教養・歴史書評

『税と公助 置き去りの将来世代』 評者・新藤宗幸

著者 伊藤裕香子(朝日新聞記者) 朝日新書 869円

「成長頼み」の安倍・菅を指弾 借金を先送りしない税財政問う

 安倍=菅政権は終わりを迎えたが、この間、財政健全化などはまったくの絵空事だった。本書は、コロナ禍による財政支出の拡大を見据えながら、将来世代を「置き去り」にしてきた安倍=菅政権の経済財政政策を厳しく問うものである。

 多くの論点が提示されるが、なかでも重要なのは消費税の増税だ。すべての国民が日々の生活で実感するだけに、政治家にとって消費増税は避けたいのが本音だろう。とはいえ、将来世代の社会保障負担などを考えるならば、安定的税収である消費税のあり方を直視せねばなるまい。

 本書は安倍晋三政権による消費税の取り扱いを詳しく追っている。2012年6月の「3党合意」に基づき消費税率を14年に8%、次いで1年半後に10%に引き上げる法律が、第2次安倍政権成立の4カ月前、12年8月に成立した。8%への引き上げは14年4月に実施されたが、10%への引き上げは次々と延期された。安倍政権は17年に「国難突破」をかかげて解散し、消費税の使途として幼児教育や高等教育の充実を挙げた。結局、食品への軽減税率を伴う消費税率の10%への引き上げは、ようやく19年10月に実施された。

 この背後にあるのは、歳出の削減や増税による歳入増より、経済の成長によって税収を増やし財政再建を目指すという考え方だ。しかし、政権には国債発行の削減は視野になかった。

 財政法4条は、経常経費に充当する赤字国債の発行を禁じている。1965年に赤字国債が発行されたが、1年限りで終わった。恒常的な赤字国債の発行は75年度からだ(90~93年度を除く)。政府は財政法の制約から毎年度財政法の特例法を提出し発行してきた。12年に与野党は4年間発行することを認めた。さらに安倍政権は16年と21年にこれを5年間とした。赤字国債の発行に法的歯止めがないに等しい。国債累積残高は21年度末に990兆円となる見通しだ。

 各国ともにコロナ感染症の拡大は人々の暮らしを直撃しており、臨時の財政支出が避けられない。そのための国債も発行したが、ドイツは返済計画を明示した。英国も23年からの法人税引き上げを決定した。次の世代に借金を先送りしないためだ。

 政治の責任は、子育て、医療、介護、雇用をはじめ誰もが安心して暮らせる社会を築くことだ。その核心は税財政にある。衆院総選挙は間近だ。果たして本書が強調するように、将来世代を見据えた財政運営へかじを切る動きが生まれるだろうか。

(新藤宗幸・千葉大学名誉教授)


 伊藤裕香子(いとう・ゆかこ) 上智大学卒業後、朝日新聞社に入社。流通や食品、税財政を取材、オピニオン編集部、経済社説担当の論説委員などを経て今年4月から東京本社経済部長に就任。著書に『消費税日記』がある。

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