投資・運用 投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く⑯東京海上AM「ジャパン・オーナーズ」(上)設定来利回り360%、高い投資リターンを生むオーナー経営者の「長期的な経営目線」と「迅速な意思決定」

東京海上AMの「ジャパン・オーナーズ株式オープン」はオーナーの高い経営力を運用に活かす(左から中川喜久さん、吉田琢さん)
東京海上AMの「ジャパン・オーナーズ株式オープン」はオーナーの高い経営力を運用に活かす(左から中川喜久さん、吉田琢さん)

 東京海上アセットマネジメントが運用する「ジャパン・オーナーズ株式オープン(以下:ジャパン・オーナーズ)」は、経営力の優れたオーナー企業に投資することで、高い運用成績を目指す日本株のアクティブファンドだ。

純資産総額は639億円

 設定は2013年4月25日で、7月末の純資産額は639億円。設定来リターンは、7月末で357%と同期間のTOPIX(東証株価指数)の62%を大きく上回る。投信評価会社モーニングスターによると、同ファンドの過去5年間の平均年率リターンは26%で、「国内小型グロース」のカテゴリー内では67本中、3位の運用成績となっている。

「経営者のリーダーシップ」を定性分析

 ファンドの投資対象は、「経営者が実質的に主要な株主」である企業だ。具体的には、経営者および親族、資産管理会社などの持ち株比率の合計(実質持ち株比率)が5%以上の企業を指す。ファンドの組み入れ銘柄数は、7月末時点で50銘柄だ。

 銘柄選定では、「経営者のリーダーシップ」を定性分析しつつ、企業の成長性、収益性に比較して割安な銘柄を選び出す。

長期的な目線と迅速な意思決定

 同ファンドの運用責任者である吉田琢・株式運用部シニアファンドマネージャーは、「時価総額が大きく成長していく企業の中に、オーナー企業が多く含まれる」ことに着目したことが、ファンド設定のきっかけとなったと説明する。

 それでは、オーナー企業は、なぜ、高い成長を示すのか。吉田さんは、一般の経営者に比べ、「オーナー経営者のほうが、長期的な目線で株主利益を追求し、かつ迅速な意思決定ができる」ことが、大きな違いと言う。

東京海上AMの吉田琢さんは、コロナ禍でオーナー経営者の強さを改めて認識したという
東京海上AMの吉田琢さんは、コロナ禍でオーナー経営者の強さを改めて認識したという

会社は「自分の子供」

 オーナーなので、サラリーマン経営者のように5年や10年で交代することはなく、長期目線で経営できる。株式を保有しているので、会社の業績を上げることは、自分の金銭的な利益にも直結する。また、オーナーにとって、会社は「自分の子供」みたいな存在だ。そのため、「社会に貢献する良い会社にしたい」という気持ちも、人一倍強くなる。これが、長い目線での株主利益の追求や株価の成長につながる。

「ワンマン経営」のメリット

 「迅速な意思決定」は、オーナーならではの「ワンマン経営」と表裏一体だ。特に、創業者であれば、上場するまでに数々の修羅場をくぐった猛者ばかり。野球で言えば、「ドラフト1位で入団した実力者」(吉田さん)。そうした経営者は、ここぞ、と言った大事な場面で、スピード感を持ってものごとを決断できる。

次世代の「孫・柳井・永守」を

 2013年に、ファンドの立ち上げに携わったのが、中川喜久・理事運用副本部長だ。「10年前は、08年にリーマン・ショック、11年に東日本大震災があり、経済が非常に変動していた時代。グロース(成長)株に注目し、いろいろな企業の経営者に会う中で、特にオーナー系の企業は、変化の時代にしっかりと考え、将来を見据えていると感じた」(中川さん)。当時は既に、ソフトバンクグループの孫正義氏、ファーストリテイリングの柳井正氏、日本電産の永守重信氏らが活躍し、世界的にも有名になっていた。こういうオーナー経営者に加え、「次の孫さん、柳井さん、永守さんを我々が発掘出来たら、中長期的に非常に大きなリターンが得られる」と考え、ファンドの立ち上げに踏み切ったという。

コロナショックで際立ったオーナー企業の強さ

 新型コロナウィルスの感染が爆発的に拡大した2020年は、危機対応能力に優れたオーナー経営者の強さが際立つ1年となった。「ジャパン・オーナーズ」も、「コロナショックで『質への逃避』が起こり、日本電産、ソフトバンク、ファーストリテイリングなどが見事に上昇した」(吉田さん)ことが貢献し、年間騰落率は15.4%とTOPIXの7.4%(配当込み)を大きく上回った。

店を閉めなかったユニクロとニトリ

 特に、オーナーとしての経営力の高さが吉田さんの印象に残ったのが、ユニクロを展開するファーストリテイリングとニトリだった。昨年4月の第1回目の緊急事態宣言の際に、大手小売りが軒並み営業中止に踏み切る中、両社は店舗を閉めずに、営業を続けた。それに対し、世間では「大変な事態なのに、店舗を開けていてよいのか」という批判もあった。だが、吉田さんには、「服が欲しい人は困るはず」「今は人が来ないが、顧客の期待に応えたい」「私たちが社会を支えている」というオーナー経営者の強い意志が伝わってきたという。

東京海上AMの吉田琢さんは、オーナー経営者の迅速な意思決定に注目する(ファーストリテイリングの柳井正社長) Bloomberg
東京海上AMの吉田琢さんは、オーナー経営者の迅速な意思決定に注目する(ファーストリテイリングの柳井正社長) Bloomberg

理論で裏打ちし実践

 しかも、その行動が、きちんとした理論に裏打ちされて実践されていた。ユニクロの場合は、全店舗の入り口で手指の消毒と検温が徹底されていた。それに対し、独自のブランドで生活雑貨を扱う大手小売りでは、消毒や検温は、店舗ごとにバラバラだったのが目立っていた。

危機を成長のバネにする

「こうした危機を通じて、むしろ、ユニクロに対する顧客の信頼度は高まったのではないか」(吉田さん)。過去にも、今回のコロナに匹敵するような外部環境の激変は何度もあったが、オーナーが経営する企業は、こうした変化を次の成長につなげていくケースが多いという。

 それでは、「ジャパン・オーナーズ」ではどのように、中長期的に大きな成長を見込めるオーナー企業を発掘していているのか。次回以降、その運用哲学や具体的な手法を見ていきたい。

(稲留正英・編集部) 

(続く)

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