中身が見られないフィルムパック 講談社文庫はなぜ踏み切ったか=永江朗
賛否両論!? 総額表示義務化めぐる動き=永江朗
4月1日から総額表示の義務化が始まった(正確には「消費税転嫁対策特別措置法」による特例期間の終了)。出版社の対応はさまざまだ。スリップ(書籍やムックに挟み込まれている紙片)や帯に税込み定価を表示してカバーなどには従来通り「本体○○円+税」としている出版社もあれば、従来のまま総額表示をしていない出版社もある。
昨年の秋以来、総額表示義務化が出版物に及ぼす影響が議論を呼んできた。最も大きな懸念は、将来、税率が変わった場合、表示替えのコストに見合わない書籍・ムックが廃棄されてしまうのではないか、ということだった。消費税導入時に起きた事態の再現を恐れたのである。
今のところ特に大きな混乱は見られないようだ。ただし、将来、仮に消費税率が引き上げられた場合、あるいは、低減税率が適用されたり非課税となった場合は予測できない。書店店頭や出版社の倉庫に新旧税率の商品が混在するとき、はたして出版社は帯やスリップを交換して再出庫するのか、それとも断裁・廃棄するのか。その時点での出版社の体力次第でもある。
もっとも、総額表示が義務づけられるのは小売り段階であり、義務を負うのは書店など小売店である。たまたま出版物の場合は独占禁止法の例外としてメーカーによる価格拘束が認められているため、出版社が商品に定価を表示しているにすぎない。実際、店頭に本体価格と税込み価格の換算表を掲示する書店もある。これならば税率が変わっても換算表を張り替えるだけでいい。
講談社は講談社文庫と講談社タイガについて、4月発売の新刊からフィルムパックをほどこした上に総額をシール貼付して出庫している。総額表示義務化だけが動機ではなく、運搬・陳列時の汚損防止やできるだけきれいな状態で買おうとする消費者の志向などに対応してのこと。ただ、書店や読者からは、歓迎する声と困惑・反対する声の両方がある。後者は、店頭で中身を確認できないこと、レジでカバーを要望されたときに手間が増えることなど。講談社は、1冊はパックを外して見本として陳列することを勧めているが、はたしてパックは定着するのだろうか。
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