投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く⑱東京海上AM「ジャパン・オーナーズ」(下)「人員削減しない大手物流」「環境配慮のラベル会社」「医療注力のリゾート大手」など、注目の4社とは

    東京海上AMの中川喜久さん(左)と吉田琢さんは、日本株市場は「アクティブ運用の天国」と感じている
    東京海上AMの中川喜久さん(左)と吉田琢さんは、日本株市場は「アクティブ運用の天国」と感じている

     この回では、「ジャパン・オーナーズ株式オープン」に組み入れている注目銘柄について、ファンドの運用責任者の吉田琢さんに聞いてみた。まずは、8月末現在で組み入れ比率トップ(5.0%)のSBSホールディングス(HD)だ。大型物流施設を運営し、多くの企業から物流業務を受託しているサードパーティロジスティクス(3PL)の大手だ。

    M&Aで成長を続ける「SBSホールディングス」

     1987年、「関東即配」の社名で、当時は無かった「即日配達」を提供する会社として誕生した。創業者の鎌田正彦氏が現在も社長を務めている。吉田さんは、SBSHDの魅力は「鎌田社長に尽きる」と話す。

     同社の特徴は、M&A(企業の買収・合併)を積極的に活用して、成長してきたことにある。2003年12月にジャスダック市場に株式公開をしてから半年後の04年5月に、雪印乳業の物流子会社である雪印物流を買収したのを皮切りに、東急グループの物流子会社の東急ロジスティクス、日本ビクター系列のビクターロジスティクス、日本レコードセンターなどを次々に買収してきた。

    買収先企業の社員はリストラせず

     鎌田社長のM&Aにおける信条は、「社員を大切にすること」。買収後も、買収先企業で人員削減などのリストラを一切、行わず、コスト削減と営業強化で収益力の底上げを図ってきた。鎌田氏が子供の頃、父親が事業に失敗しており、その経験から、「買収した企業の社員も仲間であり、彼らを路頭に迷わせないという意識がある」(吉田さん)。その結果、物流業界では、「会社を売る時は、社員を大切にしてくれるSBSに売ろう」という流れを生んだことが、同社のM&A戦略に追い風になっている。

    SBSホールディングスの鎌田正彦社長 (同社HPより)
    SBSホールディングスの鎌田正彦社長 (同社HPより)

    米アマゾンとの取引は10%に限定

     2020年12月期の連結売上高は2572億円だが、これを1兆円まで増やす目標を掲げている。しかし、電子商取引が急増する米アマゾンとのビジネスは、全体の売り上げの10%以下にするという方針を堅持している。売り上げを増やすにはアマゾンとの取引を拡大するのが手っ取り早いが、依存度が高くなることは、経営上、リスクと見ているからだ。吉田さんは、こうした鎌田社長の「M&Aをするときの大胆さと、リスク管理の細かさ」の双方の資質を評価している。

    熱収縮性ラベルトップの「フジシールインターナショナル」

     二つ目は、組み入れ比率5位(3.5%)のフジシールインターナショナルだ。ペットボトルなどに張り付ける熱収縮性ラベル(シュリンクラベル)の開発で先鞭をつけ、市場シェアの過半を有している。1897年に、木製の酒樽などの栓の製造をする木工業メーカーとして事業をスタート。その後、世の中の容器のトレンドがプラスチックに移行する中、1958年にキャップ・シールの製造販売を開始、1961年にシュリンクラベルを開発した。

    フジシールインターナショナルの岡﨑成子・代表執行役会長CEO (同社HPより)
    フジシールインターナショナルの岡﨑成子・代表執行役会長CEO (同社HPより)

    環境対応でオーナーがリーダーシップ

     ペットボトルやシャンプーなどの容器に貼って商品内容を宣伝するタッグラベル(シール用ラベル)の売り上げが好調だったが、ここ数年は環境に対する意識の高まりと脱プラスチックの流れを受け、タッグラベルの売り上げが減少し、同社の業績は伸び悩み、株価も低迷した。その時、創業家出身で代表執行役会長の岡﨑成子CEOが、「環境への配慮は避けて通れない」として、土に還るバイオプラスチックや、剥がさないでそのままリサイクルできる「再生可能シュリンクラベル」の導入などでリーダーシップを発揮。「会社は、今、復活しようとしているところ」(吉田さん)という。オーナーが信頼できるから、「ジャパン・オーナーズ」では、株価は下がったところはしっかり買っていく構えだ。

    「パーク24」は地主と素早い賃料交渉

     組み入れ比率で3位(4.0%)に入っているのがパーク24だ。1971年に創業。地主から土地を借り、時間貸駐車場「タイムズ」を設置・運営している。国内の駐車場とカーシェアリングで、業界ナンバーワンの規模を有する。コロナ禍で、レジャー、ビジネスの両面で経済活動が停滞、駐車場事業が打撃を受けたほか、英国での駐車場子会社もコロナで業績が低迷し、減損を計上、足元の業績、株価とも低迷している。

     そうした中、吉田さんは、2代目の西川光一社長の経営手腕に期待しているという。「コロナ禍の中、地主に賃料の引き下げ交渉をしているが、この辺は、オーナーらしく、スピード感がある。今後、コロナが終息していけば、コストの削減と売り上げの回復が相まって、マージン(利幅)の改善が進むのではないか」(吉田さん)。西川光一社長は、父で創業者の清氏(2005年死去)に比べると迫力では一歩、及ばないものの、「大きくなった組織で、人に任せるべきところはしっかりと人に任せている。そういう部分で信頼している」と話す。

    富裕層をメディカル事業に取り込む「リゾートトラスト」

     最後は組み入れ比率で8位(3.3%)のリゾートトラストだ。国内の会員制リゾートクラブ「エクシブ」を各地で展開し、この業界でシェアが28年連続、国内1位だ。

     創業者の伊藤與朗(よしろう)氏は経営の一線から退き、共同創業者の伊藤勝康氏が会長、甥の伏見有貴氏が社長と一族でタッグを組んで経営している。リゾート施設のコロナ対策でも、オーナー企業らしく、トップダウンで、早い段階から間仕切りを導入したり、消毒体制を徹底しており、コロナ終息後の売り上げの回復が見込まれている。

     それに加え、吉田さんが注目するのは、メディカル事業だ。会員制事業で得た富裕層の顧客基盤を活かし、ガンなどの検診を行える会員制メディカルクラブ「グランドハイメディック倶楽部」を各地で運営、介護付き有料老人ホーム「トラストガーデン」も展開している。日本の高度医療を、海外の富裕層に提供するメディカルツーリズムも視野に入れている。こうした施策は伏見社長が前面に立って推し進めている。「コロナ禍を受け、銀行借り入れをかなり早い段階で実施していた。オーナー企業らしく備えの動きが機敏であり、攻めに転じるのも速いと期待している」(吉田さん)という。

    リゾートトラストは、富裕層向けのメディカル事業も強化している (同社HPより)
    リゾートトラストは、富裕層向けのメディカル事業も強化している (同社HPより)

    アナリスト第1号の中川さん

     ここで、「ジャパン・オーナーズ」に関わる理事運用副本部長の中川喜久さんと株式運用部シニアファンドマネージャーの吉田琢さんの経歴について簡単に紹介したい。中川さんは1990年に東京海上火災保険に入社したが、そのまま、東京海上アセットマネジメント(当時の東京海上エム・シー投資顧問)に配属になった。同社のアナリスト第1号となり、リサーチ部隊を立ち上げた創業期のメンバーの一人だ。92年からはファンドマネージャーを務め、基幹ファンドの運用も担当している。連載の(上)で触れたように13年に「ジャパン・オーナーズ」を立ち上げた。

    吉田さんは中小型株のプロ

     吉田さんは、1998年に東洋信託銀行(現在の三菱UFJ信託銀行)に入社。2001年にT&Dアセットマネジメントに転職、16年に東京海上アセットマネジメントに入社した。前職時代の01年から中小型株のアナリスト、10年からファンドマネージャーを兼任。「ジャパン・オーナーズ」の運用には16年から参画、19年から運用責任者となった。

    日本株市場は、「アクティブ運用の天国」

     最後に、中川さんに日本株の見通しについて聞いた。

    「日本株はどうしても日本経済の影響は受ける。日本経済の成長性が米国より高いかと言えば、そういうことはない。株式市場全体で見れば、日本株の成績は長期的には米国株に劣後するのは、我々、日本株の専門家でも否定するのは難しい」

    「しかし、個別の企業で見れば、日本には海外でも十分戦える強い会社がたくさんある。日本株は、世界の中でも数少ない、アクティブ運用でしっかりインデックスに対して超過収益を稼げるマーケットであり、『アクティブ天国』だ。アクティブであれば、十分に戦える自信があるし、実際、我々も過去、高い運用成績を残している」

     オーナー企業に着目すれば、世界で戦える日本株が見えてくる。そのオーナーや企業の強さを分析すれば、中長期の資産形成に役立つ日本株が数多く存在することが分かる。ユニークな視点で好成績を実現し続ける「ジャパン・オーナーズ」は日本株の良さを日本の個人投資家に再認識させるのに、最適の一本と言えるではないだろうか。

    (稲留正英・編集部)

    (終わり)

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