2022年度大学入試:全国739進学校アンケート「オススメ大学」ランキング 首位は「教育力」東大、「改革力」早稲田大、「面倒見」金沢工業大…〈サンデー毎日〉
コロナでも進路指導教諭が「推す」大学は何が違うのか
9月末には共通テストの出願が始まり、2022年度入試(22年4月入学)が動き出す。この時期は受験勉強とともに、志望校選びも重要だ。そんな時に頼りになるのがエキスパートの意見。進路指導教諭オススメの大学はどこか。
新型コロナウイルスの感染拡大の中で行われた21年度入試は、今までにない結果となった。鳴り物入りでスタートした大学入試改革は、国語と数学の記述式の出題や英語民間試験の活用は、ことごとく中止になった。改革の目玉が中止になった大学入学共通テストの志願者は2万人以上減少し、53万5245人にとどまった。前年に比べて大学入試センター試験時代を含め、過去最大の減少となった。特に浪人生が2割近く減少した。浪人生は入試改革前の20年度、最後の旧入試に現役として挑んだ。しかし、浪人しても翌21年度は入試が変わるためメリットが少ないと判断し、現役で進学した受験生が多かったようだ。ただ、平均点は上がり、初めての共通テストは難化するという予測は外れた。
来年入試はどうなっていくのか。本誌と大学通信は、注目を集める来年入試について、全国の進学校2000校にアンケートを行い、739校から回答を得た。
その中で入試について「今年、激減した共通テストの志願者は来年どうなるか」と聞いている。「今年と変わらない」がもっとも多く57・5%、次いで「今年より増える」20%で、「今年以上になる」との回答が8割近かった。駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長がこう解説する。
「この1カ月の感染状況で共通テストの志願者がどうなるか、決まるのではないでしょうか。9月末から出願が始まりますから、それまでコロナ感染が拡大したら志願者は増え、逆に終息の方向に進んだら減少すると見ています。今年の入試でもそうでしたが、感染が拡大すると、大学が最後の入試方式として、共通テストの成績だけで合否を決める方式に切り替える可能性があるからです」
次に「来年の国公立大入試はどうなるか」は、「今年とあまり変わらない」がトップで46・3%、国公立大・前期の人気が「少しアップ」が28・4%、「さらにアップ」が10・6%などだった。アップするという回答の合計が51・6%で5割を超えた。来年入試も国公立大人気は高くなりそうだ。
今年、戦後最大の14%の志願者減となったのが私立大だ。来年は「今年と変わらない」が44・5%、「今年より少し(5%未満)増える」29%など、「今年以上になる」との回答は8割近かった。石原氏は「共通テストはセンター試験と傾向が変わり、対策が必要になってきます。国公立大志望者は受けても、私立大志望の受験生は敬遠し、私立大専願者が増える可能性もあります」と言う。
一方、大学選びはどうなるかについても聞いている。「学校推薦型選抜や総合型選抜が人気になる」との回答が52・5%で、年内入試の人気が高くなりそうだ。次いで「現役での進学志向がさらに強くなる」が48・3%、「安全志向がさらに強まる」が48%、「地元志向が強まる」が38・9%だった。さらに、私立大に限った人気になる入試方式では、トップは「指定校制推薦」が40%。続いて「総合型選抜」「共通テスト利用入試」「公募制推薦」の順だ。昨年もコロナの感染拡大で、年明けの一般選抜が実施できるのかの不安があり、年内入試が人気だった。来年入試も同じになりそうだ。
コロナ対策は「受験料を一部無料」の千葉工業大が首位
また、アンケートでは各項目別に、進路指導教諭にオススメの大学を挙げてもらっている。5校連記で記入してもらい、最初の大学を5ポイント、次を4ポイント……として計算して集計した。
まず、「コロナ対応が上手だったと思われる大学」。昨年はコロナ感染が拡大し、学校の3カ月近い休校などで急きょ、授業を対面からオンラインに切り替える大学が多かった。トップは千葉工業大。コロナ不況の到来を見越し、今年の入試で共通テスト利用入試の受験料を無料にした。日下部聡入試広報部長がこう話す。
「昨年の6月から対面授業を再開し、検温、消毒は教職員総動員で実施しました。学生全員にiPadを持たせていたので、オンライン授業は問題なく実施できましたが、地方からの学生らが部屋から出られず、食事への不安もあったので、学生には無料で食券を配り、学生食堂を朝から晩まで開き、学生の食の安定化を行いました。食堂の消毒は全席念入りに行い、それは今も続けています」
千葉工業大のように入試での対応の評価は高い。元々、早くからコロナ対策を実施した立教大は、今年から全学部で試験日自由選択制の入試を実施した。5位の横浜国立大、16位の宇都宮大は、いずれもコロナ禍で大学独自の2次試験を行わず、共通テストのみで判定する入試を実施した。
「面倒見が良い大学」だ。トップは17年連続で金沢工業大。進路指導教諭からも「高校の学びの状況に応じて、学び直しの指導を行っている点」(岩手・県立高)、「入学時に比べて卒業時の能力を高めて社会に送り出しているから」(新潟・県立高)、「まじめな学生をしっかりサポートして、成長させている」(奈良・私立高)などの評価だ。2000年から他大学に先駆けて数理工教育研究センターを設置し、高校の数学・理科の復習から大学の専門領域で活用できる数理学習まで、個別学習指導が受けられる体制を整えている。企画部広報課長の山川亮太郎氏がこう話す。
「学生をいかに伸ばすかがメインですから、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)であるプロジェクトデザインの授業で、テーマにそってグループを組んで学習、議論を重ねて発表していきます。4年間必修ですので、いろいろな人とチームを組むことで力がつきます。数理工教育研究センターでも気軽に聞けることで、学生は分からないところをすぐに理解できることも大きいと思います」
2位は武蔵大、3位は東北大、4位は福岡工業大、5位は産業能率大だった。武蔵大は〝ゼミの武蔵〟といわれるほど、ゼミナール形式の授業が有名だ。このゼミは少人数教育で、今でいう双方向で授業を進めるアクティブラーニングだ。武蔵大は昔から実践しており4年間の必修。来年、国際教養学部の新設を予定している。
「就職に力を入れている」は明治大が12年連続でトップ
次に「就職に力を入れている大学」を見てみよう。トップは12年連続で明治大。学生の就活サポートに力を入れていることで知られ、有名企業に強い。今年の就職先企業を見ると、明治安田生命保険、楽天グループ各38人、SCSK32人、NEC31人、あいおいニッセイ同和損害保険、三井住友銀行各27人、TIS26人、富士通25人など。次いで金沢工業大、九州工業大、法政大、前年14位から5位に上がった福岡工業大、産業能率大の順だった。
ランキングには本誌既報の実就職率(就職者数÷〈卒業生数-大学院進学者数〉×100)が高い大学も多い。卒業生数1000人以上でトップの金沢工業大が2位、3位の国公立大13年連続トップの福井大が9位に入っている。各地域からの評価を見ると、北海道・東北からは金沢工業大がトップで、関東・甲信越と中国・四国は明治大、北陸・東海は福井大、近畿は立命館大、九州・沖縄は九州工業大を抜いて福岡工業大が高評価だった。関東・甲信越で2位の産業能率大は、ポイント全てがこの地区だ。評価の理由を、入試企画部の林巧樹部長がこう話す。
「近年は入試の難化もあって、入学者のレベルが以前に比べて上がり、学生に自信がついてきました。また、就活の企業でのプレゼンなどは正解のない問いが出されますが、それは大学の教育でずっとやってきたことで、学生は物怖(お)じせずに意見を言えるようになってきたことがあると思います。実就職率が高いことに加えて、最近では有名企業にも入社する学生が増えてきています」
「教育力が高い大学」のトップは15年連続で東大だ。2位は東北大、3位は京大で、旧七帝大がトップ3を独占した。4位は公立大トップの国際教養大、5位は大阪大、6位は私立大トップの東京理科大だった。地域別に見ると、北海道・東北は東北大、関東・甲信越は東大、北陸・東海は名古屋大、近畿は大阪大、中国・四国は京大、九州・沖縄は九州大。地元大学への評価が高いのが特徴だ。
「小規模だが評価」は国際教養大、「生徒を伸ばす」は東北大が1位
「改革力が高い大学」だ。早稲田大がトップに立ち、それまで5年連続1位だった近畿大を抜いた。早稲田大は政治経済学部をはじめ、積極的な入試改革が高い評価を受けたようだ。入試改革を実施した大学では、昨年の10位から4位の立教大、14位から7位の青山学院大、27位から10位の千葉工業大、26位から15位の上智大など躍進が目を引く。早稲田大、青山学院大、上智大など、国公立大と同じように、共通テストと大学独自試験の選抜に変えたところの評価が高かった。
2位の近畿大は今年で8年連続志願者日本一を達成。来年、情報学部を新設する。まだまだ改革の手を緩めてはいない。同じように昨年より順位を上げた17位の慶應義塾大は、東京歯科大との統合により歯学部設置が動き出したことが評価されたと見られる。
「小規模だが評価できる大学」だ。トップは国際教養大、次いで武蔵大、国際基督教大、産業能率大、会津大、津田塾大の順となった。上位4校はいずれも文系の小規模大学だ。学生と教員の距離が近く、特色ある教育で高い評価を得ている。
さらに、今年の特徴は女子大の躍進だ。昨年の10位から6位にアップした津田塾大、37位から11位の神戸女学院大、265位から14位の恵泉女学園大など、表中の女子大はすべて順位を上げている。コロナ禍での不況到来が懸念される中、就職に強い女子大に注目が集まっている。
昨年から順位をジャンプアップさせた恵泉女学園大は、東京都多摩市にある人文と人間社会の2学部の大学だ。園芸教育に力を入れていることで知られ、学生は毎年、野菜や花を育てている。アドミッションセンター長の漆畑智靖教授がこう話す。
「コロナ禍で受験生の安全志向が強まって、女子大人気が上がったことがあるのかもしれません。小規模ということもあって、教職員と学生の距離が近いことや、ここ数年、高大連携をきめ細かく続け、教育内容を広く伝えてきたことで、コロナ禍で大学情報が不足する中、評価されたと思います。早くから始めた国際教育が評価されていることもあるのでしょう」
「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」だ。トップは東北大、2位は東京理科大、3位は金沢工業大、4位は東大、5位は大阪大の順となった。東北大は「面倒見が良い大学」「改革力が高い大学」がいずれも3位と、評価が高く人気もある。予備校関係者は「東日本の国立の難関総合大学となると、東大の次は東北大になることもあり、首都圏でも人気が高いこともあるのでしょう」と言う。
来年の入試で人気は情報系や医療技術系
「生徒に人気がある大学」だ。トップは2年連続で明治大、次いで早稲田大、立教大、青山学院大、慶應義塾大の順で、ここまでは昨年と全く同じ顔ぶれだ。6位に国立大トップの東北大、7位に昨年の19位からアップした上智大となった。首都圏の私立総合大が上位を占める。やはり入試で5教科7科目の国立大は敷居が高く、3教科の私立大なら手が届きそうな感じがあるからだろう。また、どのランキングにも必ず出てくる理工系大学だが、この項目だけは入っていない。生徒の人気は総合大学ということのようだ。
「偏差値や地理的条件、親の資力などの制約がない場合、生徒に勧めたい大学」だ。国公立大トップは7年連続で東大、次いで京大で、3位が東北大だった。トップ10には旧七帝大全校と東京工業大、一橋大、公立の国際教養大が入っている。難易度の高い大学が上位に来ていることが分かる。地域別に見ると、関東・甲信越ではトップは東大、近畿では京大が首位だった。
一方、私立大はトップが早稲田大、2位が慶應義塾大で、この2校が3位以下に大差をつけた。以下、国際基督教大、東京理科大、明治大、上智大の順だ。やはり難易度が高い大学が上位に来ている。地域別では、関東・甲信越は早稲田大、近畿では同志社大がトップだった。
「生徒に人気のある大学」では、「自分のしたい勉強ができる大学」が76・9%で11年連続トップだ。次いで「知名度が高い大学」58・9%、「社会的評価・イメージが良い大学」57・3%、「家から通える大学」57・1%、「資格が取得できる大学」55・2%、「就職に有利な大学」53・3%の順。ここまでが5割を超えている。特に「家から通える」のポイントが昨年より上がっており、コロナ禍で地元志向が高まった様子がうかがえる。「資格取得」「就職に有利」のポイントも上がっている。既に大学生の新卒を採用しない企業も出ており、就職に関心が高い生徒も増えているようだ。逆に大きく下がったのが「留学制度の充実・国際交流の活発な大学」だ。昨年より10ポイントも下がっており、コロナ禍の影響で留学できないことから関心が薄れていると見られる。
次に「受験生に受け入れられる改革」について見ていこう。トップは「キャリア教育など就職支援」で46・1%、2位は「学校推薦型選抜・総合型選抜の充実」で44・8%、「今、人気の学部・学科の新設」で36・9%、「資格取得支援」で34・6%だった。就職支援など、就活のサポートへの期待は高いが、一般選抜以外の入試方式の改革も求められている。
最後は「来年入試で人気になりそうな学部」についてだ。トップは情報系で56・4%、次に看護の51・2%、以下、医療技術系、経済系、工学系と続く。理系人気が高く、さらに医療系人気が高くなることは確実の情勢だ。
コロナ禍が続く限り、来年入試も安全志向の入試になることは確実で、地元志向も高まりそうだ。しかし、コロナ禍はやがて収まる。こういった時こそ、強気な受験を心がけたい。一般選抜だけにこだわらず、年内の総合型、学校推薦型選抜も活用するほうがいい。エキスパートの評価を参考にしながら「入れる大学選び」ではなく、「入りたい大学選び」を大切にしてほしい。