2022年私立中入試:人気が継続で難度がアップ 「他大学」挑戦も進む付属校〈サンデー毎日〉
近年の厳しい大学入試状況から、中学入試では難関大付属校は高人気を継続してきた。大学受験を経ることなく入学が可能で、伸び伸びと学校生活を送れるからだ。だが今春は、その人気に陰りが見られた。どんな状況なのか。
首都圏中学入試は、2021年も受験生数が増加し受験率がアップした。大学付属校は高い人気が続いていたが、21年入試では状況が少し変化したという。
首都圏難関大付属校の中学入試志願者数の3年間の推移を見てみると、早慶やMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)の付属校22校の志願者数合計は、16年以降増加し続けていたが、21年は2万5157人で前年比1034人減少した。
志願者数が増加した学校は、18年の20校をピークに19年が14校、20年が12校になり、21年は6校のみになった。減少校数が5年ぶりに増加校数を上回った。 増加した学校は慶應義塾中等部、明治大付明治、明治大付中野、中央大付横浜、法政大、日本女子大付だ。うち5校が前年は減少校で、2年連続で増加したのは日本女子大付だけだ。減少幅が大きかったのは、青山学院横浜英和、香蘭女学校、早稲田、法政大第二、立教新座、中央大付など。
なぜ難関大付属校は志願者が減ったのか。安田教育研究所代表の安田理さんはこう見ている。
「付属校人気が継続した結果、難関大付属校の入試難度がアップし、大手中学受験模試などの偏差値表で、掲載される偏差値ゾーンがランクアップしました。すると、比較対象となる学校に、大学合格実績が好調な進学校が多く含まれるようになったのです。その結果、大学入試はしなければなりませんが、同じ難度なら、6年後の選択肢が広い進学校を選ぶ保護者が増えてきたと思われます」
同じゾーンに、早稲田大や慶應義塾大に卒業生の3割合格や、MARCHに半数以上合格している進学校が並んでいれば、迷う保護者も多い。
もともと大学付属校の高人気は、入学定員厳格化で私立大入試の厳しさが増したことや、21年度からの大学入試改革への不安からだった。そのため、早い段階で大学付属校に入学し、進路面での安心を得たいという保護者と受験生が多くなっていたからだ。 しかし、大学入試センター試験に代わって21年度から始まった大学入学共通テストでは、改革内容が縮小され、英語の民間試験導入も見送られた。そのため大学入試に大きな変革が感じられなかった保護者が多かったと考えられている。その結果、大学付属校だけでなく、進学校にも目を向ける保護者が増えたことが、付属校の志願者減につながったようだ。
22年中学入試では大学付属校人気はどうなるのか。この夏、大手中学受験塾・日能研の模試で、重視する志望理由について調査したところ、前年と比較して変化が見られたという。男女ともに「大学付属校だから」という理由が減少したのだ。一方、大きく伸びたのが「未来への期待・学校の熱意」だった。中学受験情報誌『進学レーダー』編集長の井上修さんは、こう分析する。
「昨年のコロナ禍では、休校時の対応が、大学ごとに異なりました。難関大だから良い対応がなされたわけではなく、中堅大の中にも手厚い対応の学校があったことは衝撃的でした。そのため保護者の大学への評価が変わりつつあります。今後、社会状況の変化が不透明な時代になったことが明確に感じられ、どのような状況になっても十分な対応ができる学校への期待感が高まっているようです」
今後は大学付属校だからと単純に選ぶのではなく、進学校も視野に入れ、学校の内容から選ばれるように変わってきている。
といっても、大学付属校の人気が大きく下がるわけではないようだ。今までは、難関大に内部進学率が高い付属校の注目度が高かった。だが、付属校の一番の利点は、高大連携教育などを通して大学の学びが中高在学中に受けられることだ。大学の出張講義や施設利用など、多様な体験ができる付属校が強みを増しそうだ。
進路の選択肢も多様 併設大とも連携充実
早慶の付属校は志望者が減少傾向だという。特に慶應義塾湘南藤沢が大きく減っている。横浜初等部の卒業生が内部進学するため募集人員が減り、難化が進んだからだ。全体的に安全志向が強く、実力以上の学校にチャレンジする受験生が減っている影響もある。
MARCHの付属校はおおむね前年並みを維持しているという。しかし、中学入試では、志願者数が減った翌年は反動で増加するケースがよく見られる。21年に減った学校も、22年は増加することもあり油断はできない。今後も志望動向に注意する必要がある。 そんな中、人気が高まっているのが、日本大豊山、日本大藤沢、日本大第三、目黒日本大などの日本大系列校、東洋大京北、東海大付高輪台など。いずれも併設大に多彩な学部・学科がある総合大学付属校だ。最近は大学名よりも、学びたい学部・学科で志望校を選ぶ傾向が強まっている。6年後の選択肢を多くしたいと保護者は考えている。
また、併設大だけでなく他大学進学にも対応している「進学付属校」も人気だ。他大学受験が可能なカリキュラムを整えたコースを設置し、生徒の多様な進路希望に応える学校も増えている。
中でも獨協の人気がアップしている。もともと医歯薬系など理系志望者が多く、併設大への進学者は少ない。21年春も京大と東工大各1人、早稲田大4人、慶應義塾大5人、東京理科大14人、明治大23人、中央大20人など大学合格実績が好調だ。さらに、系列の獨協医科大への推薦枠もある。21年入試で午後入試を新設して志願者が大きく増えたが、その勢いは継続しているという。
女子大の付属校も志望者が増加傾向だ。一般的に女子大は学生の面倒見が良く、付属校にも高大連携プログラムを充実させる動きが活発だ。共立女子は、一橋大1人、東工大4人、早稲田大22人、慶應義塾大6人、東京理科大25人、明治大33人、立教大40人など他大学合格実績が高い。しかし、併設の共立女子大に20年にビジネス学部が新設されてから内部進学希望者が増加傾向だという。大妻中野でも、大妻女子大の社会情報学部の進学希望者が増加。時代に合わせて女子の社会科学系学部志望にも対応しているのが魅力だ。
関西圏の状況も見てみよう。日能研関西によると、21年入試は受験生数が1万7079人で前年比微減、受験率は9・64%で横ばいだった。来年もほぼ同様の状況になるとみられている。コロナ禍の影響で、自宅から遠い学校を選ばない受験生が増えたようだ。
その中で、大学付属校は関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)の付属校を中心に、根強い人気が継続しているという。日能研関西・進学情報室室長の森永直樹さんがこう話す。
「関関同立の付属校はもともと不動の人気を保っています。しかし首都圏とは異なり、難度はそれほどアップしていません。お得感が高い学校として評価されています。特に同志社香里と同志社女子、立命館が人気ですね」
同志社香里は大阪にある同志社大の付属校だ。伸び伸びと学校生活を楽しめる学校として人気が高い。同志社女子は、関関同立の付属校の中で唯一の女子校。同志社大と同じ京都市今出川にキャンパスがあるのも高人気の理由だ。
立命館は21年春の立命館大への内部進学状況が7割を下回って67・3%だった。他大学への進学者が増加しているのだ。今年も京大6人、大阪大8人、神戸大7人、関関同立に計86人が合格した。
森永さんが言う。
「立命館の特進のAL(アドバンストラーニング)コースや後期日程入試では、難関進学校の洛星や洛南高付、高槻などとの併願者が多くいます。立命館大への進学だけでなく、医学部や難関大進学が可能な学校として人気が高まっています。中高大一貫のCL(クリエーティブラーニング)コースも変わらず人気です」
そのほか、他大学進学に力を入れている学校として産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)の付属校も人気が高い。特に近畿大の付属校は、併設大の人気アップが影響し併設大・他大学進学志望者両方から注目される。
最近は、大学付属校だけでなく、進学校と組み合わせた併願プランを考える保護者が増えたという。それぞれの良さを認めて学校選択を行っているようだ。そのためにも多くの学校を見て、子どもに合った学校を見つけることが重要になる。次ページからのデータを志望校選びに役立ててほしい。