教養・歴史書評

中国は今後、望ましい制度設計ができるのか? 識者が分析=近藤伸二

『「ネオ・チャイナリスク」研究 ヘゲモニーなき世界の支配構造』 評者・近藤伸二

著者 柯隆(東京財団政策研究所主席研究員) 慶應義塾大学出版会 2640円

世界はなぜ中国を見誤ったか 原因と経過を詳細に分析

 中国で鄧小平氏の号令によって改革・開放政策が始まってから40年以上がたつ。中国経済が急成長を遂げるのを見て、国際社会はいずれ中国は市場経済のルールに従い、民主化も進むだろうと期待していた。

 だが、それは幻想だったとの見方が主流になってきた。その幻滅感と憤りが現在の米中対立につながっている。世界はなぜ、見立てを誤ったのか。その原因と経過を明快に解き明かしたのが本書である。

 そもそも中国の改革・開放は、共産党一党独裁を維持しながら、経済だけを部分的に自由化するもので、党幹部が特権を享受できる体制を変革するつもりはなかった。資本主義の一部の要素を取り入れて社会主義を補強するのが狙いで、あくまで主役は国有企業であり、民営企業は補佐役に過ぎなかった。

 それでも中国が発展してきたのは、世界貿易機関(WTO)加盟に伴って一定の市場開放に応じてきたこと、国有企業が進出していない分野で民営企業が活発に活動し、経済を活性化してきたことなどによる。

 それが習近平政権になって、政府が統制を強化する方向性が顕著になり、国有企業をより重視するようになった一方で、民営企業への干渉を強めている。ネット通販最大手アリババ集団への締め付けは典型例だろう。本来の道を逆行する習政権の下では、社会は活力を失い、経済は効率が低下して減速する。これこそが「ネオ」チャイナリスクである。

 こうした現状を、著者は「歴史的な転換点」と位置付け、中国が望ましい成長を持続するには「世界標準である市場経済の枠組みに適応する制度設計をきちんと行っていく必要がある」と警告する。それは実現するのか、するならいつになるのか? 著者は、60代後半になる習指導部のほとんどが文化大革命の時、毛沢東の思想教育を受けた元紅衛兵で、この世代の国家統治は強権的なものになりがちだと指摘する。このあたりは、中国社会を皮膚感覚で知る著者ならではの分析と言えよう。

 習氏は2期10年が慣例だった最高指導者の任期を延長しようとしている。世代交代すら見通せない中、中国が民主化するのは気が遠くなるほど長い道のりであり、次世代、その次の世代まで、社会も政治も不安定な状況が続くと著者は予想する。

 経済面で深く中国に依存する日本には、交流を続けていく以外に選択肢はない。そうであるなら、中国を正確に理解し、うまく付き合っていくしかない。本書は、そのためにも必読の書である。

(近藤伸二・追手門学院大学教授)


 柯隆(か・りゅう:Ke,Long) 1963年、中国・南京市生まれ。88年に来日、愛知大学法経学部、名古屋大学大学院、長銀総研などを経て現職。著書に『チャイナクライシスへの警鐘』『中国「強国復権」の条件』など。

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