教養・歴史書評

イラスト満載でこれからのAI社会を考えるユニーク本=柳川範之

『絵と図でわかる AIと社会 未来をひらく技術とのかかわり方』 評者・柳川範之

著者 江間有沙(東京大学未来ビジョン研究センター准教授) 技術評論社 2200円

満載のイラストが問いかける 我々の価値観と社会のこれから

 AI(人工知能)に対する関心の高まりの結果か、ちまたには、多くのAI関連書籍が出版されている。が、その中でも、本書はかなりユニークだろう。かわいらしいイラスト満載で、「絵と図でわかる」という副題が付いていて、子ども向けの本と誤解されそうなくらいだ。

 しかし、中身はかなり本格的だ。AIに関する基本的な内容が、分かりやすく説明されていると同時に、AIと社会がどう関わっていくべきなのかが、重要な論点ごとにしっかりと整理されている。

 前半部は、AIに関する基本的な解説。AIと機械学習の関係、精度とリアルタイム性のトレードオフ(相反関係)といったテーマがイラスト付きで解説されていて、AIに関する基本やポイントを手短に理解したい読者には最適だろう。それだけでなく、「敵対的生成ネットワーク」や「転移学習」といった専門用語も、分かりやすく解説されている。

 とはいっても、本書の真骨頂は、やはり社会との関わりを議論している後半部だろう。

 AIが発達してきたことで、さまざまな社会的課題が生じていることは既に広く知られている。例えば、データ活用とプライバシー保護の問題は政策的にも大きな課題になっているし、「ディープフェイク」と呼ばれる本物と見分けがつかないような偽の画像や動画を作り出してしまう問題もニュースなどで取り上げられる。

 あるいは、人命に関わる究極の選択を迫られる場面で、AIはどのように判断するべきかといった課題も、自動運転車などに実装するうえではすぐに直面する。

 これらの課題から見えてくるのは、単純に技術の問題ではなく、我々人間あるいは社会の価値観が問われているということだ。AI技術を手に入れたことによって、改めて組織や社会のありようを考える必要性が生じている。これが、本書の大きな問題意識であり、「AIというレンズを通して、今の私たちの社会の課題や私たちが持っている偏見、生活や仕事のあり方を見つめなおしてみようと試みて」いるという冒頭の言葉が、本書の狙いを雄弁に物語る。

 本文中では、誰がAIを開発し評価するのか、機械に何を任せるかなど、我々の社会がまさに今、問われている課題がしっかり議論されている。単に課題を挙げるだけではなく、AIをどううまく活用していくことで、これらの課題に対処できるかという技術側での対応の仕方について議論しているのも特徴的だ。

(柳川範之・東京大学大学院教授)


江間有沙(えま・ありさ)

 現職のほか2017年から国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員等も兼務。科学技術社会論が専門。著書に『AI社会の歩き方』など。

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