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2022年度大学入試はこう変わる! 北大、京大、金沢大、早稲田、大阪公立、奈良女子…
大阪公立大、奈良女子大・工学部が新設 近畿の併願パターン変化か
コロナ禍にあっても、将来を見据える大学は改革を続けている。大学の統合や学部新設、入試方式など、受験生にとって重要度が高いものも少なくない。2022年度入試(22年4月入学)における注目すべき改革を紹介しよう。
22年度入試で受験生に大きな影響を与えると見られているのは、大阪市立大と大阪府立大の統合により誕生する大阪公立大。12学域・学部からなり、1学年約2800人の定員は、神戸大に匹敵する規模となる。
大阪公立大は、近畿の受験生の志望動向を大きく変える可能性が高い。駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長は言う。
「統合前の2大学の序列は、大阪市立大、大阪府立大の順。特に文系学部では、統合により難易度が上がると、府立大の志望者は出願しにくくなると思います。後期を無くす工学部の影響も大きそうです。後期の受験機会の減少に加えて、大阪大や神戸大など難関大志望者が多く受験する中期の難易度は高い。そうなると、府立大志望者の出願先が制限されます」
大阪公立大の志願者から府立大の志望者がはみ出るため、2大学が統合しても、志願者が大幅に増えて倍率が上がることはないが、文系と理系ともに併願パターンが変わりそうだ。これまでも府立大の志望者は、関西大や近畿大など、近畿の大規模私立大を併願するケースが多かったが、22年度入試ではさらに増える可能性が高い。
工学部志望の女子受験生の併願パターンには、女子大として日本で初めての工学部を設置する、奈良女子大が入ってきそうだ。
「現役志向の強い女子が学費の安い国公立大を目指し、後期まで粘ろうとする時、後期を実施している奈良女子大・工学部は魅力的でしょう。女子受験生の受け皿になって、難化する可能性が高いです」(石原氏)
少数派である女性エンジニアを養成する工学部の設置は、社会の多様性を担保するための重要な改革といえる。
大学改革では、社会のニーズに応えられる人材養成を中心に据えることが多い。そうした中、インバウンド需要の高まりなどを背景とした観光系学部設置の動きもうなずける。ただ、課題は、設置準備中には考えられなかったコロナ禍で、観光産業が疲弊する中のスタートとなること。観光系学部の可能性について石原氏に聞いた。
「25年に大阪万博、26年に愛知・名古屋アジア競技大会などがあることから、コロナ後にインバウンドが回復する可能性が高い。保護者がブレーキをかけるかもしれませんが、将来的に人材が求められている分野であり、観光を学びたいならチャレンジすべき」
22年度は、金沢大が融合学域に観光デザイン学類、國學院大は観光を開設予定だ。両学部の観光に対するアプローチは異なり、金沢大は観光産業を牽引(けんいん)し、新たな観光価値を創出できる人材養成。國學院大は観光まちづくり学科を設置し、観光を中心に据えた持続可能なまちづくりに貢献できる人材養成を目的としている。
観光系同様に、コロナ後の期待感が高いのはグローバル人材を養成する国際系であり、新設する大学も多い。留学が困難になるなど、観光系同様に逆風が吹く系統だが、石原氏は感染状況次第で社会のニーズが変わると見ている。
「年末までにワクチンが行き渡り落ち着いた状況になれば、冷静に自らの将来を考えられるようになるでしょう。グローバル人材は引く手あまたになることは間違いなく、そうなると国際系の人気が戻る可能性がある」(石原氏)
武蔵大が新設する国際教養の経済経営学専攻は、日本にいながらロンドン大との二つの学位が取得できる。同学部には、英語と異文化体験を通じてグローバル人材を養成するグローバルスタディーズ専攻があり、同じ学部でも学ぶ内容が異なる。追手門学院大は既存の国際教養を改組し、経営学などの社会科学系科目を取り入れてグローバル人材を養成する国際と、人文科学に特化した文を開設する。大手前大は総合文化を国際日本に改組する。
コロナ禍で人気加速、情報系新設も相次ぐ
コロナ禍で注目された情報技術が追い風となり、人気が加速した情報系の新設も進む。名城大は、理工学部情報工学科を情報工学部に改組。近畿大は情報を設置し、AI活用やデータ分析、サイバーセキュリティー対策などを担う情報技術者の養成を目指す。
近年、数多く開設されていた系統であり、コロナ禍でさらに注目度が増したのは看護系だ。新設大学では川崎市立看護大。既存の大学では、金城学院大・看護や、兵庫医療大との統合により開設される兵庫医科大・看護がある。
社会にとって有益な人材の輩出に向け、優秀な学生を獲得するために入試改革を進める動きも見られる。教育の質向上のために、学部生の削減を打ち出している早稲田大は、一般選抜の定員を削減。22年度は、文化構想が60人、文は50人減ることになる。「18歳人口の減少に伴い、難関大でも入学者の成績の裾野が広がる傾向にある。定員を絞ることで、学生の質を保とうと考えているのでしょう」(予備校関係者)
定員が減る分、模試の合格ラインが上がる可能性が高い。そのため、早稲田大の文化構想と文を敬遠する傾向が強まると、MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)などの出願状況に影響が出そうだ。
入試の負担を増す大学もある。専修大は大学入学共通テスト利用入試で、4科目型と5科目型を実施。関西学院大は共通テスト利用入試で7科目型を導入する。石原氏は言う。「共通テストで多くの科目を学んできた学生は学力が高い傾向にある。優秀な学生が欲しいという、大学からのメッセージでしょう」
共通テストで多数科目を課す方式は、多くの志願者を期待できない。それでも導入するのは、単に志願者の増加を目指すのではない、優秀な学生の獲得を重視する大学の姿勢の表れと言えそうだ。
受験生が知っておいた方がよい重要な改革を予定している大学が数多くある。コロナ禍で大学の情報が集めにくくなっている困難な時期だが、志望大学や志望する学部系統の情報収集を怠らないようにしたい。