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脳内のカビ=抵抗の拠点から 青木理のカウンター・ジャーナリズム/346〈サンデー毎日〉

    青木理さん
    青木理さん

     タレント弁護士がテレビの情報番組で次のようなコメントを発し、批判を浴びて番組側も謝罪に追い込まれたらしい。「共産党はまだ『暴力的な革命』というものを、党の要綱として廃止してませんから。よくそういうところと組もうという話になるなと、個人的には感じますね」

     はてさて、どこから突っ込めばいいのか、いずれにせよ本人としては野党共闘を揶揄(やゆ)し、政治的攻撃を加えたつもりなのだろうが、事実に拠(よ)った論評や批判ならともかく、総選挙前に粗雑なガセ情報で特定の政治勢力を罵(ののし)る神経は常軌を逸している。

     ただ正直言って私は、懐かしい気分にもさせられた。かつて通信社で公安担当の記者だったころ、ほぼ同じ台詞(せりふ)を公安警察や公安調査庁の幹部から幾度も聞かされたからである。しかも、時代の変化についていけない無能な幹部ほど、タレント弁護士と同じことを呪文のように繰り返していた。

     歴史を遡(さかのぼ)れば、警察の一部門である公安警察にせよ、あるいは法務省の外局である公安庁も同じだが、戦後日本の治安機関はいずれも冷戦体制下、「反共」「防共」を最大のレーゾンデートルとして発足した。

     たしかに戦後まもない時期には血のメーデー事件などが発生し、以後も1970年代にかけては新左翼セクトなどによる爆弾事件やハイジャック、内ゲバ殺人などが続発し、公安警察は一貫して組織を肥大化させ、警察内部でも公安部門を仕切る幹部こそが最高エリートと位置づけられた。そうして増長した公安警察は「泥棒を捕まえなくても国は滅びないが、左翼がはびこれば国が滅びる」と嘯(うそぶ)き、時に自作自演の謀略や違法手段まで平然と弄(ろう)した。52年に起きた菅生(すごう)事件、86年に発覚した共産党幹部宅盗聴事件はその一端である。

     しかし、冷戦体制が終焉(しゅうえん)を迎えると状況は転換する。しかも95年のオウム真理教事件で公安警察はその危険性を覚知すらできず、いつまでも時代遅れの左翼対策に膨大な人員とカネを注(つ)ぎ込んでエリート面をする公安部門への怨嗟(えんさ)は警察内部でも高まり、組織も人員も縮小に転じる。公安庁に至っては、ある意味で治安機関の盲腸のような存在であって、組織の目的たる団体規制は発足以来一度も行われていない。

     それでも無能な幹部たちは共産党や左翼対策こそが自らのレーゾンデートルだといったカビの生えた発想にしがみついた。一方で治安機関も一種の官僚組織であり、一度手にした人員や予算は離したくない。だから近年の公安警察は「国際テロ対策」などを新たなレーゾンデートルに掲げ、官邸に警察官僚が突き刺さった政権の後押しも受けて権益の拡大に躍起となっていた。

     そうやって状況を俯瞰(ふかん)すれば、無能な治安機関幹部が自らの権益維持のために唱える古証文をタレント弁護士がテレビで堂々と公言したというお粗末な話。本人がどこまで自覚的かは知らないが、その脳内にも相当古びたカビが生えているか、公安の回し者か、そう揶揄されても仕方ない。

    あおき・おさむ

     1966年生まれ。共同通信記者を経て、フリーのジャーナリスト、ノンフィクション作家。丹念な取材と鋭い思索、独自の緻密な文体によって時代の深層に肉薄する。著書に『安倍三代』『情報隠蔽国家』『暗黒のスキャンダル国家』『時代の抵抗者たち』『時代の異端者たち』など多数。近刊に『破壊者たちへ』(毎日新聞出版)

    (サンデー毎日10月3日号掲載)

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