中国・内陸部から新興ブランドが続々と登場する理由=岩下祐一
活躍目立つ「90後」のデザイナー 内陸部で新興ブランドが存在感=岩下祐一
成都や武漢など中国の内陸都市で、新興のデザイナーブランドが存在感を高めている。「90後(1990年以降生まれ)」のデザイナーの活躍が目立ち、全国的に影響力を持つブランドもある。日系生地商社にとって、大事な市場になってきた。
内陸都市でファッション産業が最も盛り上がる四川省の省都・成都。主要都市としては最西部に位置し、上海からの直線距離(約1600キロ)は上海~名古屋(約1500キロ)よりも離れているが、都市の総合力では上海、北京、深圳、広州に次ぐ第5位だ。常住人口は2000万人強で、上海(2487万人)に肉薄する。
成都、武漢で続々
成都の小売業の成長は著しい。ラグジュアリーブランドを取りそろえる商業施設「成都遠洋太古里」と「成都IFS」は連日多くの人でにぎわう。太古里の2020年売上高は前年比6・2%増の73億元(約1250億円)、IFSは7・7%増の70億元(約1200億円)で、それぞれ全国8位、10位だった。
成都人はもともと「宵越しの銭は持たない」と言われ、楽観的な気質で消費好きだ。「08年の四川大地震を機に、その傾向がさらに強まった」(地元アパレル企業トップ)とされる。地元政府のコントロールが功を奏し、他都市に比べ不動産価格が抑えられ、市民の住宅ローンの負担は相対的に小さい。国内外のハイテク企業の誘致が進み、外来人口も増えている。
ファッション消費も旺盛で、ハイファッションを集めたセレクトショップが多い。「デザイナーブランドの消費額は全国3位」(成都のデザイナーブランド関係者)と言う。こうした中、「成都発」のデザイナーブランドが盛り上がりを見せている。
成都出身の「90後」の男女2人組が立ち上げた高級レディース「SHUSHU/TONG」は、中国で最も売れている地元デザイナーブランドと目されている。成都発の「潮牌(チャオパイ=モードストリートブランド)」の「1807」は、ヒップホップの地元ミュージシャンとのコラボレーションで全国的に知名度を高めている。
中部の中心都市で、新型コロナウイルス感染が最初に広がった湖北省武漢でも、同じ動きがみられる。90年代から「漢派」と呼ばれる地元レディースブランドが存在したが、近年は低迷する漢派をよそに、90後が新しいブランドを立ち上げている。「潮牌を中心としたブランドが次々に登場している」(地元ブランドのトップ)。
「地元発」ブランドが盛り上がる要因として、 「国潮(グオチャオ)」トレンドも挙げられる。消費者がデザイン性と品質を高めた地場ブランドを評価し、国産ブランド熱が高まっている。
日系生地商社のサンウェル、双日ファッション、植山織物、桑村繊維の4社は5月中旬、武漢市内で初めて合同展を開いた。来場者数は低調だったが、複数の新興ブランドが来場し、熱心に商談する姿がみられた。最大手のスタイレム瀧定大阪も6月下旬に、成都で個展を初開催する予定だ。
日系繊維企業が内陸都市で展示会を開いたのは、今回が初めてとみられる。沿海部の大都市だけでなく、内陸都市も重要な市場になってきた。
(岩下祐一・「繊維ニュース」上海支局長)