資源「開発」が得意の三井物産が、水素「販売」役に回ってみた:大手商社「水素・アンモニア」の切り札(2)三井物産・住友商事・丸紅編
商社の水素・アンモニア事業を取り上げる連載2回目は、三井物産、住友商事、丸紅の動きを取り上げる。
三井物産は資源事業を得意とする。現に今期の業績予想を修正した理由の一つが、鉄鉱石価格の上昇であった。
他にも、液化天然ガス(LNG)や石炭開発などが有力な収益源ではあるが、世界的な脱炭素の流れは同社にとっても喫緊の課題だ。
物産は資源と化学が連携
三井物産も水素には注目しており、長期的には、再生可能エネルギーコストや天然ガス価格の低い国・地域で製造した、コスト競争力のある「二酸化炭素フリー水素」の大規模ビジネス圏を構築する戦略を描く。しかし、短期的には地産地消、モビリティー(自動車など)用途での事業を構築している。
その一つが、カリフォルニア最大の水素ステーション開発・運営「ファースト・エレメント・フューアル(FEF)」への経営参画だ。
2020年に2500万㌦(約25億円)を出資した。地元産業ガスメーカーから調達した水素を運搬・販売するビジネスだ。
このビジネスには、資源だけではなく、化学部門の知見も生かしている。というのは、運搬用トレーラーのタンクなどの機材に、同社の扱う炭素繊維技術を利用しているのだ。
同社は16年に、ガスタンク製造世界大手・ノルウェー「ヘキサゴン」へ出資。ヘキサゴンは、炭素繊維で強化したガスタンクの製造を手掛けているのだ。
三井物産は元来、石油やガスなどの開発案件(上流=モノ・サービスの原料調達側)に強い。しかし、FEF社の場合は、水素という資源事業でありながら、化学品部門の知見も使って、販売(下流=モノ・サービスの供給側)ビジネスを構築し、需要を創出している。
化学品部門の知見を使っての次世代燃料ビジネスを構築しているという点では、燃料アンモニアも同様だ。
三井物産は、日本への輸入アンモニアの過半を手掛けるうえ、14年まではインドネシアで大型アンモニア工場の運営に携わっていた。これらの事業で培った知見を基に、今後、石炭火力発電所でのアンモニア混焼ビジネスへの参入を検討している(詳しくは「立ち上がる巨大市場『燃料アンモニア』にかける三菱商事と三井物産の勝算」)。
住商・丸紅が豪州の大型プロジェクトに参画
日本企業がかかわる水素の大型実証実験プロジェクトは2つある。1つは三菱商事・三井物産が参画するブルネイの案件(詳しくは「三菱商事と千代田化工の必殺技!水素貯蔵法 :大手商社「水素・アンモニア」の切り札(1)三菱商事・伊藤忠商事編」)。
もう一つが、住友商事と丸紅が参画する豪州のプロジェクトだ。
Jパワー、岩谷産業、川崎重工、川崎汽船も参画
豪州では、不純物や水分が多く、産業用途には向かなかった「褐炭」から水素を製造する。製造後はガスとして沿岸部まで陸上輸送し、港湾施設で液化・貯蔵し、日本へ海上輸送する。製造過程でCCS(二酸化炭素の回収・貯留)技術も併せることを検討する。
この事業では、製造を電源開発(Jパワー)が担い、岩谷産業が水素の貯蔵・運搬の指南、川崎重工が貯蔵・運搬設備を製造、川崎汽船やシェルジャパンが海上輸送を担う。
住友商事は、CCSの技術導入の調整役を担う。
一方の丸紅は、商用化への道筋策定や市場調査を担う。水素をいくら製造しても、需要が無ければ価格は高止まりしたままだ。水素の普及、ひいてはコストダウンをはかるために、日本国内の需要調査、掘り起こしは欠かせない。国内では、ガス火力発電所向けの混焼や、燃料電池自動車(FCV)向けの需要が見込めるという。
仕込み案件数は随一の住商
住友商事のかかわっている水素事業案件数は商社随一だ。
最近でも、1月にオマーンで水素の製造から利活用までを完結する地産地消型の事業調査を開始した。地元石油・ガス開発事業者「ARAペトロリアム」の鉱区内で石油生産時に出る炭化水素から水素を取り出す。年間300~400㌧を生産予定で、鉱区内を走るFCVに活用する。水素生産工程では二酸化炭素が出るが、回収して、ドライアイスなど地場産業向けに販売する。
元々、ARAとは、石油・ガスのトレード(仲介・販売)で取引があった。ARAから「石油精製時に出る炭化水素の利活用はできないか」と相談を受けて、今回の事業を提案した。FCVでの利用という点では、住友商事のクルマ事業の知見が役立った。
マレーシアではエネオスと水力発電由来の水素
マレーシアではエネオスなどと共同で、水力発電由来の電気で水を分解した水素のサプライチェーン構築に取り組む。水素は、トルエンと合成して液化する「有機ケミカルハイドライド法」を用いて輸送する。
水素の貯蔵・輸送では、マイナス253度まで冷却して液化水素にする手法もあるが、特殊な冷蔵設備が必要だ。住商・エネオスが採る手法は、既存の化学タンカーやタンクを利活用できるメリットがある。
水素事業部長の市川善彦氏は「当社としては、できるだけ早く水素のビジネスを本格的に立ち上げたいと考えている。冷却による液化は技術が未だ確立しておらず、技術開発を待っていれば時間もかかる。マレーシアの実証実験では、既存の技術を活用しながら早期にサプライチェーンが構築できる有機ケミカルハイドライド法を選んだ」と説明する。
宮城、福島の水素チェーン構築に乗り出した丸紅
前述のように豪州の水素案件に参加している丸紅だが、国内でも宮城県富谷市や福島県浪江町での水素サプライチェーン構築の実証や事業調査を行っている。
また、燃料アンモニアを日本の石炭火力発電所向けに供給する事業も構想している。
将来はアジアの発電所に水素・アンモニアを売り込む
新エネルギー開発部長の山崎雅弘氏は「将来的には、水素やアンモニアをアジアの既存石炭・ガス火力発電所に売り込むことも考えている」と話す。
同社は水素・燃料アンモニアを、エネルギー本部で一括して取り扱っている。つまり、同じ本部で化石燃料も非化石燃料も取り扱っていることになる。従来の化石燃料取引のある顧客の中には、水素やアンモニアの導入を検討している事業者もいる。
しかし、即時には化石燃料から脱却できないのが現状だ。山崎氏は「顧客の現状やニーズを聞き、化石燃料も供給しつつ、非化石燃料を少しずつ導入するよう提案もできる」と強みを話す。
丸紅は2013年から、全社横断で水素の事業化のアイデアを持ち寄ってきた。現在はエネルギー・金属グループCEOを委員長とする「水素・アンモニア戦略委員会」として、勉強会や情報交換を行っている。
(種市房子・編集部)