投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く㉒日興AM「ミュータント」(上)中長期に利益成長するオーナー企業と大型バリュー株の組み合わせで、どんな経済環境でも安定したリターンを目指す

日興アセットマネジメントの北原淳平さんは、オーナー企業への投資で大きな実績を上げてきた(同社提供)
日興アセットマネジメントの北原淳平さんは、オーナー企業への投資で大きな実績を上げてきた(同社提供)

 日興アセットマネジメントが運用する「ミュータント」は、爆発的な利益増加や収益体質の改善など変貌を遂げ得る企業を「ミュータント・カンパニー」と定義し、これらの企業への投資により、信託財産の中長期的な成長を目指す日本株ファンドだ。

 設定は2000年9月で、9月末の純資産総額は190億円。設定来の騰落率は、9月末時点で260%だ。ファンド評価会社のモーニングスターによると、過去3年間の騰落率は年率13.57%で、「国内中型グロース」のカテゴリー平均の同7.3%を上回り、同カテゴリーの77ファンド中、5位の運用成績を出している。

「独自要因による利益成長」と「マクロ要因による利益改善」

 このファンドの運用を2019年8月から担当しているのが、株式運用部の北原淳平ファンドマネージャーだ。北原さんによると、①独自要因による利益成長が期待できる企業、②マクロ要因による利益改善が期待できる企業――の2種類を「ミュータント・カンパニー」として、投資対象にするという。

 実は、北原さんは、2019年7月に、前職の東京海上アセットマネジメントから、日興アセットマネジメントに転職した。前職では、オーナー企業へ投資する「ジャパン・オーナーズ株式オープン」の運用を担当し、大きな成果を上げてきた。一方、日興アセットマネジメントの「ミュータント」は設定から約20年が経つ歴史のあるファンドだが、北原さんが担当するまでは、グローバルなトレンドや国内外のテーマを追うスタイルだったものの、運用方針があいまいで、成績も今一つ、伸び悩んでいた。そこで、オーナー企業の運用で実績のある北原さんに、「ミュータント」の再生が託された。

「テーマ」から「利益重視」に方針転換

 北原さんがまずしたのは、ミュータントの運用プロセスの見直しだった。従来の「テーマ」を追うスタイルをやめ、「企業の利益」にフォーカスすることを明記した。「営利企業の第一の目的は『利益』であり、利益を出す力のある企業は株価の上昇が期待できる」(北原さん)からだ。そのうえで、投資対象を大きく二つに分類した。

 具体的には、①経営者のリーダーシップのもと、独自要因で利益成長する内需系・中小型の成長株、②は為替や金利などの外部要因の変化によって、利益の改善が期待できる外需系・大型株だ。

 ①の独自要因とは、「創意工夫」「営業・開発力」「人材・経営者」を示す。競争力の源泉は人であり、その代表は経営者だ。だから、強いリーダーシップを発揮するオーナー企業には特に注目する。②の外需系・大型株は世界経済や金融政策などのマクロの経済環境、国際的な主要テーマを分析して、投資対象を決める。

 新しい「ミュータント」はこの①と②を組み合わせ、相場の状況に応じて、組み入れ比率を変動させて運用することで、どんな経済環境でも、安定した運用成績を出すことを目指している。

前職の経験をいかす

 北原さんが、この運用スタイルに行きついた背景には、前職の東京海上アセットマネジメント時代の経験がある。

 北原さんは、オーナー企業に特化したファンドを運用で好成績を収めていたが、一方で、「オーナー企業は安定成長する会社が多いが、そうした株を保有していても、なかなかファンド全体の運用成績は安定しない」という課題も感じていた。「例えば、家具量販店のニトリは、30数年増収増益を続けているが、株価は一貫して、右肩上がりかというとそうでない」(北原さん)。

 特に中小型株は、事業に追い風が吹く間は、業績も株価も上昇するが、業績が伸び悩む場面や、市場全体が下落する場面では、株価も大きく値下がりする。「中小型株ファンドは、上げるも下げるも荒っぽいというイメージがあった」。

外需系の大型株でファンドを下支え

 そこで、ミュータントでは、外部環境(マクロ要因)の変化、例えば、金利や為替、資源価格の変化、規制の緩和・強化などにより、収益力が高まることが期待される外需系・大型株も組み込むことにした。これにより、独自要因で利益を上げる企業群が不調の場合でも、マクロ視点で組み入れられた銘柄群が下支えすることで、ファンド全体の運用成績が安定すると考えた。「軸となるのはあくまでも、独自要因で利益成長が期待できる銘柄だが、場合によっては、バリュー株も大きく取り入れながら、運用している」(北原さん)。

オーナー企業の組み入れは5~7割

 独自要因による利益成長が期待できる企業の割合は、ファンド全体の6~8割とする一方、マクロ要因による利益改善が期待できる企業の組み入れを2~4割としている。また、独自要因で利益成長できる企業のうち、オーナー企業は7~8割とした。ファンド全体では常に5~7割は、オーナー企業が組み入れられている状態になっている。 ①の銘柄と、②の銘柄の割合は、「投資要因別の組み入れ状況」として、ファンドの運用報告書で毎月、開示している。

日興アセットマネジメントの「ミュータント」は、昨年11月末にかけて、マクロ要因で利益改善できる銘柄の比率を増やした
日興アセットマネジメントの「ミュータント」は、昨年11月末にかけて、マクロ要因で利益改善できる銘柄の比率を増やした

昨年後半にかけ、大型バリュー株を増やす

 昨年は、年初から新型コロナの感染が拡大する中、東証マザーズ指数は3月19日に558㌽の安値を付けた。その後、経済のデジタル化、脱炭素化が進むとの見方から、中小型のグロース株が大きく買われた。菅政権のデジタル庁構想なども好感し、10月14日には1365㌽の高値を付けた。

 そうした中、「ミュータント」では独自要因で利益成長する銘柄を、2020年1月末の段階の78.3%から、3月末に84.2%まで増やした。コロナショックで株式相場が3月に安値を付ける中、割安となった成長株を組み入れたためだ。その後、独自要因で利益成長する銘柄を7月末には62.1%に減らす一方で、マクロ要因で利益改善する銘柄の割合を、3月末の15.8%から7月末に37.9%に増やした。欧米では、昨年末にかけ新型コロナのワクチン接種が拡大し、景気回復の兆しが見えてきた。「このような局面では、中小型のグロース株だけを持っていると、金利が上昇してバリュー株が上がる相場に一切、ついていけなくなる」(北原さん)。そこで、11月末には、さらに、独自要因で利益成長する銘柄を57.7%まで減らす一方で、マクロ要因で利益改善する銘柄を42.3%まで増やした。

 独自要因で利益成長する銘柄を徐々に減らし、マクロ要因で利益改善が期待できる銘柄を徐々に増やした結果、「ミュータント」は今年に入ってからのグロース株の調整とバリュー株相場への転換の流れにうまく乗ることができた。「21年6月までの年前半の運用成績は、多くの中小型グロース株ファンドがTOPIXに大きく劣後する中、ミュータントはTOPIXを少し上回るところで着地が出来た」(北原さん)。

今年に入ってからは中小型成長株にシフト

 今年に入ってからは、マクロ要因で動く銘柄は2月末で36.0%だったが、その後、徐々に減らし、8月末現在では19.8%まで低下、一方で、独自要因で利益成長する銘柄の比率は、64.0%から、80.2%まで増やしている。ワクチン接種の普及による日本経済の正常化で、再び中小型成長株が安定して上昇する相場を予想している。

 この比率の変更は、ファンド全体のバリュエーションと株価モメンタムに基づいて、半自動的に行っているという。バリュエーションは主にPER(株価収益率)を用いて、ファンド全体のPERがTOPIXのPERから大きく乖離しないように調整している。

株価のモメンタム(勢い)も見る

 株価のモメンタム(勢い)も、「ファンド全体として、株価の上昇の勢いが強い銘柄だけ、ゴムが伸び切った銘柄だけにせず、わざと、すごく値段が下がっている銘柄、今後、利益を改善できる銘柄をあえて組み入れている」(北原さん)。例えば、2月末の段階では、組み入れ比率の1位は日本航空(6.89%)、2位は国際石油開発帝石(6.33%)で、7位は商船三井(5.54%)と、コロナで逆風が吹いていた銘柄に大きく投資していた。

日本航空などの「コロナ逆風銘柄」も組み入れて、バリュー株相場への転換にも備えた Bloomberg
日本航空などの「コロナ逆風銘柄」も組み入れて、バリュー株相場への転換にも備えた Bloomberg

 一方、独自要因で成長する企業の調査は、オーナー企業投資で実績のある北原さんの強みが発揮できる部分だ。銘柄の選定にあたっては、日興アセットマネジメントの10数人のセクターアナリストが調査活動で得た情報と、北原さん自身がその調査活動で得た情報を合わせ、最終的には、北原さんが投資判断をしている。

 それでは、次回は、北原さんがオーナー企業に注目する理由や実際に組み入れている企業群を見ていきたい。

(稲留正英・編集部)

(続く)

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