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アフガニスタンの行方 前駐日大使に直撃 「暫定大統領」を宣言したサーレ氏の動きが重要=粟野仁雄〈サンデー毎日〉

今年1月まで駐日アフガニスタン大使を務めたバシール・モハバット氏(筆者撮影)
今年1月まで駐日アフガニスタン大使を務めたバシール・モハバット氏(筆者撮影)

 タリバンはイスラム法に基づき数人で全て決める

 米軍がまさかの〝敗走〟―。アフガニスタンは前世紀以降、英国、ソ連、米国が侵攻しては撤退したことになる。この国はどこへ向かうのか。今年1月まで約4年間、駐日アフガニスタン大使を務めたバシール・モハバット創価大教授(64)に聞いた。

 8月26日、アフガニスタンの首都カブールの空港とその近くで自爆テロが起きました(28日付の米CNNによれば、米兵13人のほか170人以上が死亡)。米国などの政府はテロを警戒し、数日前から「空港に近づくな」と警告していました。カブールを制圧したイスラム主義組織タリバンはテロの危険を分かっていたはずです。アフガニスタンには多くのテロ組織が潜伏しており、難しい局面になっています。

 私の父は(1973年まで続いた)王政時代、警察長官を務め、父のいとこも文部大臣でした。私は19歳だった76年に来日し、拓殖大や中京大で学びました。しかし、ソ連が79年にアフガニスタンに侵攻すると帰国できなくなり、私の家族や親戚は国外に出ました。今も兄弟は皆、米国やドイツなどに暮らし、友人の大半も国外に出ています。私は大学で教鞭(きょうべん)を執った後、自動車メーカーに就職して米国に6年滞在しました。日本のテレビでアフガニスタン情勢のニュースを見て、極貧国と思った人が多いと思います。でも、70年代までは日本に負けない豊かな国でした。ソ連の侵攻で全てがおかしくなってしまったのです。

 その後、ソ連軍の撤退(89年)、内戦、タリバンによる政権樹立(96年)、米軍をはじめとする多国籍軍による侵攻と新政権発足(2001年)が続きました。それから20年、米軍が撤退する中、「タリバンによるカブール制圧は近い」と感じていました。

 しかし、タリバンが8月15日、カブールに入ると、「こんなに早いとは」と驚きました。米軍の撤退は早すぎたと思います。タリバンの幹部は外国向けの記者会見で、(01年までのタリバン政権とは違って)「女性の権利は守る」などと発言し、女性の待遇に関する国際社会の懸念を理解しているかのようです。別の幹部がアフガニスタンのテレビ局に勤める女性キャスターからインタビューを受けるといった、以前なら考えられないこともありました。

 しかし、記者会見で幹部は「女性の権利はイスラム法に基づいて認める」とも言いました。また、幹部の発言が末端の兵士に届くとは限りません。女性にブルカ(全身を覆う衣服)の着用を強要することもあり得ると思います。

 01年までのタリバン政権は「シャリーア(イスラム法)に基づく統治」として、数人の幹部だけで全て決め、議会はありませんでした。今回の新政権も、現行憲法をなくし、代わりにどういうものを制定するのか不明です。タリバンの構成員には教養に乏しい人が多く、(タリバンのカブール制圧にともなって崩壊した)ガニ政権で行政を担った官僚がいなければ、政府を運営できません。しかし、ガニ政権に関わった人も国民の多くもタリバンを怖がっています。そこでタリバンは「恩赦」をちらつかせ、ガニ政権関係者を国内に引き留めようとしています。

 タリバンのトップ、ハイバトゥラー・アクンザダ師は、今は所在が不明です。カブールに入ったナンバー2のアブドゥル・ガニ・バラダル師だけでは物事を決められません。指導者の顔が見えないことが気になります。

 国内にはタリバンによる国家樹立を拒否する勢力もあります。北東部パンジシール州に移動したアムルラ・サーレ氏の動きが重要です。サーレ氏はガニ政権の第1副大統領を務め、「私が正統な暫定大統領」と主張しています。共闘する相手は32歳と若く、英国のトップ級の大学を卒業し、教養がある政治家のアフマド・マスード氏。同氏の父親はかつてソ連軍と戦い、北部同盟を率いてタリバンに殺された国民的英雄のアフマド・シャー・マスード将軍(01年死去)です。

 「一帯一路」を進めたい中国

 タリバンはサーレ氏とマスード氏が共闘することになったと知り、パンジシール州に部隊を派遣しました。気掛かりな動きですが、タリバンは地域の長老を介してサーレ氏らの勢力と交渉すると思います。もし交渉がうまくいかずに戦闘になれば内戦に陥り、一気に全土に拡大するかもしれません。心配しながらニュースを見守っています。

 米国が去ったことで、近隣国が虎視眈々(たんたん)と機会を狙うようになりました。アフガニスタンと国境を接する中国は、国内のウイグル族過激派がタリバンとつながることを警戒しています。習近平国家主席はアフガニスタンの新政権にこの問題を表に出さないように頼み、「一帯一路」をうまく進めたいはず。ロシアのプーチン大統領はタリバンが大嫌いですが、経済的な利用価値を探って様子見しています。ソ連時代の失敗からも、おおっぴらに軍事介入するとは考えられません。イランは猫をかぶったようにおとなしくしていますが、今後の動きに注意すべきです。タリバンの一部はイランと通じているからです。

 日本はこの20年、アフガニスタンの復興に大きな貢献をしてくれました。経済援助のほか、日本の警察官がトルコでアフガニスタンの女性警察官に訓練をしてくれました。

 今、東京のアフガニスタン大使館は大変です。大使館の維持に莫大(ばくだい)な経費が必要ですが、本国からの送金が途絶えれば閉鎖せざるを得ません。日本をはじめ世界中のアフガニスタン大使館が閉じれば、それこそ北朝鮮と同じような状態になってしまいます。(01年までの)タリバン政権を承認した国はサウジアラビア、パキスタン、アラブ首長国連邦の3カ国だけでした。新政権が民主的な社会を認めなければ、国際社会は国家承認せず、経済援助をしないでしょう。国際的に孤立するだけです。

 とはいえ、新政権があまりにも西欧的な民主主義制度を認めれば、これまで掲げた大義を否定することになります。タリバンは矛盾を抱えているのです。(談)

Bashir Mohabbat

 1956年、アフガニスタン・カブール生まれ。2003年、東京にある大使館が再開すると、外交官試験を受け2等書記官として勤務。17年から駐日大使。19年に銃撃死した中村哲氏の葬儀では涙ながらに弔辞を読んだ。今年1月に退任

あわの・まさお

 1956年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。大阪大文学部卒業後、共同通信記者を経て現職。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『ルポ原発難民』(潮出版社)などがある

「サンデー毎日9月12日増大号」表紙
「サンデー毎日9月12日増大号」表紙

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