教養・歴史書評

コロナ拡大で国家主義が台頭するなか、未来の資本主義はどこへ?=服部茂幸

『パンデミックは資本主義をどう変えるか 健康・経済・自由』 評者・服部茂幸

著者 ロベール・ボワイエ(フランス米州研究所エコノミスト) 訳者 山田鋭夫、平野泰朗 藤原書店 3300円

危機の下で国家主義が台頭 資本主義はどう変わるのか

 昨年、世界に広がった新型コロナウイルスはいまだ収束の兆しが見えない。この新型コロナがグローバリゼーション、新自由主義、それを支えていた新古典派の経済学の時代を終わらせると同時に、国家を復権させたと論じるのが本書である。

 しかし、復権した国家とはイノベーションを推進するシュンペーターの国家でも、有効需要を管理するケインズの国家でもなく、システミック・リスク(個別のリスクが全体に波及する状態)の回避と起きた際のダメージ回復を保証する国家である。

 ウイルスのまん延は世界的な現象である。しかし、国により優先順位が異なるために、対応も異なると言う。中国とシンガポールは市民の自由を犠牲にし、ウイルスの流行を抑えることによって、素早く経済回復を遂げた。アメリカとブラジルは市民の自由と経済活動を優先し、新型コロナをまん延させた。ヨーロッパは市民の自由と健康を優先させ、経済を悪化させている。けれども、これは短期の話であり、長期的にはウイルスがまん延する国は経済も市民の自由も奪われると評者は考えている。

 評者はこれに日本型を加えたい。我が日本の政権は経済(と五輪とGoToトラベル)を重視している(いた)。けれども、感染の拡大も無視できない。だからといって、中国のように強力な措置でウイルスを封じ込めることもしない。PCR検査やワクチン接種も進まないし、変異株の流入を防ぐために入管を管理することもできない。政策の優先順位をつけられず、有効な政策を打ち出すこともできず、経済、健康、自由の全てが損なわれていくのが、「日本型」である。

 また新型コロナウイルスはヒト・カネ・モノのグローバリゼーションを停止させる半面、ITの発展とグローバリゼーションを加速させている。そして、ITによって中国の国家資本主義が強化される一方で、アメリカではGAFAが支配するプラットフォーム型資本主義が生まれている。

 そのいずれでもない第3の情報を市民がコントロールする資本主義が欧州連合のユートピアと本書は書く。最後の社会は筆者も含め、多くの人がユートピアとするところであろうが、「ユーロピア」と書くこと自体が実現性の低さを示すだろう。

 国家のやることが全て正しいわけではないことも本書は警告する。国家の時代にあって、適切な政策を実施できない国家の将来は暗いだろう。

(服部茂幸・同志社大学教授)


 Robert Boyer 1943年生まれ。パリ理工科大学卒業後、フランスの数理経済計画予測研究所、国立科学研究所等を経て現職。『レギュラシオン理論』『資本主義の政治経済学』など著書多数。

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