投資の達人に聞く⑮三井住友DSAM「アクティブ元年」(下)同社初「運用者の顔が見えるファンド」は名古屋の「ご当地ファンド」にルーツがあった
三井住友DSアセットマネジメントの「アクティブ元年・日本株ファンド」には、その原型となった機関投資家向けの中小型株ファンドがある。ファンドの設定は、2003年6月末で、設定日の基準価額を1万㌽とした場合、20年12月末で、13万7119㌽まで上昇している。それに対し、TOPIX(東証株価指数)は2万7726㌽にとどまっており、原型ファンドの上昇率はTOPIXの約5倍となる。
原型は好成績の中小型株ファンド
この原型となる機関投資家向けのファンドを運用してきたのが、古賀直樹さん、木田裕さん、梅原康司さんの3人のベテランファンドマネージャーだ。19年2月5日設定の「アクティブ元年」は大型株も投資対象に含まれるという違いはあるが、そのノウハウが存分に発揮されている。
この3人のベテランと若手の1人の4人のキャリアを見ていきたい。
古賀さんは、学生時代、就職活動の際にリクルーターを通じてファンドマネージャーの仕事を知り、それがきっかけで、1997年に千代田生命保険(現ジブラルタル生命保険)に入社。2年目から株式運用を携わった。トレーダーやアナリストのほか、政策保有株の売却にも携わり、ここで、株に関する様々な経験を積んだ。
名古屋で「ご当地ファンド」立ち上げ
2000年の千代田生命の経営破綻という試練を経て、01年3月に当時のトヨタアセットマネジメント(現三井住友DSアセットマネジメント、以下トヨタAM)に入社した。古賀さんは、ここで、アクティブファンドの立ち上げに関わることになる。名古屋をはじめ、中部の企業を投資対象とするご当地ファンド「中部経済圏株式ファンド」だ。
トヨタAMの本社は東京港区竹芝にあった。新ファンドに組み入れる中小型株を探すため、古賀さんは名古屋に出張し、トヨタAMの名古屋支店を拠点に、様々な会社を取材した。
名古屋と言う土地柄
「当時はIRという言葉もなく、積極的に情報開示してくれる会社も少ない。名古屋と言う土地柄、広報下手な会社が多い中で、一件、一件、電話を掛けて、会いに行くという活動を地道に繰り返した」。その時の中小型銘柄取材の経験が、現在の運用に生きているという。13年にトヨタAMが三井住友アセットマネジメント(現三井住友DSアセットマネジメント)に吸収された後は、中小型運用チームに参加し、前述の機関投資家向けファンドの運用成績向上に寄与。また、トヨタAM時代にファンドを立ち上げた経験を活かし、19年2月から、「アクティブ元年」の主担当ファンドマネージャーになった。
「とにかく足で稼ぐ」
運用歴24年の梅原康司さんは、住友生命保険で社会人としてのキャリアをスタートした。最初の4年間支社に在籍、5年目に運用部門に配属となった。その後、現在の三井住友DSアセットマネジメントの前身である住友生命の運用子会社に出向、それ以来、20年間、中小型株の運用に携わっている。
信条は、「とにかく足で稼ぐこと」。「自分の目で、耳で判断するのが一番確実。労を惜しまず、楽しんで色んな会社の話を聞いて、確信を持って投資する」(梅原さん)という。
運用歴31年のベテランはクオンツも経験
運用歴が31年と、4人で最も長い木田さんも住友生命出身だ。入社は1990年。すぐに運用部門に配属され、最初の4年間は日本株を担当した。小型株運用のほか、クオンツ(金融工学を用いる数理的な運用手法)など、色んなスタイルの運用を学んだ。その後、1年間、海外に研修に行き、帰国後は、住友生命や三井住友アセットマネジメントのミドル部門(運用企画や運用開発部門)で2004年まで働いた。
この時に、梅原さんが始めていた「アクティブ元年」の原型となった機関投資家向けの中小型株ファンドの運用に加わり、以来、同じチームで運用しているという。
最若手はIPO銘柄をウォッチ
最後は、運用歴8年の金子将大さんだ。大学入学時の2008年にあったリーマン・ショックで金融に興味を持ち、大学では金融工学を学んだ。12年に三井住友DSアセットマネジメントの前身の三井住友アセットマネジメントに入社。1年半バックオフィス部門でリスク管理などを担当してから、企業調査グループに配属され、アナリストとなった。担当は情報通信とゲームセクターで、システム会社や楽天、ヤフーなどのネット系企業を取材した。15年の12月から、ファンドマネージャーとして中小型株運用チームに加わっている。
最若手の金子さんは、IPO(新規株式公開)銘柄を全部見ている。「これから伸びるビジネスに関して、かなり知見を深めており、ファンドの運用に貢献している」(古賀さん)という。実際、古賀さんが投資を決めた産業廃棄物処理会社のミダックホールディングスもIPO担当の金子さんが株式公開時に話を聞いてきたのが、発掘のきっかけだ。
直接、メッセージを伝える大切さ
最後に古賀さんに今後の日本株の見通しと、「アクティブ元年」の目指すところを聞いた。
「コロナと言うショックにより、『経済・社会のデジタル化』などの元々あったテーマが加速している。大きな変化が生まれやすいタイミングであり、それをしっかりと見極めると投資成果が上がる。だから、より、積極的に企業に取材していきたい」と話す。
「当社は、個人に直接販売する専用ファンドの設定は初めて。思ったより大変だが、顧客により長く投資を続けてもらうには、『顔の見えるファンドマネージャー』として自分たちが何を考え、運用しているのか、直接伝えるのは凄く大事なこと」(古賀さん)。
顧客の7割が積み立てを選択
「アクティブ元年」は現在、月1回、オンラインで投資家向けのセミナーを開いているほか、YouTubeの動画で月次の運用報告をしている。顧客の7割が積み立て運用を選択しており、安定した資金流入により、相場が下げたタイミングでは機動的に銘柄を買うことができ、ファンドの良好な運用成績に役立っている。純資産残高はまだまだ小さいが、古賀さんは「アクティブ元年」の一段の成長に向け、確実な手ごたえを感じているようだ。
(稲留正英・編集部)
(終わり)