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投資・運用 投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く⑨JPモルガンAM「JPMザ・ジャパン」(下)日本の地政学的な立ち位置が30年ぶりに転換、日本株の黄金時代が再び始まる

JPモルガン・アセットの中山さんは、30年ぶりに日本の地政学的な立ち位置が良くなると予想する (同社提供)
JPモルガン・アセットの中山さんは、30年ぶりに日本の地政学的な立ち位置が良くなると予想する (同社提供)

 JPモルガン・アセット・マネジメントの中山さんは、学生時代から、株式運用の仕事に就きたいと考え、信託銀行か生命保険会社への就職を希望していた。大学で経済学を専攻後、1993年に日本生命保険に入社。希望が通り、株式部に配属された。その後、年金運用部や、ニッセイアセットマネジメントで経験を重ね、2005年にJPモルガン・フレミング・アセット・マネジメント・ジャパン(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に転職。28年間、運用の世界に関わっている。

ひふみ投信の藤野英人氏らと「哲学」を共有

 ジャーディン・フレミング出身のファンドマネージャーには、ジョージ・ソロス氏から日本株運用を任され70代の現在も第一線で活躍するシオズミアセットマネジメントの塩住秀夫氏や、「ひふみ投信」のレオスキャピタルワークスの藤野英人さんら、業界の著名人が多い。中山さんは、藤野さんと仕事で重なったことはないが、「ジャーディン・フレミングの運用の自由度、機動性、世の中の先を読み、人と違う考えで、大きく相場にベットするというフィロソフィーは共有している」と考えている。

 中山さんは、自分をどんなタイプのファンドマネージャーと分析しているのか。

 座右の銘は、「わらしべ長者」「塞翁が馬」という。「世の中、どう転ぶか分からないし、事前に予測できないところがたくさんある。しかし、常にポジティブな方向で世の中を見ている」。

「天邪鬼」の視点

 また、「人と違う見方、独自の視点」を持つことを心掛けてきた。自分の性格には、多分に「ひねくれ者、天邪鬼(あまのじゃく)」的な部分があると感じている。銘柄選択でも、企業の利益水準よりも、利益の変化率を重視したりする。かつての日産自動車のように、大赤字でつぶれそうな会社が、カルロス・ゴーン氏を迎え、大改革し、復活するようなシナリオだ。「会社が転換し、デルタ、つまり、微分した接線の傾きが一番大きくなるところが、面白い」(中山さん)。

 そんな中山さんだからこそ、少子高齢化が進展し、日本人自身も含め悲観論が覆う日本経済や日本株には大きなチャンスがあると見ている。

世界情勢の不安定化は日本復活の契機に

 理由の一つは、地政学的な日本の立ち位置の変化だ。「世界的に不安定化が進むと、日本には追い風が吹く」。足元では、太平洋を挟んだ中国と米国の対立、欧州では英国のブレグジット(欧州離脱)、また、中東でも、イラン、イスラエル、アラブ諸国の間で新たな対立の構図が芽生えつつある。

「思い出してもらいたいが、日本の低迷が始まったのは1989年から。あの時は、ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一、ソ連が瓦解した。世界は『米国一強』となり、日本は『立ち位置がない』という状況に陥った」。

 逆にそれ以前の、1950年の朝鮮戦争勃発から、米ソの冷戦が終わる1980年代後半までは、日本の黄金時代だった。共産圏に対する西側諸国の最前線として、当時の西ドイツと並んで、米ソ対立の果実を大いに享受した。

JPモルガン・アセットの中山さんは中国の台頭と米中対立は、日本に追い風になると見ている Bloomberg
JPモルガン・アセットの中山さんは中国の台頭と米中対立は、日本に追い風になると見ている Bloomberg

米中間で風見鶏的に振る舞う

 時代は再び転回し、今度は中国が、かつてのソ連をはるかに上回る強大国として、米国の前に立ちはだかる。米国にとって、日本の戦略的な価値が上がっているのは、バイデン政権のアジア政策から見ても明らかだ。一方、中国としても、技術力もお金もある日本を敵に回したいとは思わないはず。だから、日本には、風見鶏的に、したたかに、立ち振る舞う余地が生じているというわけだ。

「地政学的にも30年のサイクルがある。どうも、日本は再び良くなるサイクルに入っているのではないか」(中山さん)。

企業統治改革で日立に10数年ぶり投資

 企業統治改革が進み、資本効率に対する意識が日本企業の間で高まっていることも日本株のチャンスという。最近、中山さんは10数年ぶりに日立製作所への投資に本腰を入れた。ファンドへの組み入れ比率は3月末で3%と上位8番目だ。経営が混乱する東芝とは対照的に、経営資源を鉄道、自動車部品、IoT(モノのインターネット)のプラットフォームである「ルマーダ」事業などに集中投資し、資本効率の向上に対する意識を強めていることを評価した。日立のような企業が変わってくると、日本株は俄然、面白くなると、中山さんは言う。

優秀な若者の意識変化もプラス材料

 若い世代の意識の変化も、プラスの材料だ。かつて、日本の優秀な人材は、官僚や医者、弁護士などの士業を自らの能力を発揮する場所として選んだ。しかし、この10年、15年くらいは、日本の最も優秀な若者たちが、海外に出たり、起業するマインドに変わりつつある。「ITの発展も後押しし、元ライブドアの堀江貴文氏、クックパッドの穐田(あきた)誉輝氏、サイバーエージェントの藤田晋氏に代表されるように、アイデアがある優秀な若者たちが、起業するのが当たり前の世の中になっている」(中山さん)。

JPモルガン・アセットの中山さんは、日本の優秀な若者たちが官僚よりも起業家を目指す傾向を強めていることにも注目する Bloomberg
JPモルガン・アセットの中山さんは、日本の優秀な若者たちが官僚よりも起業家を目指す傾向を強めていることにも注目する Bloomberg

「日本の最近の政治や行政を見ていると、憂うつな気持ちになることも多い。しかし、これだけ歴史が古く、文化もあり、過去の数々の危機に対応してきた国民性を考えると、転換点に達して、弾けることに対する期待値もある」と話す。

運用業界の「切り込み隊長」

 中山さんは運用業界では、中小型株投資で高い運用成績を誇るアセットマネジメントOneの岩谷渉平氏などの知己がいる。2008年に「ひふみ投信」が設立される前から、ユニークな視点で中小型株投資もし、実績を上げてきたことから、中山さんは運用業界の仲間内では、「切り込み隊長」の異名も持つという。

 他人とは違う目線で、日本株の長期的な復権を予想する中山さんの投資スタンスと、「JPMザ・ジャパン」の存在は、個人投資家にとっても大いに気になるはずだ。

(稲留正英・編集部)

(終わり)

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