の経済分析』(日経・経済図書文化賞)など。

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