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投資・運用 投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く⑰東京海上AM「ジャパン・オーナーズ」(中)コロナで発揮されたオーナーの危機対応力、弱点の「後継者」は「娘婿社長」に解決策

東京海上AMの「ジャパン・オーナーズ」では「創業者の娘婿」にも注目する(左から中川喜久さん、吉田琢さん)
東京海上AMの「ジャパン・オーナーズ」では「創業者の娘婿」にも注目する(左から中川喜久さん、吉田琢さん)

 東京海上アセットマネジメントの「ジャパン・オーナーズ株式オープン(以下:ジャパン・オーナーズ)」は2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大し、社会・経済が混迷する中、ソフトバンクグループ(G)、日本電産、ファーストリテイリングを筆頭に、変化対応力に優れたオーナー企業の株価が堅調に推移し、年間騰落率は15.4%とTOPIXの7.4%(配当込み)を大きく上回った。

永守・日本電産会長の手腕

 前回の(上)で取り上げたファーストリテイリングの柳井正社長のほかに、運用責任者の吉田琢さんの印象に残った経営者が、日本電産の永守重信会長だ。永守氏は、2008年のリーマン・ショックの際、売り上げが半減しても、黒字が確保できる体制を構築するために「ダブル・プロフィット・レシオ(WPR)」という手法を導入した。永守氏は、昨年のコロナ感染拡大の初期にWRPを発動し、徹底したコスト削減を進めた。その結果、日本電産はその後の世界的な景気回復の過程で、「私も含めたほぼすべての投資家の予想をはるかに超える速度で利益が回復した」(吉田さん)。経営者としての長いキャリアのなか、リーマン・ショックの経験があったからこそ、備えがあり、迅速かつ的確な判断が下せた。「危機対応の教科書のような事例」と吉田さんは見る。

「高い成長目標」と「明確な将来ビジョン」

 それでは、ジャパン・オーナーズは実際に、どのように銘柄を選んでいるのか、そのプロセスを見ていきたい。

 まず、その企業の経営者が「オーナー」であること、具体的には、自身、親族や資産管理会社などの分を含め、実質的に5%以上の株式を保有していることが第一の条件だ。この中から、信頼に足る経営者を探し出していく。その際の絶対条件が、①高い成長目標と②明確な将来ビジョンを持っていること――の二つだ。

上場後の「経営への情熱」を見極める

 オーナー経営者は、株式上場を果たすと、目標達成感から、事業への意欲が薄れることがよくあるという。上場で多額の金銭も手に入るため、遊興にふける経営者も少なくない。

 一方、孫氏、柳井氏、永守氏レベルの経営者は、「時価総額が5000億円になろうが、1兆円になろうが、経営へのパッション(情熱)がずっと続いている」(吉田さん)。「利益や時価総額をもっと上げよう」、「日本で業界1位なら世界でもトップになろう」、「こんな新規事業なら顧客が喜んでくれるから始めよう」といった情熱だ。

「休日の過ごし方」も調査

 そこで、ジャパン・オーナーズでは、時価総額が500億円~1000億円程度のオーナー経営者の場合、「ネクスト孫、柳井、永守」の素質があるか、こうした定性面の取材を徹底する。場合によっては、ライバル企業の経営者などへ周辺取材し、対象企業の経営者の上場後の評判を聞いたり、休日の過ごし方を調べたりもする。中長期に渡って、投資家の大事な資金を託す資質があるかを判断するためだ。

 それと同時に、東京海上アセットマネジメントのアナリスト16人(業種別のアナリスト12人と中小型株のアナリスト4人)による推奨銘柄リストを参考にする。これは、オーナー企業であるかどうかを問わず、純粋に、利益の成長率や株価のバリュエーションなどを見て、株価の成長で有望な企業を500社程度リストアップしたものだ。

150社の「オーナーズリスト」

 この二つの条件が重なった150社が、「オーナーズリスト」として、ジャパン・オーナーズの投資対象群(ユニバース)に入る。最終的には、この中から、50社程度を実際にファンドに組み入れている。

 150社のユニバースには、ソフトバンクG、ファーストリテイリング、日本電産などの超大企業も含まれる。時価総額がどれだけ大きくなっても、二つの条件に合致すれば、「卒業」することはなく、リストに載り続けるという。

運用面の工夫

 ジャパン・オーナーズのもう一つの特徴は、「運用面での工夫」(理事運用副本部長の中川喜久さん)だ。ポートフォリオ全体が割高にならないように、PER(株価収益率)などのバリュエーションや株価の勢いを測る株価モメンタムなどの指標を用いて、調整している。

 昨年は、コロナの感染拡大で、株式市場でも「質への逃避」が起こり、中小型株から大型株への物色シフトが強まった。ジャパン・オーナーズでも、100円ショップのセリア、ソフトバンクG、日本電産、サイバーエージェント、ファーストリテイリングなど組み入れていた大型株の上昇率がTOPIXを上回ったため、こうした銘柄は随時、利食い入りを入れ、ポートフォリオが特定のセクターやテーマに偏らないようにした。

 こうした工夫により、ジャパン・オーナーズは2013年の設定以来、年間騰落率はプラスかつ、かつTOPIX(配当込み)を上回など、安定した運用成績を残している。

株価のモメンタムやPERなどの指標で、ポートフォリオのリスクを管理していることも安定した運用成績につながっているという(東京海上AMの中川喜久さん)
株価のモメンタムやPERなどの指標で、ポートフォリオのリスクを管理していることも安定した運用成績につながっているという(東京海上AMの中川喜久さん)

オーナー企業の弱点は後継者問題

 コロナショックで非常に高い危機対応力を示し、株価も高い上昇率を示したオーナー企業だが、そこにも弱点はある。それが、「後継者問題」だ。創業者が偉大であればあるほど、それに匹敵する後継者を見つけるのは至難の業で、それが中長期的には株価のリスク要因となる。

 世間で一番注目されているのは、日本電産の永守会長だろう。「電気自動車(EV)の価格は今の5分の1になる」と発言、激化するEV市場で主導権を握ることで、2030年度には売上高10兆円を目指すとしており、間違いなく日本を代表する経営者の一人だ。しかし、年齢は77歳。過去には、カルソニックカンセイ社長だった呉文精氏や日産出身の吉本浩之氏が後継社長となったが、いずれも永守氏が期待する実績を残せず、短期間で退任した。昨年からは、同じく日産出身の関潤氏を後継社長に指名したが、その成否は未だ、定かではない。

卓越した経営手腕を誇る日本電産の永守重信会長だが、「後継者問題」が最大のリスクとなる Bloomberg
卓越した経営手腕を誇る日本電産の永守重信会長だが、「後継者問題」が最大のリスクとなる Bloomberg

「娘婿」に着目

 ソフトバンクGやファーストリテイリングも同様の問題を抱える。オーナー経営者は、後継者が役不足と感じた場合は、自らが返り咲くことが可能だが、抜本的な解決策とは言えず、遅かれ早かれ、再び、後継者問題に直面することになる。

 そこで、ジャパン・オーナーズが注目したのが、「娘婿」の存在だ。「日本のオーナー企業が海外と違って特徴的なのが、娘婿が機能していること」(吉田さん)。スズキの鈴木修・現相談役がその代表格だろう。スズキ2代目の社長の娘と結婚、社長就任時に3000億円だった売上高を、退任までの43年間で3兆円超に拡大した。

 創業者やオーナーにとっては、会社は、「自分の子供」のような存在だ。中には、自分の子供より、会社の方が大事だという経営者もいる。「娘婿は、独特の嗅覚を持った、何万人に一人の才覚をもった創業社長が、その会社と自分の娘を託すくらいの人物。相当能力があるということになる」(吉田さん)。

イズミやエフピコの娘婿社長

 ジャパン・オーナーズの組み入れ銘柄にも、そのアイデアは生かされている。例えば、広島に本社があるスーパーのイズミの山西泰明社長。イズミ創業者の山西義政氏の次女と結婚し、1993年、義政氏の会長就任により社長に就任した。泰明氏自身もヤオハン(現マックスバリュ東海)創業者の和田良平・和田カツ夫妻の五男で、スタンフォード大学に留学経験もある。「そもそも、育ってきた環境が普通の人とは違う」(吉田さん)。

 食品トレイを製造するエフピコの佐藤守正社長も、創業者の娘と結婚し、2009年に社長に就任した。本人は、三井物産の商社マンだったが、見込まれてエフピコに入社したという。

後継息子は帝王学と「鍛え方」を見る

「創業から時間が経ち、会社のステージが変わると、自分とは違う能力を持った人が、必要だということはオーナーも感じている。その時には、学歴もありつつ、バイタリティもある人を選択しているケースが多い」(吉田さん)という。

 もちろん、創業者の息子でも、厳しく帝王学を授けられ、後継者の資格が十分にあると判断すれば、ジャパン・オーナーズの投資対象となる。例えば、空気圧縮制御機器を製造するSMCの高田芳樹社長。オーナーの高田芳行氏の子息で、今年4月に社長に就任した。吉田さんは、芳樹社長が、米国法人に出向し、長年武者修行してきたことを評価した。「まさに、虎の穴に放り込まれる形で、経験を積んだ」(吉田さん)。

2代目の能力不明で、売却したケースも

 その一方で、創業社長が多忙なため、帝王学も含めて教育が十分でない2代目が継ぐ場合には、細心の注意を払っている。実際、2代目の能力が見極められず、株式を売却した大手ドラッグストアのケースもある。

 最終回は、ジャパン・オーナーズの直近の組み入れ銘柄などや、日本株の見通しなどについて聞いていく。

(稲留正英・編集部)

((下)に続く)

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