新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

資源・エネルギー 脱化石の本命

脱炭素の勝ち組は「石油・ガス会社」!? 国際石油開発帝石が水素と地熱と洋上風力に強いワケ

豪州のLNG事業「イクシス」などで培った海上構造物建設の知見は、洋上風力建設にも役立つ 国際石油開発帝石提供
豪州のLNG事業「イクシス」などで培った海上構造物建設の知見は、洋上風力建設にも役立つ 国際石油開発帝石提供

 石油・ガスの開発・生産を得意とする国際石油開発帝石(4月に社名を「インペックス」に変更予定)が、世界的な脱炭素の流れを受けて、ビジネスを大きく転換する。

 具体策の中には、再生可能エネルギーや水素事業の強化が含まれる。一見、同社の既存ビジネスとは正反対に見えるが、実は親和性の高い領域だ。

排出ゼロの3本柱

 同社は1月、「2050ネットゼロカーボン社会に向けて」と題した事業展開計画を発表した。50年に炭素排出実質ゼロを目指した目標を定める。具体的には

①石油・ガスの開発・生産事業でのCCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)推進

②水素事業の展開

③再生可能エネルギーの強化と重点化--などを盛り込んでいる。

国際石油開発帝石の事業展開計画(同社資料より)
国際石油開発帝石の事業展開計画(同社資料より)

 CCUSの推進については、新潟県で実証実験を進めているうえ、既存の石油・ガス事業で導入も検討している。

水素の原料は化石燃料である

 疑問が出そうなのが、クリーンエネルギーである水素と再エネの推進だ。しかし、実は石油・ガス事業の知見が生かせるのだ。 まず、水素については、生産方法は大きく分けて2種類ある。①天然ガスなどの化石燃料の炭化水素を水蒸気と化学反応させる②水を再生可能エネルギーで電気分解する(グリーン水素)、だ。

 長期的にはグリーン水素の普及が期待されるが、中期的には化石燃料由来の水素を、CCUS技術を組み合わせて生産することが現実的だ。

世界中に持つ石油・ガスの権益

 石油・ガスの開発権益を世界中に持ち、世界の資源会社とも深い関係を持つ同社は、水素の原料である化石燃料を調達しやすい立場にある。これまでは燃料であった石油・ガスを、クリーンエネルギーの原料にするという発想だ。

 具体的には、アラブ首長国連邦で天然ガスから水素を生産し、その水素と空気中の窒素を合成してアンモニアを製造する事業を検討している。アンモニアの製造工程で出る二酸化炭素をCCUS技術によって処理し、「ブルーアンモニア」(製造工程全体では二酸化炭素フリーのアンモニア)とすることを目指す。「ブルーアンモニア」は日本へ輸送し、石炭火力発電所での混焼向けに供給するビジネスも視野に入れる。

二酸化炭素貯留・利用もガス・油田で

 このビジネスで役立つのが、同社の地元開発権益とCCUSの知見だ。CCUSは産業活動の工程で出た二酸化炭素を回収し、地中に埋める、あるいは細り始めた石油・ガス田に圧入して産出量を増やす(増進回収法「EOR」)ことを意味する。

 埋める場所はどこでもいいわけではなく、採掘済みの石油・ガス田が有力だ。アンモニア製造過程で出る二酸化炭素を、自社も参画するアブダビ陸上油田で利用・貯留する意向だ。

「出る油田」当てる知識が役立つ地熱

 では、再エネには、石油・ガス開発・生産の知見はどう生かされるのだろうか。

 再エネのうち地熱発電と洋上風力を重点分野に挙げる。

 地熱発電ではインドネシアでサルーラ地熱発電所の建設・発電事業に参画しており、今後、追加開発を目指す。

 同社が石油・ガス事業で強みを持つのは開発前の「探鉱」だ。地質、地盤を調べ尽くし、試掘用の井戸を掘り、商用化に見合うだけの石油やガスが埋蔵されているかを調べる技術だ。

地熱発電では、石油・ガスの探鉱技術が役立つ(インドネシア・サルーラ地熱発電) 国際石油開発帝石提供
地熱発電では、石油・ガスの探鉱技術が役立つ(インドネシア・サルーラ地熱発電) 国際石油開発帝石提供

地質と資源探査の専門家が多くいる強み

 石油・ガス事業では、上流(モノ・サービスの原料調達領域)から下流(モノ・サービスの供給領域)へ向かって、探鉱→開発→生産→販売と進む。

 一般的に、上流から参画するほど、高リスク高リターンの投資となる。探鉱の権益を獲得しても、十分な埋蔵量が無ければ試験的な掘削や探査投資は無に帰す。

 このため、探鉱の権益を獲得する前から調査する目利き力も必要となる。

 同社には地質や資源探査の専門家が多数おり、探鉱のノウハウが、世界中で石油・ガス田を「当てる」原動力となってきた。地中で熱せられた水を利用する地熱発電の立地選定にも、探鉱の知見が生かされるのだ。

海上構造物の知見を生かせる洋上風力

 洋上風力では、着床式にせよ、浮体式にせよ、海上で構造物を建設し、陸上から遠隔する作業が必要になる。たとえば、暴風雨で風速が一定程度に達したら、風車の羽の角度を操作して不必要に回転しないようにする操作が必要となる。

 同社は、豪州の天然ガス開発「イクシス」に代表されるように、海上で浮体構造物を建設し、資源開発・生産に必要な遠隔操作をする技術には長けている。同社の石井義朗常務執行役員は「再エネは当社の既存ビジネスと正反対に見えるかもしれないが、むしろ得意分野」と話す。

なぜ洋上風力は開発段階から入るのか?

 洋上風力では、他社と協業して、建設だけではなく、運営にも参画する構想を描く。

 一般に、洋上風力事業の参入には

①開発段階から

②建設段階から

③建設済みの案件に途中から参画する、--という3通りがある。

 初期段階から参入する方が高リスク高リターンで、建設済みの案件に途中から入るのは、リスクが低いが参入料が高いと言われる。

 同社は、探鉱、海上構造物建設・操業の知見を生かすためにも、開発段階から参入し、風車の設営、運営にまでかかわり、長期で収益を上げることを目指す。

 ただし、洋上風力には国内外とも、ゼネコン、重工メーカー、商社など多様な業者が参入しており、価格競争も激しい。自社の技術力をアピールできる案件の目利き力が問われる。

(種市房子・編集部)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事