投資の達人に聞く⑭三井住友DSAM「アクティブ元年」(中)「環境配慮の産廃企業」「半導体関連」「障がい者福祉」「100年医薬会社の大改革」――4人が選んだ鉄板銘柄とは
三井住友DSアセットマネジメントの「アクティブ元年・日本株ファンド」は実際に、どのような銘柄を組み入れているのだろうか。4人のファンドマネージャーに、それぞれの注目銘柄をピックアップしてもらった。
環境配慮の産業廃棄物処理事業が伸びる「ミダックHD」
トップバッターは、同ファンドの主担当ファンドマネージャーである古賀直樹さん(運用歴22年)。古賀さんが注目するのは、7月末時点でファンド組み入れ比率6位(1.8%)のミダックホールディングス(HD)だ。
ミダックHDは1952年創業の静岡県浜松市に拠点を置く産業廃棄物処理会社だ。社名は「水、大地、空気」から由来している。東名高速を通じて、ビジネスが盛んな関東から近畿圏までを事業エリアとしている。廃棄物の収集・運搬から、焼却・脱水等の中間処理、最終処分まで一貫して手掛けているのが強みだ。
同社は、22年4月以降の稼働を目指し、新東名高速のインタチェンジの近くに、30年分の容量を持つ最終処分場を建設中だ。最終処分場は、周辺環境に影響を及ぼさないように、厳格な基準を満たす必要があり、設置の許認可をとるのが難しい。このため、参入障壁が非常に高い。同社は、さらに、関東に中間処理施設(焼却処分場)も計画中だ。
SDGsも追い風に
SDGs(国連の提唱する持続可能な開発目標)の流れが強まる中、企業側もビジネス活動の中で、合法かつ環境基準に適合した廃棄物の処理が求められるようになっている。2017年に名証2部、19年に東証1部に上場したミダックHDは上場企業として産廃の許認可を取得する体制が確立している。SDGs時代には、「大手の企業であるほど、しっかりと廃棄物の処理をすることが求められている。そのため、今後、安定した需要を確保できる」(古賀さん)。「20年12月中旬から下旬にかけて、株価が相対的に弱含んだタイミングで買い入れた」という。
同社の顧客は、製造業、建設業、同業者などと適度に分散されており、景気の影響を受けにくいことも評価ポイントと言う。現社長の加藤恵子氏は、デロイトトーマツ出身のミダックの顧問税理士だった。上場を目指す先代社長に請われ、06年にミダックに入社し、内部管理体制を構築してきた。「創業家ではないが、本当にしっかりした、信頼できる人」(古賀さん)と感じたことも投資につながった。
半導体需要増で恩恵の「日本トムソン」
2番手は、梅原康司さん(運用歴24年)だ。梅原さんが紹介するのは、7月末で組み入れ比率3位(2.2%)の日本トムソン。1950年創業の機械部品メーカーで、株式上場も東証2部が63年、東証1部が68年と古い。自動車やバイク、産業用ロボットで使われる回転運動用のベアリング「ニードルベアリング」や、半導体製造装置や工作機械で精密な位置決めに使われる「リニアガイド」という部品を作っている。リニアガイド分野では、世界シェア1位のTHKについで、2位のポジションにある。
梅原さんが、日本トムソンの株式を購入しようと思ったきっかけは、同社の構造改革の動き。「リニアガイドで世界2位のポジションはずっと変わらず、市況が良い時は良い、悪い時は悪いという本当にドタバタした会社だった。しかし、数年前から構造改革に積極的に取り組んでいて、『いつか良くなる』との印象を持っていた」(梅原さん)。
経営改革も結実
実際、会社は独SAP社のERP(全社的な経営管理システム)の導入や、生産改革、営業戦略の明確化、新製品開発強化などの改革を進めていた。だが、ERPの導入トラブルや、米中摩擦、コロナの影響で、期待に反してここ2年は業績の低迷が続き、PBR(株価純資産倍率)は過去最低に近い水準まで下げていた。
そうした中、コロナ後のデジタル需要の回復で、半導体製造装置の需要が好調に推移し、米中摩擦も鎮静化。同社製品の需要回復が見込まれる中、「株価は明らかに割安」判断して、21年1月に組み入れた。今後、ここ数年取り組んできた構造改革の成果が、業績に反映されることも期待しているという。
障がい者就労支援の「LITALICO」
3番手は、金子将大さん(運用歴8年)だ。金子さんが紹介するのは7月末の組み入れ率が4位(2.0%)のLITALICOだ。2005年に仙台で創業。13年に東京に本社を移し、主に障がい者就労支援事業と発達障がい児教育支援事業を行っている。現在は、関東を中心に継続的に拠点を新設している。株式は、16年東証マザーズに上場し、17年に東証1部に市場を変更した。
事業も多角化
本業に加えて、障がい者や発達障がい児の家族向けのサービスや、子供向けのプログラミング・ものづくり教室など、事業を多角化している。また、同業者向けに自社のシステムを提供する事業が伸び始めたことを金子さんは評価した。「組み入れ時のバリュエーションは高かったが、経営力は素晴らしいし、エムスリーからCFOを迎え入れ、IR(投資家向け広報)も良くなった。「社会課題の解決」というファンドのテーマにも合致しているので、早いタイミングから組み入れた」と話す。
医薬品・化学品の100年企業「アステナHD」
最後は、木田裕さん(運用歴31年)が紹介するアステナホールディングス(6月に社名変更。旧社名はイワキ)。5月末時点で、組み入れ比率は7位(2.1%)だ。1914年創業の老舗企業で、医薬品および、医薬品原料、化学品などの製造・販売を行っている。医薬品開発ではジェネリック(特許の切れた後発薬)で強みを持ち、皮膚用の外用剤では国内1位の製品ラインアップを持っているという。化学品ではめっき薬品を主に、プリント配線板や電子部品に強みがある。
木田さんはイワキ時代の10年以上前から同社を取材していたが、今回、株式の組み入れを決めたのは、経営に変化の兆しが表れたためだ。化学品事業は、「メルテックス」という別会社で運営していたが2011年に完全子会社化し、中期経営計画も発表。17年には創業家3代目から、4代目の岩城慶太郎・現社長にバトンタッチし、経営の大幅な若返りを図った。
社長交代で変化の兆しをつかむ
「中期経営計画と社長交代で、明らかに変化が起きそうな感じがあった」ため、木田さんは社長に直接取材を申し込んだ。取材を通じ、これまで同社の成長を制約していた古い経営体制を、新社長が人事制度をはじめ、様々な改革で、変えようとしていることが分かった。
「同社の銘柄コードは8000番台で卸業だが、現在では利益構成で92%が製造業を占めている。昨年もM&A(企業の合併&買収)を行い、事業ポートフォリオの変更もしている。化学品も他社製品の扱いを止め、自社製品の開発に力を入れている」(木田さん)。
創業から100年以上の古い会社でも、経営の改革で、株価が上昇する手ごたえを感じているようだ。
最終回は、4人のファンドマネージャーのこれまでの歩みや、信条などを紹介したい。
(稲留正英・編集部)
((下)に続く)