投資の達人に聞く⑬三井住友DSAM「アクティブ元年」(上)成績でTOPIX圧倒、4人チームで「ちょっと先の未来」に企業価値を高める企業を発掘する
三井住友DSアセットマネジメントの「アクティブ元年・日本株ファンド」は、同社の直販専用のアクティブ運用の日本株ファンドだ。最大の特徴はベテラン3人と若手1人の計4人のファンドマネージャーがチームを組み、広範囲のボトムアップリサーチ(個別銘柄の発掘)を通じて、ユニークかつ高い株価成長が期待される銘柄を組み入れていることだ。
2019年2月の設定来の騰落率は87%
ファンドの設定は2019年2月5日と新しい。証券や銀行などでの窓口販売はせず、三井住友DSアセットマネジメントの直販専門ファンドであるため、7月末の純資産残高は8億6700万円と規模はまだ小さいが、設定来の上昇率は7月末までで87%で、同期間のTOPIX(東証株価指数)の28%(配当込み)を大幅に上回る。過去1年間では45%(TOPIXは同30%)。投信評価会社モーニングスターによると、過去1年間の上昇率は「国内小型グロース」のカテゴリー(90本)内で2位だ。
運用歴20年超のベテランが結集
19年のファンド設定以来、「アクティブ元年」の主担当ファンドマネージャーを務めるのが運用部の古賀直樹・シニアファンドマネージャー(運用歴22年)だ。このほかに、木田裕・シニアファンドマネージャー(同31年)、梅原康司・シニアファンドマネージャー(同24年)、金子将大・シニアファンドマネージャー(同8年)の計4人がメンバーとなる。
古賀さんは、アクティブ元年を設定した狙いについて、「世の中、『投資より貯蓄』、『日本株より米国株』『アクティブ運用よりパッシブ運用』という風潮がある中で、アクティブ運用の魅力をしっかり伝えていきたかった」と話す。
日本の今の株式市場では、「米国株のインデックス投信に投資するのが一番儲かる」という考えが強まっている。少子高齢化で先行きが暗い日本株に投資するよりも、グローバルな経済成長の恩恵を受ける米国のインデックス投信に投資する方が「コストも安いし手っ取り早い」という発想に基づく。
米国のインデックスファンドを上回る成績
しかし、過去1年間の運用成績を見ると、「アクティブ元年」は、「史上最強」とも言われる米S&P500種のインデックス投信を上回る実績を残している。世間の「日本株はリターンで米国株にはかなわない」という「常識」を覆している。
古賀さんは、「日本では、物的な充足感は高まり、高度成長期のように皆が皆、豊かになるというような高度成長は望めない。しかし、『課題先進国』と言われるように、生活をより良くしていくための変化を求められている部分がたくさんあり、真摯に取り組んでいる企業が数多くいる。そこに貢献している企業に投資することで、リターンが得られる」と強調する。
TOPIXとは全く違う構成銘柄
アクティブ元年の組み入れ銘柄数は90弱だが、組み入れ銘柄の上位は、LITALICO、ミダック、イワキ、日本トムソンなど、一般には耳にしたことがない会社ばかりだ。業種別構成比率の上位は今年7月末で、サービス業19%、情報・通信業19%、化学13%、電気機器7%。TOPIXの電気機器18%、通信9%、化学7%、サービス業6%(2021年6月末時点)と大きく異なる。古賀さんは、「これからの世の中を考えた時に、消費者や個人の心理的な満足度が重要になってくる。そう考えると、サービス業が伸びていく余地がある。また、DXがこれだけ広がっているので、情報通信関連の銘柄も選ばれやすい」と説明する。
もっとも、「最初から、業種別のアロケーションを決めて、こういったところに投資しようと判断しているわけではない。4人のファンドマネージャー一人一人が、企業を見つけていって、投資をした結果、現在のポートフォリオになっている」と話す。
「ちょっと先の未来」に価値が高まる企業
それでは、「アクティブ元年」は、具体的にどのような手法で、銘柄を発掘しているのだろうか。
同ファンドの運用哲学・方針は、「ちょっと先の未来において、企業価値と市場評価が高まっている企業」を探していくことにある。
「ちょっと先」とはどれくらいの期間を示すのか。「企業の中期計画が3~5年のタームであるので、その先を見据えていたりもする。しかし、世の中、これだけ変化が激しいので、半年、1年のタームであっても、そこに変化が見極められれば、投資のチャンスはあると思っている」(古賀さん)。
「ビジネスモデル」と「成長戦略」の違い
企業価値は、「社会課題の解決や新たな利便性の提供などで、社会に付加価値を提供すること」を示す。市場評価については、株式市場は企業価値を評価する機能を持っているが、そこでは常に適正価値に対し「買われすぎ」「売られすぎ」のゆがみが生じる。その両方の部分を、「アクティブ運用のファンドマネージャーとしてしっかりと狙っていく」。
企業取材に際しては、①事業環境、②ビジネスモデル、③成長戦略――の3点を重視している。①事業環境は「どこで、どの分野で戦っているのか」、②ビジネスモデルは「何を武器として戦うのか」、③成長戦略は、「どのように戦っていくのか」――を表す。
古賀さんに、「ビジネスモデル」と「成長戦略」の違いをもう少しかみ砕いて説明してもらった。「ビジネスモデルは、その企業が、何を付加価値として提供して、それをどういう形でマネタイズしているのか、ビジネスの大きな仕組みを示す」。それに対し、成長戦略は、「その仕組みを持っている中で、今年は何をやるのか、という具体策を掲げて、ビジネスに取り組むこと」と定義している。
経営陣のメッセージ浸透がカギ
企業を取材する際は、特に、その企業のビジネスモデルが、どれだけ、組織に浸透しているかを注意して見ているという。経営陣がどれだけ立派な絵を描いても、社員に浸透していなければ絵に描いた餅になるからだ。社員だけでなく、消費者、取引先を含めて、ステークホルダーにどうメッセージを伝えているのかも重要だ。今のような危機の時代には、リーダーシップが発揮できる会社こそが強いと感じており、そこが投資の大きな着眼点になっているという。
年間の企業取材件数は2500~3000件
銘柄の発掘では、4人のチーム運用が力を発揮する。「世の中の先々を、1人の判断でぴたりと当てるのは難易度が高い。だが、4人なら、それぞれ価値判断をしていく中で、色んな投資テーマ、アイデアも上がってくる。その集合知として集まったポートフォリオであれば、勝ち続けることが可能なはず」と見る。
年間の企業取材件数は4人で延べ2500~3000件に上る。企業規模の大小は問わない。毎年100社弱の新規上場銘柄もフォローしている。
競合相手や取引先から銘柄開拓も
情報収集に際しては特別なことをしているわけではない。新聞記事や雑誌の特集をヒントにしたり、四半期に一度発行される会社四季報のような媒体を隅から隅まで読んで、情報を入手している。大手運用会社としてのリサーチ力を生かし、業績などの定量的なスクリーニングをかけ、気になる企業に取材したりもする。また、投資先への取材を通じて、その競合相手や取引先(サプライチェーン)から有望銘柄も発掘することもあるという。
一例として古賀さんの銘柄選択法を見てみる。コロナ前には、人手不足と言う社会課題があった。それに貢献する企業は何か、真っ先に思い浮かぶ企業だけでなく、サプライチェーンに連なる企業も調べていく。例えば、外食産業で人手不足のため、機械化を進めていれば、その機械を作っている企業を調べる。テーマを掘り下げると同時に、幅を広げる作業もしていく。
投資判断では、4人はフラットな関係
「アクティブ元年」は古賀さんが主担当だが、投資判断に関しては、4人のファンドマネージャーはフラットな関係にある。銘柄の組み入れ時は、他のメンバーに「こういう投資判断から銘柄を組み入れる」と連絡。メンバー間で議論するが、投資判断のストーリー、理由が明確になっていれば、そこで投資は決まる。意見を集約したり、最終的な判断を誰かに任せることはしない。先ほども触れたが、「一人の判断によってしまうと、勝ち続けるのが難しくなる」(古賀さん)と考えているからだ。
市場評価の変化に応じ、機動的に売買
投資した銘柄については、目標株価を設定しながら運用している。企業価値自体はそんなに短期間で変わることはない。しかし、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの市場評価(バリュエーション)は、その時々の相場環境によって変化する。ある企業の企業価値が5年後にすごく高くなると評価しても、バリュエーションが上がってしまえば、株価はそれ以上上がらなくなるか、下がるリスクが増える。そこで、一旦、利益確定の売りを出したり、場合によっては銘柄を入れ替えるなどの判断を、日々、行っているという。最近のような上下動を繰り返す市場環境においては、タイミングの良い売買も、ファンドのリターンをTOPIXなどのベンチマーク対比で高水準に保つ秘訣となる。
次回では、「アクティブ元年」の中の注目銘柄とその選定理由を、4人のファンドマネージャーに聞いていく。
(稲留正英・編集部)
((中)に続く)