投資の達人に聞く⑦JPモルガンAM「JPMザ・ジャパン」(上)設定来リターンは633%、「歴史、アクティブ、社会貢献」で日本株に長期コミットする
世界最大級の金融機関JPモルガン・チェースグループの運用会社JPモルガン・アセット・マネジメントが運用する代表的な日本株ファンドの一つが、「JPMザ・ジャパン」だ。投資対象企業の規模や業種にかかわらず、①利益成長性が高く、②株主を重視する企業――をボトムアップ(個別銘柄の発掘)で組み入れていくのが運用方針だ。設定は1999年12月で運用期間は20年を超える。
過去1年間のリターンは40%
投信評価会社モーニングスターによると、直近の純資産額は626億円。過去1年間のリターンは39・88%で、ベンチマークとなるTOPIX(東証株価指数)の24・69%を大きく上回った。「中型グロース」に分類される81ファンドの中で、運用成績は5位に付ける。過去10年間の平均では年率13・6%、99年12月の設定来のトータルリターンは633・49%とTOPIXの75%を大幅に超えている。
この「JPMザ・ジャパン」の運用を担当しているのが、JPモルガン・アセット・マネジメント株式運用本部の中山大輔・ポートフォリオマネージャーだ。93年から日本株運用に携わっているベテランだ。
中山さんによると、JPモルガンの日本株運用のキーワードは、「歴史、アクティブ運用、社会貢献」の三つに集約されるという。
日本株運用は1969年から50年以上
第一の「歴史」だが、実は、JPモルガンと日本の関係は戦前にまでさかのぼることができる。日本政府が1923年の関東大震災の翌年に発行した震災復興公債1億5000万ドルを、同社が引き受けたことが始まりだ。
一方、日本株の運用面では、香港を拠点にかつて存在した投資銀行ジャーディン・フレミングが源流となる。日本株の運用は1969年8月設定の香港籍のファンドから始まり、2000年にJPモルガン・チェースがジャーディン・フレミングを買収して、現在の運用体制となっている。香港籍のファンドは現在も運用を続けており、1969年8月から2019年8月までの上昇率は6800%とTOPIXの1700%の4倍という。
数多くの外資系金融機関が日本株運用への参入と撤退を繰り返すなか、JPモルガンは一貫して、日本株運用への関与を継続してきた。「特に1990年代以降の日本の景気低迷の中でも、日本株にチャンスを見出し、日本市場にコミットしてきた」(中山さん)。
日本株の成長力を見抜く
二つ目のキーワードは、「アクティブ」だ。アクティブ投資による銘柄選択で、日本企業の長期的な成長をとりこむ運用を目指す。同社は「長い歴史観や哲学の中で、アクティブ運用や銘柄の選定に非常に多くの人材やリソースを割き、ノウハウを蓄えてきた」という。
例えば、日本全体の小売りが低迷する中でも、セブンイレブンやニトリ、ユニクロ(ファーストリテイリング)、良品計画など、米国株よりも高い成長率を実現する銘柄は数多く存在する。こうした銘柄に注目することで、日本株でも米国株を上回る投資収益を目指し、実際に高い運用成績を実現してきた。
三つめが、「社会貢献」だ。社会課題の解決や、社会ニーズに応える日本企業に投資することで、「世の中を良くしていく」という考えを示す。
古くは近江商人の「三方良し」の精神、あるいは松下幸之助の「企業は社会の公器」という言葉もある。現在ならESG、SDGs経営だろう。社会に貢献する企業の資金調達の橋渡しをすることで、企業、ファンドの受益者、JPモルガンにとり、「三方良し」の関係構築を目指す。
各ファンドマネージャーに大きな裁量
日本株の運用拠点は、東京と香港にあり、東京にファンドマネージャーが8~9人、香港に3人いる。徹底的なボトムアップリサーチにより、株式運用本部の他のメンバーも含めた、日本企業の訪問件数は2020年実績で延べ4500件に上る。取材もファンドマネージャー全員が業種にこだわらずに行っている。「例えば、電気自動車だったら、自動車セクターを見るだけでなく、個人個人が業種横断的に、広範に見ている」(中山さん)。
このように、各人がかなりの裁量権を持って、銘柄のリサーチから運用戦略、個別のポートフォリオ構築などを、自主独立的な意識のもと、行っていることが大きな特徴と中山さんは話す。
もちろん、世界中で1100名に上るJPモルガングループのアナリストやファンドマネージャーなど運用専門家の知見を活かせることは、大きなアドバンテージだ。「共通のリサーチノートのプラットフォームがあり、何か銘柄を調べたい時に、海外の競合会社の状況とか、その投資判断などの情報にはいつでもアクセスできるし、直接、海外の担当者に質問したり、議論もできる。これは非常に大きなリソース」(中山さん)。
個性的な組み入れ銘柄
そうした「極めて、機動的で自由な空気感」を反映し、「JPMザ・ジャパン」は、かなり運用の自由度の高いファンドになっている。「過去20年間の歴史を見ると、小型株だらけになった時もあるし、大型株の比率がかなり高い時もあった。我々は、その時々の最も革新度や利益成長力が高く、株価のリターンが期待できる企業に投資する。広範なアイデアを探り、アンチコンセンサスな投資もする。だから、組み入れ銘柄は非常に個性的。日本株市況が悪い中でも、大きなリターンを生んできた」という。
それでは、この自由度の高い運用は、昨年の新型コロナウイルスの感染以降の相場の中で、どのように実力を発揮したのか。
コロナ相場でIT、DX銘柄が寄与
実はコロナによるパンデミック(感染爆発)が起こる前から、「低金利の時代においては、IT、DX(デジタルトランスフォーメーション)、Quality of Life(エンターテイメントやヘルスケアなどの付加価値系領域)へのニーズが上がっていくと考えた」(中山さん)。また、世界的な景気回復期との見方から、マーケットも堅調な方向を想定していたという。
コロナによる混乱で、昨年の年初来数カ月は極めて強い不透明感の中で運用に逆風が吹いたが、そうした中でも、上記の投資スタンスを貫いた。
そうした中、DX系では、ソフトウエアの不具合のテスト・検証を行うSHIFT、ICパッケージ基板大手のイビデン、電子契約サービス「クラウドサイン」を手掛ける弁護士ドットコム、シリコンウエハやガラス搬送機など半導体関連装置製造するローツェへの投資が、ファンドの運用成績上昇に貢献。また、巣ごもり消費関連や「リデュース・リユース」のESG観点で投資したメルカリもパフォーマンス向上に寄与したという。
巣ごもり消費で東京都競馬が伸びる
5月末時点で組み入れ比率1位の東京都競馬は、自由な発想の「ザ・ジャパン」ならではユニークな銘柄だろう。
元々は、2013年の政権交代でアベノミクスが始まった時に、同社のある大井競馬場が、羽田、リニア新幹線が開通する品川、港湾地区と首都の交通拠点のど真ん中にあり、その不動産価値や再開発への期待から、投資を開始した。また、全国の地方競馬が過去10年間2ケタ成長を続ける中、全国の地方競馬の馬券が購入できる同社のインターネット投票システム「SPAT4」が伸びている。コロナで巣ごもり消費が強まる中、競馬が「デジタルとリアル」を融合した娯楽コンテンツであることも評価され、コロナの発生以降、株価は堅調に推移しており、ファンドの運用成績上昇に寄与した。
一方で、「ザ・ジャパン」では、DXやITなどのグロース株だけに投資していたわけではなく、資源や海運などのバリュー株投資にも力を入れた。その根底には、「循環と相対」の流れを重視する投資アイデアがあるという。それは、具体的には、どのようなものなのか。
(稲留正英・編集部)
(続く)