投資の達人に聞く⑩AMOne「自由演技」(上)大型株と中小型株比率を「自由自在」に動かす好成績日本株ファンドの運用哲学とは
アセットマネジメントOneが運用する日本株のアクティブ投信「One国内株オープン(愛称:自由演技)」は、そのユニークな運用スタイルと、好調な運用成績が特徴だ。
設定は2000年8月30日で、足元の純資産総額は141億円。この1年間の上昇率は35・76%とベンチマークであるTOPIX(東証株価指数)の27・07%を上回る(7月末時点)。設定来の上昇率は190%、過去10年間の年率では16・41%のリターンだ。投信評価会社モーニングスターによると、「国内大型株ブレンド」カテゴリーの166本の中で、1位の運用成績を誇る。
6カ月の保有でトピックスを上回るリターン目指す
「自由演技」は株式相場のその時々の状況に合わせ、ポートフォリオ内における大型株と中小型株の比率を「自由自在」に変え、TOPIXを上回る運用成績を目指す。具体的には、大型株の比率をTOPIXの6割に対し、自由演技は4割未満から65%の幅の間で変動させ、超過収益を確保する。
運用を担当するのは同社の酒井義隆・株式運用グループ国内株式担当ファンドマネージャーだ。酒井さんは「自由演技」について、「少なくとも6カ月間保有してもらえれば、どのタイミングで買っても、売っても、TOPIXのインデックスファンドを買うよりも良かったと思える状況を作り続けることを目標にしている」と説明する。
「ビジネスマンタイプのファンドマネージャー」
アセットマネジメントOneには、中小型株ファンド「DIAM新興市場日本株ファンド」で設定来の上昇率が2170%(7月末時点)と圧倒的な運用成績を誇る岩谷渉平氏という中小型成長株発掘の達人がいる。岩谷氏は酒井さんの上司でもある。
「岩谷がファンドマネージャーらしいファンドマネージャーとすると、私はどちらかというとビジネスマンタイプのファンドマネージャー。顧客にそれ相応のリターンを返すことが重要と考えている」と話す。
投信ビジネスのバリューチェーン全体の満足度を高める
その理由は、運用をサービス業ととらえているからだ。投資信託には様々なステークホルダーが存在する。受益者である個人投資家を筆頭に、運用会社の営業担当者、証券・銀行など販売会社のファンドの採用担当者、証券・銀行などの実際の営業・販売担当者、さらに、個人投資家の家族もその大きなバリューチェーンに関わっている。
投資信託は他のB to B to C商品と違って、顧客が投信を買うタイミング、または、換金するタイミングは、ファンド運用者からは一切コントロールできない。例えば、証券会社の営業担当者が、「良いファンド」と信じて個人投資家に勧めても、そのタイミングによっては、期待したリターンを得ることが出来ず、「投信のバリューチェーンにいる人全部がアンハッピーになってしまう」(酒井さん)ことがある。そうしたことを避け、バリューチェーン全体にいる人たちが、満足できる運用をすることが「自由演技」の狙いだという。
「チャイナショック」の教訓
酒井さんはその一番顕著な例が、2015年8月、9月の「チャイナショック」の時だと話す。チャイナショックは、15年6月、株式への投機的な動きの反動で中国市場でバブルが崩壊したことで発生した。上海株式市場は7月までに3割下落した。
その影響で、TOPIXは15年8月、9月の2カ月間に計15%下落した。だが、多くの中小型株ファンドは、その間に6~7%しか下がらなかった。このタイミングで、証券会社の営業担当者が、仮に、「中小型株のパフォーマンスが良いので、中小型株ファンドを買いましょう」と進めたとする。しかし、10月にTOPIXは一転、自律反発で10%以上上昇した。一方、多くの中小型株ファンドは3~5%しか上昇しなかった。
「このタイミングで営業担当者が、今までパフォーマンスが良かった中小型株を勧めてしまうと、個人は10月の10%の自律反発を全く取れなくなってしまう。そういう状態を作ってしまうと、バリューチェーンの皆がフラストレーションを溜めてしまう。そういったことが起きるのを避けたい」(酒井さん)。
急な資金ニーズにも対応
顧客によって、投資するタイミング、お金を入れるタイミングが違う。仮に長期で投資したいと思っても、短期的に急な資金ニーズが出てきたりするし、他の有望市場に乗り換えたいという顧客の要望も無視はできない。バリューチェーン内にいるB to Bの顧客も同様に重要だ。実際、「自由演技」は野村証券のファンドラップに採用されている。ファンドラップとは、個人投資家に代わって、金融機関が運用・管理を行う資産運用サービスを示す。「野村証券のファンドラップマネージャーに変な心配をかけずに、最終顧客である個人投資家のパフォーマンスを出すことに専念してもらえる。それは、私のファンド運用にとり、重要な要素」と語る。「日本には数多くのアクティブ投信があるが、なかなか、こういうサービスを提供するファンドはないし、そこが差別化となり、一定のニーズもあるはず」(酒井さん)。
それでは、ステークホルダー全体の満足度を最大化するという、酒井さん独自の運用手法とは具体的にどのようなものなのだろうか。
(稲留正英・編集部)
(続く)