教養・歴史書評

経営者必見 伊高級ブランド「ブルネリ」創業者の言葉

『人間主義的経営』 評者・平山賢一

著者 ブルネロ・クチネリ(ラグジュアリー・ブランド「ブルネロ・クチネリ」会長兼CEO) 訳者 岩崎春夫 クロスメディア・パブリッシング 1848円

人間と自然を傷めない価値創造を ブランド創業者の哲学的自省録

 百貨店の高級ブランド売り場の一角で、桁を見間違えたかと思う価格でヒッソリと販売されている「ブルネロ・クチネリ」。その名を聞いたことがある人は、そう多くないはず。だが、シンプルかつ高品質のカシミヤ・セーターは、ファッション・リーダーたちの羨望(せんぼう)の的である。

 本書は、その隠れたラグジュアリー・ブランドの歴史と今、そして将来の予感について記されたものである。イタリアの自然豊かなブランド拠点・ソロメオ村の大地、人間、空気と時間が、クチネリ氏の自伝的経営書として紹介され、大いにユニークな書籍に仕上がっている。

 ブランド経営の根幹に、ローマ皇帝マルクス・アウレリウスやソクラテスなど著名な哲学者たちの言葉を据えている点で異彩を放っているからである。近年、理念なき経営が批判される中で、原点に立ち返って、クチネリ氏の思いと行動を確認してみるのは、今後のわが国の企業経営を考える上でも意義があるだろう。

 コロナショック以降、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の観点から企業経営や資本主義を見直してみるという動きがさらに加速している感がある。クチネリ氏は、「人間のための資本主義」を、人間の原点と歴史に根差しつつ、人間や自然を傷つけ攻撃せずに利益を生む資本主義として、いち早く取り入れてきた。肩に力を込めずに、自然体で、全ての生産のプロセスを人間中心に組み立てる中で生み出される真の価値創造は、広告ではエコを前面に出しながら実際はCO2削減の努力の足りない中途半端な環境経営やハラスメント、短期利益主義といった現代企業病とは一線を画している。「人々は文明の発展によって星や空を見上げることをやめ、毎日を漠たる不安の中で生きています。しかし大空に虚心に向き合えば私たちの小さな一日一日が、道徳的にも一市民としても、精神的にも経済的にも、幸福な明日に繋(つな)がっていると感じることができます」との言葉は、現在だけではなく将来の企業家に光の矢を放っているようにも思える。その上でクチネリ氏は、最重要の課題を問いかける。

 簡素で美しいプロダクトやサービスを提供できているか?

 所属する社員・メンバーの潜在する可能性を引き出せているか?

 そして、「後世の人々の利益」の番人となれているか?

 これらの疑問に答える自省録を自然体で描いたブルネロ・クチネリ。その成功の要諦が凝縮されており、今後、数十年にわたり、何回も読み返す一書になりそうだ。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長)


 Brunello Cucinelli 1953年、イタリアのカステル・リゴーネ(ペルージャ市)の農家に生まれる。78年にカシミヤ染の会社を設立、それ以降、ソロメオ村に工房や学校を設立。イタリア共和国労働騎士勲章などさまざまな勲章を得ている。

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