教養・歴史 書評

トラウマ克服本、米国で大ヒット

アメリカ トラウマ克服本のヒット、時代背景も後押しか=冷泉彰彦

 オプラ・ウィンフリーといえば、雑誌やブッククラブを主宰することでアメリカの出版界に存在感を放っている。同氏はまた、テレビ司会者、インタビュアーとしても依然として活躍しており、最近では英王室のハリー王子、メーガン妃に対するインタビューでも話題を呼んだ。

 そのウィンフリーによる「トラウマ(心的外傷)克服」をテーマとした『あなたに何が起きたのか トラウマ、回復、治癒に関する対話(“What Happened to You?: Conversations on Trauma, Resilience, and Healing”)』が売れている。小児トラウマ・アカデミーのフェロー、ブルース・D・ペリー医師との共著である本書は、4月27日に出版されるとすぐに、アマゾンにおける「一番売れた本」ランキングのノンフィクション部門1位となった。

 共著といっても2人の一方が主として執筆して、もう1人が校閲や監修をするというのではなく、両名のコメントが交互に出てくる編集となっている。全巻が2色刷りとなっていて、ウィンフリーのコメントは青字、ペリー医師の部分は黒となっている。一種の対話形式であり、いかにも、インタビューの得意なテレビ司会者の本という感じだが、対談を書き起こした部分ばかりでなく、往復書簡集のような部分もある。

 内容としては、穏やかにトラウマへの癒やしへ誘導するものかというと、必ずしもそうではない。「人間は世界を自分の脳を通じて見る」という事実から説き起こし、その脳が傷ついていることで世界がゆがんで見えるという事実と向かい合わねばならない、そう訴える内容となっている。冒頭には「時としてつらい読書体験になるかもしれない」と覚悟して読むよう読者に警告しており、その通り厳しい指摘や生々しい記述も含まれている。例えば、ウィンフリーは本書の中で、自身が家族から虐待された経験を生々しく語っている。

 コロナ禍の中、親しい人間の死や失業、将来不安など心の傷を負う人の多い時代である。そんな中で、幼い時期のトラウマを抱えた人々に対して、自身の問題に向かい合う力を引き出させようという本書に、多くの読者は確かな癒やしの手応えを感じているようだ。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事