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社会学的眞子さまウォッチング!/2 「借金報道」週刊誌に異議あり=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

小室圭さんは9月末にも帰国する
小室圭さんは9月末にも帰国する

 今月末にも帰国することになった眞子さま(29)の婚約者、小室圭さん(29)。結婚がつまずくもととなったのが、母の元婚約者Aさんとの「金銭トラブル」であった。小室さんが今年4月に発表した28枚の説明文書(以下、小室文書)は「堅い」「長すぎる」と評判が悪い。だが、熟読してみると筋は通っている。文書の重要な点が、一般の人にきちんと理解されているとは言い難い。多くのメディアも、主張を正確には伝えていない。小室さんが反論しづらい状況を利用して、小室さん母子をバッシングし続ける週刊誌報道には異議がある。

 1年後の請求で困惑

 小室さんの母とAさんが婚約したのは2010年9月。Aさんから「家族になるのだからこれからは金銭面も含めて全面的にバックアップします」と伝えられたと小室さんは説明する。12年1月までに、Aさんから母親の口座に計409万3000円が振り込まれた。

 ところが、12年9月13日、Aさんの申し出で婚約は破棄された。このとき、金銭の清算の話になり、Aさんは「返してもらうつもりはなかった」と発言した。

 13年8月、母親はAさんから突然手紙を受け取り、金の返済を求められた。1年前の言葉と正反対の内容に驚き、困惑した。母親は弁護士と相談し、「返済する気持ちはありません」などとした返事を書き、8月6日、母子でAさん宅を訪問し、手渡した。小室さんは「もともと贈与を受けていると認識している」と伝えた。

 小室さん母子としたら〈突然、婚約破棄されたうえ、返済しなくて良いと言ったのに、1年後に請求ってどういうこと。こちら側は慰謝料の請求もできるのに……〉という思いである。一方、Aさんにしたら、本当の息子だと思って学費を含め支援したつもりだった。〈それなのに贈与って、感謝がまるでない〉との気持ちなのだろう。

 このやり取りから4年4カ月間、小室さん母子とAさんは同じマンションの敷地内に住み、顔を合わせる機会があったものの返済要求は一度もなく、母子は「解決」したと思っていた。ところが、眞子さまとの婚約が正式発表された3カ月後から、小室家は借金があると書く週刊誌記事が相次いだ。小室さん母子にしてみると、週刊誌を通じた個人攻撃に恐怖を感じただろう。

 2019年1月、交渉を始める態勢を整えた小室さんは、A4で1枚の説明文書(19年声明)を発表した。そこには、「母も私も元婚約者の方からの支援については解決済みの事柄であると理解してまいりました」と書かれた。

 この2年後の小室文書によると、「解決済み」という認識は過去のことで、19年声明時の認識ではない。「過去完了形」として書いたのに誤解されてしまったと言っている。そして、過去に贈与と表現したのは「必ずしも十分ではなかったと考えるに至りました」とした。そのうえで、どれが借金か、元婚約者との認識の食い違いを解消したいと述べた。

「解決済み」「贈与」と言い切ってしまった過去のスタンスを修正したところが小室文書の最も重要なポイントである。この点、十分理解されているとは言い難い。

 青く、若い小室文書

 一方で、小室文書を読んで思うことは「ストレートすぎる」ということだ。自分の主張は正しく、説明すれば世間は分かってくれるという素朴な思いが見え隠れする。

 だが、世の中、正論は必ずしも通らない。「Aさんのご支援には、今も感謝しかない」という気持ちをもっと強調した方が良かった。過去において、「解決済み」「すべてが贈与だった」と主張してしまったことは、Aさんへの配慮に欠けていたことの非は潔く認めた方が良かった。

 逆に言えば、小室文書は、弁護士など周囲の「大人」の手が入っていない。小室さんのむき出しの気持ちが込められている。生硬で、青く、若い。

 トラブルは別れた男女の金銭をめぐる争いである。司法の場なり、代理人・本人同士で解決すれば済む。そもそも母親の問題であって、小室さんは基本的に関係がない。

 確認するが、小室さんが違法なことをしたわけではない。小室さんの「不道徳」とされる行状のほとんどは伝聞に頼っている。週刊誌報道だけを見て、不道徳と断じる人のセンスが私には理解できない。小室さんへの批判を突き詰めると、週刊誌報道から読み取れる、態度が気にくわないという点に行き着く。

 報道倫理を逸脱

 マスメディア報道も小室さんの主張を重んじているとは思えない。『女性セブン』(9月23日号)は「19年には小室さんが『問題は解決済み』とした文書を発表」といまだに書いている。『FRIDAY』(9月24日号)も、「今年4月(略)、『小室文書』を公表し、『400万円は借金ではない』と改めて主張」と強調している。繰り返すが、小室さんは今は「解決済み」「すべて借金ではない」とは主張していない。ミスリードである。

 母親が、秋篠宮さまに対し「返した方がいいのなら皇室のお金を用立ててほしい」と申し出て、「非常識な申し出」をする母親に、秋篠宮さまが驚いた(『週刊新潮』9月16日号)とも書かれる。皇室に借金の肩代わりを無心するという話は、母親の非常識さを印象付けるエピソードとして女性週刊誌もしばしば言及する。だが、情報源は常に匿名である。実際、そのようなことが起きたとは証明されていない。私はあり得ないと考えている。

「報道や論評をみると、これまで私や母に対する名誉棄損、侮辱、プライバシー侵害など数多くの違法行為が繰り返されている」(小室文書)という言い分は一顧だにされず、違法行為が続いている。皇族のフィアンセという立場で反論しづらい状況を利用し、伝聞や推測で小室バッシングを続ける報道はフェアではない。

 日本雑誌協会が作成した「雑誌編集倫理綱領」には次のようにある。「真実を正確に伝え、記事に採り上げられた人の名誉やプライバシーをみだりに損なうような内容であってはならない」。この規定を逸脱しているとしか私には思えない。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年、埼玉県生まれ。博士(文学)。毎日新聞で皇室や警視庁担当、CNN日本語サイト編集長、琉球新報ワシントン駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)など

サンデー毎日10月3日号・表紙
サンデー毎日10月3日号・表紙

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