就活ならサンデー第2弾 2021年学部系統別 実就職率ランキング〈サンデー毎日〉
企業は学部名を見て採用することはないと言うが、学部系統ごとの平均実就職率の差は意外に大きい。就職に強い学部とそうでない学部はどこが違うのか。個別大学の学部系統別実就職率ランキングとともに検証した。
大学選びで就職支援を重視する受験生は多い。その支援力を判断する際、大学全体の就職率に注目することが多いが、入学するのは学部だ。志望校選びの指標の一つとして就職力を選択するなら、学部別の就職率に注目したい。
実際、同じ大学であっても、学部別の実就職率にはばらつきがある。例えば、MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)の中で、2021年卒の実就職率が最も高かった中央大の場合、最高の理工が94・7%なのに対し、最も低い経済は84・9%で9・8ポイントの差があった。
こうした傾向は中央大に限ったことではなく、学部系統別の平均実就職率を比較すると、系統間の差は意外に大きい。「学部系統別 平均実就職率」で21年の平均実就職率が91・7%で最も高い看護・保健・医療系と、81・6%で最も低い文・人文・外国語系では、10・1ポイントの差があるのだ。
コロナで全系統が低下でも強みを見せた「資格取得」系
看護・保健・医療系の実就職率が高いのは、看護師や作業療法士、理学療法士などの就職に強い資格が取得できることにある。同様に管理栄養士などの資格が取得できる家政・生活・栄養系も90・6%と高い。コロナ禍の影響で全ての系統で平均実就職率が下がる中、90%を超えているのは、この二つの学部系統のみだ。
「学部系統別 実就職率ランキング」で、看護・保健・医療系は、福井県立大・看護福祉や関西国際大・保健医療など8大学が100%となっており、ランキング全体で97%を下回る大学はない。家政・生活・栄養系は仁愛大・人間生活、ノートルダム清心女子大・人間生活、大阪市立大・生活科などが上位に入った。
その他の就職に優位な資格が取得できる学部系統では、福祉系が88・2%となっている。個別大学の状況は、福井県立大・看護福祉が100%で、関西福祉大・社会福祉や岩手県立大・社会福祉などの実就職率も高い。
一方、薬学系の平均実就職率は83・8%と高くない。その背景には、薬剤師国家試験の合格率が低い大学の実就職率が上がらないことにある。大学ごとに見ると、東北大と富山大が100%で、表の全ての大学が90%以上となっており、薬剤師国家試験における大学の合格実績の〝二極化〟が平均実就職率を下げている。
非資格系学部では、理工系(89・6%)と農学系(89・1%)といった理系学部の実就職率が高い。製造業の採用人数が多いことに加え、この系統の学びは専門性が職業に直結することが多く、研究や論文作成を通じて得られる、論理的思考力やチームで動ける人材を企業が求めているということもあろう。理工系では、豊田工業大・工、金沢工業大の環境・建築、福山大・生命工。農学系では、徳島大・生物資源産業、茨城大・農、名城大・農などが、それぞれの系統でランキングの上位に入っている。
資格が取得できる学部や理系学部に比べて実就職率が低いのは、文・人文・外国語系、国際系(81・8%)、法学系(83・3%)など。このように学部系統によって平均実就職率の差が生じる要因について、採用コンサルタントの谷出正直氏は、こう話す。
「理系の技術職や専門職の場合は、学部や研究室を重視することがありますが、多くはそのような採用はしません。一般的な職種において、論理的なものの捉え方など、専門を学ぶ中から得られる能力は役に立ちますが、学んだ知識が仕事に直接つながるケースはまれです。ただ、高いパソコンスキルやプレゼンテーション力など、企業が大学生に求める能力は上がっており、そうしたスキルが身につきにくい学部は、就活で多少苦戦することがあるかもしれません」
AIで事務職激減も求められる「基礎力」
もちろん、平均実就職率が低い系統にあっても、実就職率が高い大学は数多くある。学部別実就職率ランキングを見ると、文・人文・外国語系では名城大・外国語、安田女子大・文、茨城大・人文社会科など。国際系では常磐会学園大・国際こども教育、新潟県立大・国際地域、昭和女子大・グローバルビジネスなど。法学系では常葉大・法、大阪工業大・知的財産、一橋大・法など、ランキング上位の大学の実就職率は高い。
文系学部の中では、企業が大学生に求める能力が身につきやすい、商・経営系(86・2%)と経済系(85・2%)の平均実就職率が比較的高い。個別大学のランキング上位は、商・経営系が安田女子大・現代ビジネス、東京都市大・都市生活、愛知学院大・商など。経済系は大和大・政治経済、富士大・経済、ノースアジア大・経済などとなっている。
ところで、今後、AIやロボットに置き換わり事務職の仕事が激減するといわれる中、全般的に平均実就職率が低い文系学部の学生の就活状況は、どのような変化が見込まれるのだろうか。リクルートキャリア就職みらい研究所所長の増本全氏に聞いてみた。
「学業や課外活動など、どのようなことに、どう取り組み、学んで経験してきたことが問われることはこれからも変わりません。文系でも社会で活(い)きる経験をしてきた学生は評価をされています。職務限定の採用が取り沙汰されていますが全体の数パーセント、ポテンシャルを見る領域が大半です。経済産業省が提唱する新社会人基礎力に『何を学ぶか』『どのように学ぶか』『どう活躍するか』という能力を発揮するために必要な新たな三つの視点が加わっています」
社会人基礎力とは「考え抜く力」「チームで働く力」「前に踏み出す力」のこと。今後、コロナ禍の影響で業績が悪化する企業が増えると、大学生の就活が厳しくなる可能性が高い。そこで最も大きな影響を受けそうなのが文系学部の学生だが、企業が求めるポテンシャルを学生に身につけさせることができる大学なら、その影響は限定的なものになりそうだ。
文系学部に限らず、就職支援の重要度が増すと見られる中、現時点での就職力について「学部系統別 実就職率ランキング」で確認してほしい。