投資の達人に聞く⑤野村AM「情報エレクトロニクスファンド」(中)「銘柄の的中率×長打力」で好成績上げる運用責任者の投資哲学
福田さんは2014年、情報エレクトロニクスファンドで当初の目標である基準価額1万円の回復を達成したあと、2000年2月18日に付けた分配金再投資後の高値(2万2713円)の更新を次のゴールに設定した。
福田さんは、この高い目標を達成するにあたって、次のようなビックピクチャーを描いた。
「IoT社会の実現」
ベースにあるのが、「今は、IoT社会の実現に向けて、世界的に大きなイノベーションの流れの中にある」という経済・社会に対する認識だ。IoT社会は、一言でいうと、人に限らず、様々なモノがインターネットでつながる社会。その実現に向け、まず、①5Gなどの通信インフラ、再生可能エネルギーなどを含めた電力インフラといった、社会のネットワークインフラの整備が進み、②スマホなどのIT関連デバイスが世間一般へ広く普及し、③最後に、これらの社会インフラやデバイスをベースに、コンテンツやサービスなどの第3次産業が勃興する――という経路をたどると予想した。
こうした変化は日本だけでなく、世界中で進行している。従って、「変化に貢献できる企業、事業機会として成長につなげていける企業には、大きな投資魅力がある」(福田さん)という理屈だ。
アドテスト、ソニー、村田製に投資
福田さんは、現在は、「IoT社会の実現に向け、第1段階の通信や電力インフラの整備か、もしくは、第2のIT関連デバイスの一般への普及のステージにある」と見る。
それがファンドの具体的な銘柄選定に反映されたのが、半導体関連ではHOYA、ディスコ、アドバンテスト、電子部品関連でソニー、村田製作所だ。例えば、半導体検査装置におけるアドバンテストの世界シェアは55%、イメージセンサーにおけるソニーのシェアは53%、積層セラミックコンデンサにおける村田製作所のシェアは40%といずれも、各分野で高い国際競争力を有している。
半導体市況底入れで組み入れ銘柄上昇
2019年は、半導体市況の底入れが年の前半にあった。そのタイミングで、その前から組み入れていたアドバンテスト、ディスコ、HOYAなどの半導体関連銘柄が上昇した。この結果、情報エレクトロニクスファンドは、19年12月に2000年2月の分配金再投資後の高値を更新し、「2011年に運用を引き継いだ時の十字架からようやく解放された」(福田さん)。ファンドの年間上昇率は49%とTOPIXの18%や類似ファンドの27%を上回り、モーニングスターの「最優秀ファンド賞」を受賞した。
2年連続の最優秀ファンド賞
翌2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で巣ごもり消費が広まる中、福田さんの思い描くIoT化の流れが一段と加速した。任天堂やソニーなどのゲーム関連銘柄のほか新光電気工業、村田製作所の半導体関連、ジーエス・ユアサ・コーポレーションの蓄電池関連銘柄が上昇し、ファンドの年間上昇率は37%と類似ファンドの18%を上回り、2年連続で「最優秀ファンド賞」を受賞することになった。
「社会のIoT化」という大きなテーマを見失わずに、銘柄選択を続けたことが、2年連続で好成績を実現する原動力になった。
「銘柄の的中率×長打力」
しかし、このような社会や経済のデジタル化は、福田さんだけでなく、多くのライバルファンドマネージャーも認識しているはずだ。運用成績の差は、どこから生じるのか。ここに福田さん独自の運用哲学が生かされている。
福田さんは、ファンドの運用成績は、「銘柄の的中率」×「長打力」で決まると話す。
「銘柄の的中率」とは、組み入れ銘柄のうち、市場平均(インデックス)をアウトパフォームする銘柄の割合だ。「長打力」とは一つの銘柄の上昇率を示す。
投資対象は30~40銘柄に絞る
数多くの市場参加者が存在する中で、「銘柄の的中率」ではなかなか差が付きにくい。差が付くのは、「長打力」だ。だから、「この銘柄にホームラン級の上昇ポテンシャルがあると判断した場合は、メリハリを付けて、保有ウエイトを高めて、思い切って勝負しないといけない」。情報エレクトロニクスファンドの組み入れ銘柄数は30~40と少数精鋭だ。
ホームラン銘柄とはどのようなものか。株価は、一株利益(EPS)×株価収益率(PER)で決まる。ホームラン級の株価上昇には、EPSが増えるだけでは駄目で、PERの上昇も欠かせない。例えば、成熟株、バリュー株とみなされている銘柄が、新規事業の開拓や業態転換で、成長株、グロース株に変化する際に、EPSと同時にPERも大きく拡大する。
銘柄選択については、長年のアナリストの経験から、「大抵の銘柄の収益構造は知っているので、企業調査部のアナリスト(24人)から付加的な情報をもらえば、正しい判断はできる」(福田さん)。
少ない「売りのアイデア」
ただ、「買いのアイデアは数多くあるが、売りのアイデアは少ない」。利益確定売りの誘惑に負けずに、勝負から降りない。保有銘柄の売りタイミングは自分で考え、実行する。これらが、全部うまくいって、「初めてホームランが打てる」と福田さんは話す。
今年に入って、福田さんが注目しているのが、日立製作所だ。2月の末から買い増しはじめ、6月末の組み入れ比率は8・9%とファンド内で1位となった。評価したのは、日立が進めてきた事業の再構築だ。日本企業はM&A(合併と買収)をする際に、買いは良くするが、売ることはあまりせず、シナジーの薄い事業を抱え込んでしまう場合が少なくない。それに対し、日立は、売りと買いの両方を組み合わせながら、バランスシートを膨らせることなく、事業ポートフォリオを大きく変えてきた。
日立製作所の「事業再構築力」に注目
7月には、米IT企業のグローバルロジックを1兆円で買収し、IoT事業を強化した。これにより、日立の事業ポートフォリオは、①欧州を中心とした鉄道事業、②IoTの独自基盤「ルマーダ」を中心としたITソリューション事業、③ホンダとの合弁「日立アステモ」を通じた自動車部品事業――の三つに大きく集約された。
これで、シナジーの薄い日立建機を売却すれば、再構築は総仕上げとなる。「いよいよ、新生日立がベールを脱ぎ、投資家もその成長力を株価に織り込むタイミングに入った」と福田さんは、高い期待を寄せる。
(稲留正英・編集部)
((下)に続く)