投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く⑳NVIC「おおぶね」シリーズ(中)「良い企業に国境は無い」――3条件の仮説を基に経営者と濃密な議論、「参入障壁」の高さを確認する

    NVICの奥野一成さんは、「良い企業に国境は無い」と語る
    NVICの奥野一成さんは、「良い企業に国境は無い」と語る

     本当の株式投資とは、株式を短期間に売買することではなく、「良い企業のオーナー」になり、中長期的にその企業の生み出す利益の「果実」を享受すること。海外では、ウォーレン・バフェット氏などの先例はあるが、日本ではほとんど見られない「本物の長期投資」を日本に根付かせようとしているのが、農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)常務取締役最高投資責任者(CIO)の奥野一成さんだ。

    「参入障壁」を重視

     NVICは現在、個人向けに、米国株の「長期厳選投資おおぶね」、日本株の「おおぶねJAPAN(日本選抜)」、欧米日の先進国株の「おおぶねグローバル(長期厳選)」の3本を運用、投資助言している。NVICは、この3本と機関投資家向けのファンド(8月末の純資産残高は米国株約1200億円、日本株約2900億円)を、「売る必要のない会社しか買わない」という一貫した投資哲学の基に運用している。その際に重視するのが、「投資先の会社が、持続的に企業価値を増大できる『構造的に強靭な企業』」(奥野さん)であることだ。 その条件は、①付加価値の高い産業・事業である、②圧倒的な競争優位性(参入障壁)を持つ、③長期的な潮流に乗っている――の3点だ。

     奥野さんの言葉を借りると、「①その会社が提供する財とサービスが、人類にとって不可欠であること、②その会社でないと作れないほどの強さを持っていること、③その財とサービスが人口増加などの不可逆的な潮流からプラスの影響を受けていること」となる。中でも、②の「参入障壁」を重視しているという。

    強靭なビジネスに国境は無い

     8月末の段階で、「おおぶね」はウォルト・ディズニー、テキサスインスツルメンツ、ビザなど30銘柄、「おおぶねJAPAN」は、HOYA、朝日インテック、キーエンスなど80銘柄、「おおぶねグローバル」は、独フックス・ペトロルブ(潤滑油メーカー)、独ラショナル(厨房機器メーカー)、信越化学工業など26銘柄に投資している。

     それでは、NVICは具体的にどう銘柄を選んでいるのか。

     銘柄の選定に際し、「強靭なビジネスに国境は無い」(奥野さん)が基本的な考えだ。財・サービスがボーダーレスに行きかう中で、母国でのみビジネスを展開すればよい時代は終わったと考えているためだ。

    3条件で仮説を立てる

     まずは、投資候補先企業について、その沿革をはじめ、財務情報、非財務情報、産業構造などを分析しながら、仮説を立てる。例えば、「おおぶね」の組み入れ比率が8月末で6.9%と首位の米ウォルト・ディズニー。NVICでは2015年から投資しているが、三つの条件に照らし合わせると、仮説は以下の通りとなる。

    ①付加価値:同社がミッキーマウスなどのキャラクターを通じて提供する「かわいさ、ヒーローへのあこがれ、家族愛、成長ストーリー」といった普遍的な価値は、世代を超えて訴求することが可能。数十年の歴史の中で築かれた定番コンテンツは、人々の間に浸透し、消費され続けている。

    ②競争優位性:世界で最も広範かつ愛されるコンテンツのポートフォリオを持っており、そのキャッシュフローを基に、新しいコンテンツの開発や、競合の買収により、常にポートフォリオを強化し続けることが可能。

    ③長期的潮流:その圧倒的なブランド力により、世界人口の増加や新興国の経済成長に伴う恩恵を受けることができる。また、ネットでのコンテンツ配信の拡大により、コンテンツそのものの付加価値が向上していくことが予想される。

     「ディズニーがなかったら映画産業はない。エンターティンメントの一部も無くなるくらいだ。いまさら、その向こうを張って、ネズミのキャラクターを作るところは出てこない」(奥野さん)。

    NVICは米ウォルト・ディズニーの強さを、三つの条件に沿って分析する Bloomberg
    NVICは米ウォルト・ディズニーの強さを、三つの条件に沿って分析する Bloomberg

    独自の分析資料を経営者に送付

     以上の仮説の正しさを検証するために、企業の経営者や役員に取材する。その際に聞くのは、「御社のビジネスには参入障壁があるのか」、あるいは、「競争力を決める要因は何か」の一点だ。

     企業取材する際も、「手ぶら」では行かず、その企業の競合環境などを独自に分析した「ディスカッションマテリアル」を作成し、訪問の1週間前に当該企業に送る。この資料は、企業側に「参考になる」と感謝されることも多く、場合によっては、「面白い投資家が日本からやってきた」としてIR(投資家向け広報)担当者ではなく、企業のCEOが直々に取材に応じることがあるという。

     さらに、工場・施設見学や市場調査も実施、競合企業やそのビジネスの川上、川下企業とも面談する。NVICではコロナ前では海外に年間6回、80~90社を訪問している。このような調査や対話を重ねながら、仮説の正しさを検証していく。

    強靭度に応じて、組み入れ比率に差

     組み入れに当たり、米国株の「おおぶね」では、ビジネスの強靭度、参入障壁の高さに応じて、組み入れ比率に差を設けている。ディズニー(6.9%)以下は、テキサスインスツルメンツ(6.1%)、ビザ(5.8%)といった具合だ。一度買った企業は見立てが違った場合などを除き、基本的に売却しないが、株価が大幅に上昇し、組み入れ比率を大きく上回ってきた場合は、一旦、上回った分を利益確定し、ファンド内でリバランスする。

     グローバルな企業分析、経営者との対話は、NVICに企業経営、事業の経済性などに関する知見となって蓄積していく。例えば、米3Mのインゲ・チューリン社長の取材から導いた「強い組織」に関する仮説を、信越化学の斉藤恭彦社長に持参すれば、斎藤社長から新たな気づきを得て、仮説がより精緻になる。米国の小売りビジネスの類型をまとめて、米セブンイレブンのジョセフ・デビント社長と面談すれば、より深い議論ができるようになる。

    投資先企業の綿密な分析に基づき、経営者と深い議論をするのがNVICの特徴だ(米ミネソタ州の3M本社) Bloomberg
    投資先企業の綿密な分析に基づき、経営者と深い議論をするのがNVICの特徴だ(米ミネソタ州の3M本社) Bloomberg

    経営者と「同じ船に乗る」

     「経営者からも『NVICとの対話は、事業運営上の気付きになることが少なくない』と言ってもらえる」(奥野さん)。このようなプロセスを通じて、NVICは「同じ船に乗る」投資家と経営者の共通目標である「長期的な企業価値の拡大」を図ろうとしている。取材や調査で得た3条件などに関する知見、気付きは、詳細な月次運用報告書を通じ、受益者にフィードバックする。

     こうした投資手法は、ファンドの運用成績にもプラスに働いている。特に、「構造的に強靭な企業」は、リーマンショックやコロナショックのような大きな経済危機の際には、株価の下方耐性が働く。「質への逃避」から投資家の資金がそうした銘柄に向かうからだ。

     昨年のコロナショックの際は、20年2月21日から3月末にかけて、米S&P500指数(配当込み)が、22.4%下落したのに対して、「おおぶね」は組み入れ26銘柄のうち19銘柄が指数のパフォーマンスを上回り、16.8%の下落にとどまった。一方、これらの銘柄は相場の上昇局面では、指数と連動して上がっていく。「大事なのはこの非対称性」(奥野さん)という。

    米国市場で強い日本企業を選ぶ

     NVICは、前身の農中時代の2007年から機関投資家向けに100億円の規模で日本株ファンドの運用を開始した。このファンドで、日本電産、信越化学工業、ファナック、セブン&アイホールディングスなどの20社に投資。ほとんどの会社は、米国市場で強い。「信越化学は米国で塩化ビニールを製造し、利益を出し続けている。産業用ロボットのファナックがなかったら、米国の工場の半分は止まる」(奥野さん)。

     米国は、3億2000万人強の人口がいて、それが毎年1%弱ずつ増えている。世界のGDPの4分の1は米国で創られる。そこで、勝ち続けられれば、世界の70億人に訴求することができる。「長期投資を考えた場合は、米国で強い日本企業を考えるよりも、米国企業の方が、魚影が濃い」(奥野さん)。そこで、12年から機関投資家向けに50億円の資金で米国株の投資を開始した。

    海外株投資に日本株の知見を活かす

     もっとも、最初の日本株運用で得た知見が、その後の米国株や欧州株の発掘にも役立っているという。これらの日本企業を分析すると、必然的にグローバルな競争環境と競合相手が浮かび上がってくる。「日本電産に投資をしたら、その競争環境を分析する中で、必ず米エマソン・エレクトリック(FA関連企業)という会社が出てくる。エマソンを分析すると米ハネウェルに行きつく」(奥野さん)。今では、エマソンもハネウェルも「おおぶね」の投資先だ。

     消費財ではユニ・チャームを調べれば、米P&Gや紙おむつの巨人、米キンバリークラークとどう戦っているのか、中国やインドネシア市場では誰が競合で、どうシェアを拡大していくのか、などが見えてくる。

    理想のファンド

     「良い企業に国境は無い」というのがNVICの考えだ。「国境を区切り、日本株、米国株、欧州株だと言っている時点で、『良い企業に投資をする』というコンセプトではなくなる」(奥野さん)。そのため、先進国の上場企業2万社の中から「構造的に強靭な企業」を選ぶ「おおぶねグローバル」が、奥野さんの目指す理想のファンドに、一番近いようだ。

     最終回では、NVICの受益者との向き合い方や、奥野さんの経歴、目指すところについて、紹介していきたい。

    (稲留正英・編集部)

    ((下)に続く)

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