インタビュー THE ALFEE 70枚目シングルに託した思い「新曲こそ希望だ」=石戸諭〈サンデー毎日〉
47年続けられた理由、無観客ライブで感じたギターの重み…語り尽くす
THE ALFEEが、通算70枚目のシングル「The 2nd Life -第二の選択-」をリリースした。新型コロナ禍は彼らにとっても逆境である。春に予定していた全国ツアーに続き、有観客で予定していた夏の横浜アリーナ公演「THE ALFEE 2021 Summer Baby, Come Back!」も東京への緊急事態宣言を受けて予定変更を余儀なくされた。活動の基本と位置付けるツアーができない状況が続いている中でリリースした新曲は、希望に満ちたものだった。
東京都内某スタジオで、3人が揃(そろ)って取材に応じた。オンラインではなく、感染予防策を徹底した上で、生の言葉を届けたいという思いが伝わってきた。ツアーという日常が失われてしまったことを3人はどう感じているのか。私の質問はそこから始まった。高見沢俊彦が「解散したグループが再結成した理由がよくわかった」と口を開いた。
高見沢俊彦 僕らはツアーをメインにして活動をしてきたので、今は早くライブがやりたいですね。以前は、再結成するくらいなら、解散なんてしなければいいのに、と思っていたんですが、今はそのバンドの気持ちがよ~くわかります。2020年の春は、夏になれば大丈夫、冬ならもっと大丈夫と思ってましたが、できなかった。21年も春には大丈夫だろう、夏のイベントならできるだろうと思ってたんですが、結果できなかった。残念だけど切り替えるしかないですね。
坂崎幸之助 僕らはツアーがあることが日常だったからね。体のほうが正直で血流が悪くなったみたいで、僕はめまいに悩まされました。ラジオやテレビのレギュラーは変わらないけど、ツアーがない。リハーサルまで入れたら5時間は立ちっぱなしで演奏する。移動もしながら、ライブを年間60本やってきたことが体に良かったんですよ。
高見沢 大丈夫かよ。坂崎の健康は大事だよ
桜井賢 いやいや、高見沢の健康も大事だよ。この人は曲だけじゃなくて、小説も書いているし、コラムなんかも書いているんですよ。活動を続けるために、健康でいてほしいよ。2人は他の仕事もあるけど、僕の場合はALFEEしか活動がないから、ライブという本職がなくなったら、何もすることがない。最初は楽だなと思ったけど、ここまできたらまだやらないの?となるじゃないですか。でもこの、コロナ禍で3枚シングルを出して、「Come on! ALFEE!!」という配信も始められた。やっと仕事ができたって感じですね。
高見沢 最近のニュースを見て思うのは、事実を正確に伝えてるからか、見ているだけで、どうも気が滅入(めい)る。なぜかなって思ったら、そういうメディアのニュースには希望がないんですよね。で、ミュージシャンにとっての希望は?と考えたところ、それは新曲だと気がついて、この一年は猛烈に曲を書きましたよ。前を向いて進むしかないですからね。
ぬるま湯の関係だから長続きする
ニュースの世界は常に危機を強調し、「それでも前を向いて生きよう」という動きを描くことはどうしても後回しになった。現実を描くためには、確かに希望は必要だ。高見沢はかつて、デビュー20周年を記念したインタビューで、歌詞の書き方について「根がネガティブだから後ろ向きになる」と話していた。この変化はどこに?
高見沢 当時は40歳前後かな。今から思えば、まだまだひよっこですよ。元から明るい人間ではないけど、バンドを続けるために常に前に向かっていかないといけない。だから、少しは進化したと思います。3人とも性格は違うけど、ウマが合うのか同じ船に乗り込んで、長年バンド活動をやってきましたからね。一人では乗り越えられないような荒波も3人でなら、何とか乗り越えられるんですよ。
坂崎 ぬるま湯の関係なんだよな。
高見沢 そうそう。でも、ぬるま湯であるために努力が必要です。適温でいるために、熱くなったら冷まし、冷めたら温める。
坂崎 ぬるま湯に浸(つ)かっていたら健康(笑)。僕らは「もうちょっと、ちゃんとやれよ」って言われてきたんです。確かに、他のバンドは熱いんですよ。親父が浸かっている下町の銭湯くらい熱い。若いときは熱く、年を重ねると冷めてしまって解散するでしょ。でも適温だと続けられるんですよ。
桜井 よく続けられた秘訣(ひけつ)みたいなことを聞かれるけど、あんまりないよな。続けてきたことだけが事実で、自分たちがやりたいことをやって楽しいと思うためには、努力も必要。でも、そこをあえて見せる必要はないですからね。デビューはしたけど売れない時期も長かった。高見沢が曲を作って、それをライブハウスで2、3人のお客さんの前で演奏するところから始めて、何とか日本武道館を満員にできるようになり、「メリーアン」がヒットした……。
坂崎 先輩たちも含めて解散したグループをいっぱい見てきましたよ。いろんなバンドが参加した学園祭かな? あるバンドが楽屋で殴り合いの喧嘩(けんか)を始めたんですよ。熱くなっているのに、誰も冷まさないから。
高見沢 あれはびっくりしたよな。そんな時も僕らは、楽屋の隅でトランプをやっていた。あれはちょっとバツが悪かったなぁ。僕らはずっと「お前らは仲が良すぎる。3人でこれから切磋琢磨(せっさたくま)しないとバンドは大成しない」と言われてきたけど、それが自分たちだしね。仲が悪いより、良い方がいいに決まってると思ってたし。
47年の活動で、今ではライブ会場に親子2代、3代というファンもいる。新しいファンは曲だけでなく、3人の仲が良い姿をインターネット動画で目にしたことがきっかけという声もある。坂崎は日本のフォークソング、桜井はアメリカのそれ、そして高見沢はハードロック、とルーツとする音楽性の違いもありそうなものだが――。
桜井 高見沢が「ALFEE KITCHEN」という企画でカツ丼を作ったとき、驚いたことに鍋の中に玉ねぎを丸ごと入れるんだよ。煮ているうちに、勝手に玉ねぎが割れていると思っているんだよな。ファンは面白いかもしれないけど、一緒にやっているほうは大変だよ。
高見沢 レシピに玉ねぎを切るって書いてなかったからね(笑)。
坂崎 音楽性は違うって思われているかもしれないけど、実は同じなんです。当時、音楽や流行は個人のものではなくて、その世代みんなのもので、同じラジオを聴いて、同じ雑誌を読んでいた。好みはあるけど、知っているものも多くて共通点はあったからね。
高見沢 それにしても、仲が良いというのが評価されるなんて、時代も変わったよな。坂崎 このバンドの特徴は、誰もリードボーカルを取りたがらないところ。普通なら、俺が、俺がなんだけど、僕らは高見沢が曲を作ってもみんなで、どうぞ、どうぞと譲り合ってしまう。
高見沢 だから曲によっては3人でオーディションもしましたよ。あとは多数決ですね。簡単ですよ。桜井が「いい人」って聞いて、2人が手を上げればいい。
桜井 数の論理だから仕方ないけど、理不尽極まりないですね(笑)。
3人元気でいれば何とかなる!
話は再び、「The 2nd Life -第二の選択-」に。デルタ株による第5波に直面する社会は、さらに先が見えなくなった。3人が有観客ライブを再開したときに伝えたいことは何か? そのヒントはイントロにあった。
高見沢 70年代はイントロが長く印象的な曲が沢山(たくさん)ありましたね。今はイントロが短いほうがいいと言われていますが、僕らはイントロにこだわりたい。僕の曲作りはストーリーを考えるところから始まります。今回はコロナ禍のように暗雲が立ち込めている空を生ギターの激しい音で打ち払って、光が見えたところで桜井が歌い始める。このシングルもまだ有観客ライブではやっていないので、ぜひ披露したいですね。早く新幹線や飛行機に乗って、いろいろな街でライブをやりたいですよ。そうすれば坂崎の健康も取り戻すことができる(笑)。
坂崎 憂鬱な気分は誰も同じですよね。今はお店でお酒も飲めないし、本当に大変だと思います。
高見沢 音楽は「不要不急」と言われたこともあったけど、それは違うと身をもって証明していかないと。それには希望だけは捨てずに、ライブができる日を待つしかないですね。今ツアーで動くとなると、11㌧トラックを5台走らせたりして、THE ALFEEのツアーは、かなりの大所帯ですからね。移動も含めて今は、まだ我慢の時でしょうね。
坂崎 最近、なんでALFEEのファンになってくれたのかなって考えるんですよ。何より、3人が楽しそうに演奏していることが大きいと思うんです。ライブだと、このバンドは音楽が本当に好きなんだなって伝わりますからね。
高見沢 それには、早く有観客でやらないと。無観客ライブ配信で、初めてギターが重く感じたからな。
坂崎 高見沢のギターが特殊で、ホントに重いからじゃないのか? 普通のギターを使えばそんなことはないと思うけど。
高見沢 そうなんだけど、今まで有観客では感じたことなかったから(笑)。ライブはオーディエンスのパワーに助けられてきたとあらためて思いましたよ。
桜井 正直な話をすると、無観客はやっぱり疲れる。カメラの向こうに人がいるんだと自分に言い聞かせながら歌いますが、観客の生のパワーはすごいからね。僕らのライブではコントもやるけど、無観客だとスタッフの反応しかないから、ちょっと寂しいです。でもまぁ無観客であってもライブができるだけ幸せですけどね。早く多くの人に、大音量で僕らの音を聞かせたいですね。「あぁこれがALFEEサウンドだ!」と思い出してもらえるようなライブをしたいですね。
坂崎 この時期、正直言って僕らにライブをやってほしいという声と同時に、まだやらないでほしいという声もあります。ファンもそれぞれに事情がありますからね。家族への感染が不安だから外に出られない人とか。そういう人が多いうちはなかなか厳しい。治療薬もできて、大多数がライブを望んでくれる世の中になってほしいですね。
高見沢 とにかく3人元気なら何とかなる! そういう精神で今の時期を乗り越えるしかないですね。でも、早くライブが始まらないと、ファクスだけしか連絡が取れない桜井が心配されちゃうからな。
桜井 ファクスといっても電話付きファクスで、これなら個人情報も漏れないし、電話は留守電にしているから大事な連絡は聞いているから大丈夫さ。「私の『Life』はデジタルがなくてもやっていける」と言いたいね。
高見沢 僕の場合はパソコン4台を駆使して音楽と小説、コラムなど使い分けています。全部クラウドでデータを共有していますからどこでも大丈夫。今までは新幹線や楽屋で書いていたけど、それが今はできないのがちょっと寂しいですね。
――ところで桜井さん、高見沢さんのパソコン使い分けやクラウド活用法についていけますか?
桜井 だ、大体わかるよ(笑)。
いしど・さとる
ノンフィクションライター。1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大法学部を卒業し、同年毎日新聞社に入社。2018年4月に独立。新著に『ニュースの未来』(光文社新書)