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東京五輪 菅、小池も止められぬバッハ“戒厳令”下の「五輪やれ」〈サンデー毎日〉

来日したIOCのトーマス・バッハ会長
来日したIOCのトーマス・バッハ会長

 英国G7の村は感染者2450%増

〝五輪の帝王〟が満を持して来日だ。IOCのトーマス・バッハ会長だ。時には傲慢とも取れる発言で物議を醸したトップの来日は強行突破のゴーサインか。競技会場が集中する首都圏に感染再拡大の兆しが見えている中、東京五輪の扉をこじ開けるのか。

 7月8日は東京五輪を左右する日になりそうだ。

 まず国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が来日する。

 5月中旬に広島県での聖火リレーに合わせて来日し、同17日の広島市でのリレー式典に出席、翌18日には菅義偉首相や大会組織委員会の橋本聖子会長と会談する方向だった。だが、東京都では3度目となる緊急事態宣言が5月末までに延長され、組織委は来日延期を発表した。6月の来日も模索されていたが、宣言が解除されたのは6月20日。バッハ氏は今回の来日後、五輪閉会まで滞在する予定だ。

 IOCは5月、日本国民のひんしゅくを買っていた。同月21日、東京五輪の準備状況を監督する立場のジョン・コーツ調整委員長が、組織委との合同会議後の記者会見で、緊急事態宣言下でも五輪を開くかと問われ、「答えはイエスだ」と明言した。五輪による感染拡大と地域医療圧迫への懸念を逆なでするような発言は、開催を疑問視する声も根強い中、日本国内で猛反発を食らった。

 翌22日にはバッハ会長が国際ホッケー連盟のオンライン総会で、五輪を開催するには「我々は犠牲を払わなければならない」と述べた。ホッケーが盛んなインドのPTI通信が報じたが、「犠牲」を求める対象は「日本国民に対してなのか」と反発を招き、IOCの広報担当者は「日本国民にではなく、五輪関係者、五輪運動に向けた発言」と火消しに躍起になった。

 前述のコーツ氏は6月15日に来日し、大会関係者には特例の3日間を上回る7日間の〝隔離生活〟を終え、同23日から競技会場などの視察を始めている。バッハ氏は7月12日の来日を8日に前倒しし、五輪特例の3日間の隔離生活を終え、12日からは国内を動き回れる形になる。

 バッハ氏はコーツ氏とともに広島、長崎と被爆地を訪問する方針だ。ただ、被爆者からは、今なお開催に賛否が割れる五輪に突き進むIOC幹部を「歓迎できない」との声も上がる。

 7月8日は日本側も「山場」を迎える。

 政府は五輪の競技会場が集中する東京をはじめ埼玉、千葉、神奈川の1都3県などのまん延防止等重点措置を解除するかどうかを判断する見通しだ。一方、東京都内は感染が再拡大の局面に入っている。そんな中で政界の〝キーマン〟たちが五輪の無観客開催論を唱え始めてきた。

 観客については6月21日、組織委と日本政府、東京都、IOC、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者による5者協議で、上限については「会場定員の50%以内で最大1万人」と決まった。

 だが、7月1日、現政権に近いとされる政治ジャーナリストの田崎史郎氏が、フジテレビ系の番組で政府の内閣官房と綿密に連携を取っている組織委の話として次のように述べた。

「まん延防止措置では無観客開催はない」「その延長であれば(会場定員の)50%、(観客上限は)5000人」

 まん延防止措置の場合は、観客上限を5000人に引き下げるというわけだ。

 一方、政府与党として自民党と連立を組む公明党の山口那津男代表が同日、次のように述べた。

「無観客も視野に入れ、(政府には)機を逃さず国民に発信してもらいたい」 そして、翌2日。東京都の小池百合子知事が過労による静養明け後、初めての記者会見でこう語る。

「これからも感染状況を注視しながら、どのような形が良いのか無観客も軸として考えていく必要がある」

 政府内には無観客を「最後の手段」とすることで、感染再拡大による中止論を打ち消そうという狙いもある。7月8日にはバッハ氏も来日し、小池氏も公務に復帰しており、〝役者〟はそろう。2日時点で東京都の新規の感染者数は13日連続で、前週の同じ曜日を上回り、〝第5波〟の到来が懸念され、4度目の緊急事態宣言発令も取り沙汰されてきた。首都圏でのまん延防止措置が延長されれば、政府や都、IOCは8日に、5者協議で観客数の再検討をする方針だ。

 無観客でも〝貴族〟は特別扱い?

 ただ、無観客といってもどんな形なのか。昨年3月に開催され、テレビ中継では力士や行司、勝負審判だけが映し出され、粛々と取組が進んだ大相撲春場所のような「純粋な無観客」となるのだろうか。

 前出の田崎氏は1日のテレビ出演で、無観客開催についてこう語った。「無観客としても実際に開会式の時に観客はいる。つまりIOC関係者の方が数千人入る。他(の競技会場)でも同じことが生じる。IOC関係者は入っている、日本人観客は入れない。それもかなり切ない」

 IOC関係者も入れない無観客についてはどうか。

「IOCが(関係者を)説得できないでしょうね」

 要は、何があってもIOC委員らは競技会場に入ることができ、自ら「オリンピックファミリー」と称する〝IOC貴族〟は特別扱いするというのだ。

 しかし、国民すら会場で観戦できない五輪をIOC貴族は観戦できる。感染再拡大が現実味を帯び、首都圏を中心に五輪のため〝不便〟も強いられる国民は、そんなスポーツの祭典に納得できるのだろうか。

 まず大会期間中、首都圏は厳戒態勢となる。

 組織委は6月24日、競技会場などの警備に当たる民間警備員を1日最大で約1万8100人を確保したと発表した。大会前後を含めると陣容は延べ約60万1200人に達する。警視庁は警備規模を明らかにしていないが、既に全国の警察から集められた特別派遣部隊は都内に入っている。

 今回、海外からの観客は受け入れない。テロ情勢・対策に詳しい公益財団法人・公共政策調査会(東京都)の板橋功・研究センター長は「観客数が減り会場周辺の混雑が緩和されたり、パブリックビューイングなどの関連イベントや事前合宿の多くが中止になったりしているので、テロ対策は〝楽〟になったとは言えます」と指摘する。

 ただ、警戒が不要になったわけではない。

「競技会場以外の場所でも注意が必要です。近年のテロでは駅や観光地、集客施設などの『ソフトターゲット』と言われる場所は狙われやすい。また首相官邸、原子力発電所といった重要施設は当然、警備を強化するでしょう」(板橋氏)

 「G7は五輪の後の日本を暗示」

 五輪では観客や関係者が競技会場などに入る際、金属探知機を使った空港並みのセキュリティーチェックが課される。1996年アトランタ五輪では競技会場周辺で2人が死亡する爆破事件も起きており、テロ対策として会場周辺は物々しくなる。『広辞苑』には「警戒を厳にすること」を「戒厳」とある。正に戒厳令の五輪となりそうだ。

 一方、首都高速道路などにはバスのマークの下に「TOKYO 2020」と書かれた標識や、青地に「TOKYO 2020 専用」などと記された標識が掲げられ始めた。これは、五輪の輸送ルートであることを示し、選手や大会関係者の車両が優先・専用であることを示す標識だ。

 しかも「優先レーン」は大会関係車両に道を譲らなければならず、「専用レーン」は一般車の走行が禁止される。違反すれば1点減点、反則金6000円だ。また、関係車両の主要な通行ルートとなる首都高は五輪とパラリンピックの大会前後の期間中、午前6時~午後10時の利用料金が1000円上乗せされる。

 都オリンピック・パラリンピック準備局によると、都内の交通量は一時減ったが、今ではコロナ前に戻っている。同局担当者は「車で移動した方が密を避けられると考えているのか、タクシーやバスに比べ、乗用車の割合が多くなっています。現状の交通量を見ても、従来通りに専用、優先レーンは必要になります」。コロナ禍をへても五輪レーンは設置される予定だ。

 政府は人流対策や交通混雑緩和を目的に、大会中のテレワークを推奨しており、6月には日本経団連など経済3団体に協力を呼び掛けている。見方によっては五輪による感染拡大を防ぐための「禁足令」「外出禁止令」だろう。このように首都圏の住民を中心に東京五輪は、さまざまな不便や我慢を強いるのだ。

 さらに、国際イベントと感染の拡大について、心配なデータもある。6月11~13日に2年ぶりに対面で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の舞台だった英国のコーンウォール地方で、サミットと前後して新型コロナの感染者が急増したというのだ。

 英BBCによると、6月16日までの1週間でコーンウォールの感染者数は10万人当たり131人に達し、同じ期間の英国全体の平均の10万人当たり90人を大きく超えた。コーンウォールの感染率が英国平均を上回ったのは、検査体制が拡大された2020年5月以降で初めてのことだった。

 英国政府は感染者急増とサミットの関連を否定している。だが、感染症に詳しい関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「五輪後の日本を暗示するような出来事です。『現実』を突きつけられた」と語る。

 地元メディアによると、新規感染者は同13日までの1週間で、会議会場に近いセントアイヴスで、直前の1週間より2450%増えた。同地方には警察官6500人の他、各国の代表団やメディア、抗議デモ隊も集まったという。

「東京五輪に置き換えると『G7の首脳=選手』『首脳のお付きやG7取材のメディア=大会関係者や五輪取材のメディア』というふうに考えられます。今回、首脳たちは感染していません。五輪でも選手たちはしっかりと検査や対策をするでしょう」(勝田氏) 問題は「首脳=選手」以外の人たちだ。

「全員の対策をきちんとできるかといえば難しいでしょう。(組織委などは大会関係者への)国外退去や参加資格はく奪など規則違反に対する厳しい措置を示していますが、さまざまな価値観を持った各国の関係者の行動を監視するのは容易ではない」(同)

 「無観客開催の判断は日本次第」

 しかも、英国と日本ではワクチンの接種状況はかなり違う。オックスフォード大の研究者らが運営する統計サイトによると、英国は6月30日時点で人口の48・68%が2回目の接種まで終えている。対して日本は、首相官邸のホームページによると7月2日時点で2回目まで接種を受けたのは人口の19・53%。ここにきて、政府からのワクチン供給が減り、接種予約を中止するケースが相次ぐ。

 パラリンピックと合わせて約9万人超が来日する五輪。3日間だったサミットに対して期間は計45日間。前述の通り、警備の人員も桁違いだ。国内のワクチン不足も顕在化している中、やはり五輪による国内の感染拡大の懸念は拭えない。

 では、東京五輪は、どのような形で開かれるのだろうか。東京都職員として16年東京五輪招致に携わった鈴木知幸・国士舘大客員教授は、かねて無観客開催を提唱してきた。ここまでの有観客開催の方針については、こう分析する。

「バッハ会長は、無観客開催は可能だと言っていますし、判断は日本側に委ねられています。無観客にしないのは、チケット収入という金の問題のほかに『観客のいないスポーツイベントなんてあり得ない』という1964年東京五輪を経験した長老たちの意識が根強いように感じます」

 カギは日本側が握っているようだ。

 バッハ氏は閉会式で「世界で何億人がテレビで五輪を見た」と胸を張るのだろうか。一方、菅義偉首相は五輪を「子どもたちに夢や感動を与える機会」と開催の意義を強調してきた。

 だが、子どもたちはコロナ禍で保護者らにも見てもらえない運動会を経験してきた。スタンドに〝IOC貴族〟だけが陣取る開会式や競技会場の映像は、どう見えるのだろうか。この壮大な〝矛盾〟を説明できない限り、東京五輪は「虚飾の祭典」と言わざるを得ないだろう。

「サンデー毎日7月18日号」表紙
「サンデー毎日7月18日号」表紙

 7月6日発売の「サンデー毎日7月18日号」は、他にも「新型コロナ 打ち手不足のワクチン現場」「前川喜平180分インタビュー『赤木ファイル』を解読する」などの記事も掲載しています。

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