仏シトロエンの80万マイクロEV登場で塗り替わる欧州の自動車地図
欧州の底力 自動車地図を塗り替える「マイクロEV」の威力=土方細秩子
2020年に発売され話題を呼んだ仏シトロエン社のEV「アミ」。6000ユーロ(78万円)という手軽な価格と14歳から免許証無しで運転可能(仏国内のみ)であるため若者を中心に人気となった。
シトロエンは今年6月、アミの商用バージョンである「マイ・アミ・カーゴ」を発売した。
アミと同じ全長2・4メートル、幅1・4メートルのコンパクトなボディーに、最大で140キログラムの積載能力を持たせ、「都市などでのラストマイル・デリバリー・ソリューション」、つまり、届け出先までの数キロ程度の短距離の移動手段として提供していくという。
マイ・アミ・カーゴはアミとスペック的にはほぼ同じで、航続距離は70キロ。ただし充電は3時間ほどで完了する。最高時速は45キロで、いわゆるNEV(ネイバーフッドEV、低速の小型車両)というカテゴリーだ。
しかし、シトロエンでは「普段の生活で人が運転する距離は十分カバーできる。都市部の宅配、メール配達などの需要にも対応できる」としている。
同社では特に首都パリのような道路の狭い都市中心での配達を想定しており、カラフルなアミの姿が新しいパリの風物詩になるかもしれない。
世界中から引き合い
欧州では今、アミのような1人または2人乗りの「マイクロEV」を提供するベンチャーが増えている。
日本と同様に道路が狭く渋滞が多い、という都市部の道路事情に合わせた、小回りの利くパーソナルモビリティーが今後主流になる、という考え方だ。
その中で特に目を引くのがスイスに本社を置くm-cro(マイクロ)社の「マイクロリノ」だ。社長のウィム・オートバー氏が、オリバー、マーリンという2人の息子と一緒に自宅で設計を始めたその小型EVは、1950年代に販売された独BMWの「イセッタ」に似たデザインで、フロント部分を横開きにして乗り込むというスタイル。m-croは元々、キックスケーターを作っていたのだが、それを発展させた都市型のマイクロモビリティーのリサーチを始め、たどり着いたのがマイクロリノだった。
ウィム氏は「人が通常運転する距離は都市部では平均30キロ、1台の車に乗るのは1~2人。都市部での平均運行速度は時速35キロ。必要最小限のニーズを満たし、デザインでも魅力ある車を作りたかった」と語る。
こうして生まれたマイクロリノは、全長2・4メートル、幅1・5メートルの2人乗りで、航続距離は125キロ(電池を二つ搭載したモデルは200キロ)。コンパクトなボディーながら最高時速は90キロで、充電に必要な時間は4時間。価格は1万2000ユーロ(約156万円)。
マイクロリノは2016年にジュネーブモーターショーにプロトタイプとして出展したところ反響が大きく、すぐに500台もの予約が入ったという。その後製品化が遅れていたが、ドイツのメーカーと提携し、今年中にも販売の予定だ。レトロモダンなデザインの魅力から世界中から引き合いがあり、特に中国、台湾が興味を寄せている他、米国の一部の州からカーシェアリング用に注文が入っている。
ドイツで注目の2社
e.Go(イー・ゴー)社はドイツのマイクロEVベンチャーで、早くも世界に展開している企業だ。設立は15年で、ドイツアーヘン大学のギュンター・シューハ博士が「魅力的で耐能性の高い都市型EVを生み出したい」という考えから発進した。
同社EVの「e.Go(イー・ゴー) Life(ライフ)」は、全長3・35メートル、幅1・75メートルと2人乗りとしてはやや大きめで、最高時速も122キロと高速道路を走ることを前提に作られている。乗り心地、スピード、快適さに注力したモデルと言える。
航続距離は125キロ(市街地のみは171キロ)。価格は2万ユーロ(260万円)から、とやや高めだが、インテリアにはコネクティビティー設備なども付き、小さいながらも普通乗用車並みの内容となっている。同社はすでにメキシコ企業と提携し、メキシコ国内に工場を建設、同国での販売を開始する予定だ。
さらにe.Go社は自動運転の小型シャトルバスも製造しており、仏ナビヤ社や仏EZマイル社などと並んで自動運転マイクロモビリティーの分野にも進出している。
ドイツでは今年7月にピックアップトラック型のEV「XBUS」の販売を開始したエレクトリックブランズ社も注目されている。同社の設立は17年で、わずか4年で製品化、というスピード感が魅力だ。
XBUSの価格は1万5800ユーロ(205万円)からで、オプションには小型ピックアップトラック、小型ミニバン、貨物デリバリー、キャンピングカーも用意されている。昨年7月にコンセプトが発表され、8000台以上の予約注文が入っている人気車種だ。ソーラー充電モジュールを組み込むと最大で370キロ走行できるという。単にEVを作るのではなく、モジュールとして組み合わせることでさまざまな用途に利用できるライフスタイルカー、というのが同社のコンセプトだ。エレクトリックブランズ社のEVは米国でもオンラインで予約が可能で、小さな多目的車としてEVピックアップが人気の米国でもシェアを伸ばす可能性がある。
欧州発のユニークなマイクロEVは、これからの車社会を変革するパワーを秘めている。
(土方細秩子・ジャーナリスト)