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米国が資源国カナダを「51番目の州」にしてまでほしい“儲かる金属”のすごさとは

週刊エコノミスト2021年6月22日号の表紙
週刊エコノミスト2021年6月22日号の表紙

「ワシントン(米国)は、カナダを鉱物供給のための51番目の州とみなすようになっている」

 3月19日、こんな刺激的な米政府筋のコメントが載った記事が米国で流れた。電気自動車(EV)大手テスラやリチウム資源を開発するアルベマール、ライベントなどの米企業によるカナダでのEV材料生産を後押しするため、米商務省と企業が非公式の会議を行うという内容だ。カナダはリチウムイオン電池に使われるコバルトの生産で世界7位、リチウムの原料鉱石の生産国だ。

レアメタルを扱う特殊化学品メーカーの株価が3~4倍に

 日本では無名だが、アルベマールは時価総額2兆円の特殊化学品メーカーで、リチウム化合物に強い。ライベントはリチウムイオン電池と原材料の専業だ。両社の株価はこの1年で3~4倍に急騰した)。

 中国の希少資源獲得の先兵役としてアフリカなどで資源獲得に走るチャイナ・モリブデンの香港上場株もこの1年で3倍に急騰した。

 すべては2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)に向けた世界の動きがなせる業だ。

 炭素ゼロの柱となるのはEVと再生可能エネルギーである。ここに大量のレアメタル(希少金属)やレアアース(希土類)が使われる。

「EV100万台を生産するには、リチウムイオン電池の主原料であるリチウムで年7150㌧、コバルトで年1万1000㌧必要。この量は18年の日本の内需に匹敵する」

 この試算は2月に公表された資源エネルギー庁の「2050年カーボンニュートラル社会実現に向けた鉱物資源政策」に載った。テスラが30年に目指すEVの生産台数は、この試算の20倍の2000万台だ。

EV1台に使われる電池はスマホ1万台分

 EV1台に使われる電池はスマホ1万台分といわれ、洋上風力の大型蓄電電池はEV数万台分の電池が必要とされる。

 問題は電池やモーターに使う資源が、特定国に偏在していることだ。リチウムはチリとアルゼンチン、電池のエネルギー密度を高めるコバルトはアフリカのコンゴ民主共和国、高性能モーターに欠かせないネオジム磁石に使われるレアアースは中国といった具合である。

 産出国の偏在だけではない。例えばコバルトはスイスの資源商社グレンコアと中国資本で生産の6割を占めている。米国がカナダを51番目の州と捉え、企業と国ぐるみで戦う背後には「資源獲得戦争で負ける」という危機感があるわけだ。

日本の商社も続々事業に参入

 日本も手をこまねいていたわけではない。

 10年、双日は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とともに豪州でレアアースを開発するライナス・コーポレーションが進める西豪州のレアアース開発とマレーシアの精錬事業に2・5億㌦(約270億円)の出融資を行い、日本の消費量の3割を確保した。

 豊田通商も10年からアルゼンチンでリチウムの粗原料となる炭酸リチウムの調査を始め、15年から豪州のオロコブレと合弁で生産を開始。福島県では22年からこの炭酸リチウムを原料に、日本で初めて水酸化リチウムの生産を開始する。

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 6月14日発売の週刊エコノミスト6月22日号の特集は「EVと再エネ 儲かる金属」。巻頭記事では、脱炭素に向け電気自動車(EV)と再生可能エネルギーが普及する中で、「日米欧中の電池大争奪戦」が始まっていることをリポート。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出ゼロ)を目指すにあたり、必要不可欠な希少金属やレアアース(希土類)確保の壮絶なバトルや国を挙げた民間企業支援の最前線をお伝えします。

 また、EVや風力発電をはじめとする再エネに欠かせない具体的な金属として、リチウムウとコバルト、ニッケルを取り上げ、その偏在ぶりを世界地図上に示しました。ニッチで、普段あまり目にすることのない金属ですが、持続可能な社会の実現に世界各国が必要な資源をいかに有効かつ効率的に活用するか。リサイクルを含め真剣に議論するたたき台となる特集です。

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