週刊エコノミスト Online

緊急寄稿 10年ぶり東京・震度5強の揺れは首都直下地震の前触れか!?=京都大名誉教授・鎌田浩毅〈サンデー毎日〉

富士山と首都圏の高層ビル群
富士山と首都圏の高層ビル群

 放映中のテレビドラマ「日本沈没」は伊豆半島沖の海底プレートに歪みが生じ、関東沈没の危機が迫る設定だ。現実世界でも首都圏の海底には複数のプレートがひしめき合い、プレートの境界が滑ったり割れたりすることでさまざまなタイプの地震が発生するため、首都圏は「砂上の楼閣」といわれる。地球科学が専門の鎌田浩毅さんに首都直下地震について寄稿してもらった。

 3・11後リスクが高まっている直下型

 10月7日の夜、千葉県北西部を震源とする強い地震があり、東京都足立区や埼玉県川口市などで震度5強を観測しました。首都圏では重傷者4人と軽傷者39人、住家の火災2件が出ました。また7万5000台のエレベーターが停止し、28件の閉じ込めがあったと報道されています。

 東京23区で震度5強以上の揺れを観測するのは、2011年に東日本大震災を引き起こして以来です。この地震の規模を示すマグニチュード(以下ではMと略記)は5・9で、深さ75㌔という深部で起きたものです。今回の地震は、国が警戒中の「首都直下地震」を誘発するかどうかが心配されています。

 首都直下地震とは東京近辺の地下を震源とする内陸地震のことで、M7・3という規模が想定されています。これは今回の地震が30個ほど一度に起きたほど巨大な地震なのです。

 その発生時期に関して、国の地震調査委員会は今後30年以内に70%の確率で発生すると予測しています。といっても、起きる日時を予知することは不可能なので「いつ起きてもおかしくない」と地震学者は警告しています。

 一方、過去の発生状況を見ると、おおよその時期が予測可能です。本稿では最新の地震学から導かれる首都直下地震の予測と、しばらくなりを潜めている関東大震災の再来があるかどうかを解説します。

 地下でプレートがひしめき合う首都圏

 首都圏で過去に起きた地震の履歴を見てみましょう。M8クラスの巨大地震が、過去400年の間に2度起きています。1度目は1703年の「元禄関東地震」で、1万人以上の死者を出しました。

 首都圏の下には3枚のプレートという厚い岩板がひしめき合っており、世界的にも地震の起きやすい変動地域にあります。具体的に見ると、首都圏の載っている北米プレートの下では、南からフィリピン海プレートが、さらにその下に太平洋プレートという別のプレートがもぐりこんでいるのです(鎌田浩毅著『地学ノススメ』ブルーバックス)。

 こうしたプレートの境界が一気に滑ることで、さまざまなタイプの地震が発生します。今回の地震は太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界付近で起きましたが、こうした状況が近い将来に首都直下地震を引き起こす要因となっています。

 さて、2度目は1923年の「関東大震災」で10万人以上が亡くなりました。地震の規模がM7・9という巨大地震ですが、こうした二つの巨大地震の間で、規模の少し小さいM7クラスの地震がいくつも起きています。

 たとえば、関東大震災から約70年前の1855年には、M6・9の安政江戸地震が起き、4000人以上が亡くなりました。これは東京湾の北部を震源とする直下型地震で、まさに警戒中の首都直下地震そのものです。

 2030年代「南海トラフ地震」の前に起きる可能性

 こうした事例から、首都圏を中心としてM7クラスの直下型地震が起こると予想されており、その時期は後で述べるように2030年代に起きると予想される南海トラフ巨大地震の前である可能性が高いのです。

 なお、首都直下地震とは特定の地震を指す言葉ではなく、東京の周辺を含めたどこかでM7級の地震が起きることを警戒しています。国の中央防災会議は、首都圏で起きる可能性のあるM7クラスの地震をシミュレーションしました。そのうちで緊急性の高い19カ所の地震を起こす断層を特定し、警戒を呼びかけているのです。

 首都圏の周辺には立川断層帯や神縄(かんなわ)・国府津(こうづ)―松田断層帯のような活断層の他にも、直下型地震を起こす変動地形が地下に埋もれています(図1)。これは地震の被害を具体的に検討するためのモデルですが、満遍なくどれもが起こるというわけではありません。以下では、もっとも重要な四つのタイプについてくわしく見ていきましょう。

 首都直下地震の4タイプ

 4タイプの1番目は「東京湾北部地震」と呼ばれるもので、地盤の弱い東京23区の東部を中心に震度7の激しい揺れに見舞われる直下型地震です。

 予測では、家屋の全壊と焼失が最大約61万棟、建物の倒壊や火災による死者が最大約2万3000人に及び、地震直後には都区部の約5割で停電と断水が発生します。

 具体的には、1981年以前に建てられた耐震補強のない建物の6割は瞬時に倒壊し、また大規模な火災によって死者のうち1万6000人が焼死すると言われています。

 2番目のタイプは、関東地方内陸部にある活断層が動くものです。たとえば、東京都府中市から埼玉県飯能市にかけて存在する長さ33㌔の立川断層帯が動いた場合、東京西部の人口密集地にM7・4の地震が起き、6300人の死者が出ると予想されます。

 地質調査の結果、立川断層帯は1万年から1万5000年の周期で繰り返し動いてきたことがわかっています。そして前回動いてから2万~1万3000年が経過しているので、銀行預金に例えれば「満期」の状態にあります。

 関東大震災が再来するとどうなるか

 3番目のタイプが、大正時代の関東大震災(M7・9)をもたらした「海の巨大地震」です。房総半島と伊豆大島の境には「相模(さがみ)トラフ」という谷状の地形がありますが、ここが起点となって巨大地震が周期的に起きています。

 地震の特徴は揺れだけでなく津波も引き起こすことです。地震が海底で起きると、東京湾に2㍍から4㍍の津波が25分から45分で押し寄せます。また震源に近い相模湾内では高さ6㍍から10㍍以上の津波が5分から10分で襲うと予想されています。

 東京湾の周辺には海水面よりも地面が低い「ゼロメートル地帯」が多いことから、被害が広い範囲に及ぶ恐れがあります。さらに、高さ2㍍の津波でも海岸から約20㌔まで遡上(そじょう)し、高さ6㍍では約40㌔まで水没する恐れがあります。

 関東大震災と同じタイプの巨大地震は江戸時代にも起きています。1703年に発生した元禄関東地震(M8・2)では、鎌倉に高さ8㍍、品川に2㍍の津波が押し寄せました。

 元禄関東地震や関東大震災のように相模トラフを震源とする地震は、約200~400年周期で起きています。最近の研究により、元禄関東地震の震源域は、関東大震災よりもかなり広く、房総半島の東側の沖合にも及んでいたことがわかってきました(鎌田浩毅著『京大人気講義 生き抜くための地震学』ちくま新書)。しかも関東大震災では、そのうち西側半分しか崩れていないのです。ということは、残りの東側半分はいわば「割れ残り」のような状態にあり、近い将来に次の震源となる可能性があると考えられます。詳しい予測は研究中ですが、巨大地震が迫っている可能性は否定できないのです。

 東海地震も甚大な被害

 そして4番目の震災が、数十年前から発生が懸念されている東海地震です。これは伊豆半島の西側にある駿河湾を震源域とする海の地震で、実際には南海トラフ巨大地震の一部です。

 具体的には、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込む南海トラフの東側、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域として起こる海で起きる巨大地震です。

 ここを震源とする地震は過去には100~150年の周期で発生しています。前回起きたのは1854年(安政東海地震)で既に160年以上が過ぎ、明日起きても不思議ではない状況が続いています。

 東海地震ではM8クラスが想定されるため、震源から200㌔以上離れた東京にも大きな被害をもたらします。国の想定では死者は9200人、経済的な被害は37兆円を超えると試算されています。海に震源域があるため津波被害も想定され、東京湾内に到達する津波は最大1・4㍍、満潮時だと2・4㍍と予測されています。

 高層ビルを揺らす「長周期地震動」

 さらに、東海地震が起きた場合には「長周期地震動」と呼ばれる地震波が数百キロも離れた場所に届きます。これによって首都圏の超高層ビルが何十分も大揺れすることが予測されるのですが、実は10月7日の地震でも観測されました。次にくわしく解説しましょう。

 今回、東京国際空港と千葉県浦安市で、気象庁の設定する「長周期地震動」階級の2を観測しました。長周期地震動とは、大きな地震で高層ビルがゆっくりと大きく揺れ続ける現象です。そして4段階のうち下から2番目の階級「2」を観測したのです。具体的には、室内の棚にある食器や本棚の本が落ち、高層階では物につかまらないと歩くことが難しい状況となりました。

 一般に、長周期地震動には遠くまで伝わりやすい性質があり、地震が発生した場所から数百キロ離れた地域で、かえって大きくかつ長く揺れることがあります。

 現在、我が国で懸念される最大の自然災害は、被害総額の大きな方から南海トラフ巨大地震と首都直下地震です。前者は220兆円、また後者は95兆円という莫大(ばくだい)なもので、国の税収数年分に相当します。ちなみに、東日本大震災の被害総額は約20兆円だったので、それぞれ10倍と5倍という途方もない額です。

 そもそも、日本列島の内陸で起きる直下型地震は、10年前に発生した東日本大震災を引き金として活発化しました。その原因はM9・0という約1000年ぶりの巨大地震が地盤を不安定にしたからです。

 具体的には、東日本大震災によって日本列島の地盤が東へ引き伸ばされた結果、日本列島は最大5・3㍍も太平洋側に移動しました(鎌田浩毅著『地震はなぜ起きる?』岩波ジュニアスタートブックス)。ここで生じた歪(ひず)みを解消しようとして、内陸地震は震災前に比べて5~3倍ほど増加し、日本は言わば「大地変動の時代」に入ってしまったのです。

 南海トラフ巨大地震の前に首都直下地震か?

 こうした直下型地震は現在でも頻発しており、少なくとも数十年は止(や)むことがないと地球科学者は予測しています。ちなみに、現代と同じ変動は1000年ほど前の平安時代(9世紀)にも訪れたことがあり、両者には地震や噴火の発生に関して類似性があります。具体的に見てみましょう。

 前回、東日本大震災に相当する地震が起きたのは西暦869年です。東北沖を震源とするM9クラスの貞観(じょうがん)地震でしたが、それを機に全国で地震が頻発しました。

 そして9年後の878年に関東南部でM7・4の直下型地震(相模・武蔵地震)が起き、 さらに9年後の887年に仁和(にんな)地震というM9クラスの南海トラフ巨大地震が起きました。言わば、地下の莫大なストレスが最初に東北沖で開放され、途中の関東で一部を開放しながら最後に西の南海沖で開放したというわけです。

 もちろん、首都直下地震と南海トラフ巨大地震がこの年代の通りに起きるわけではありませんが、地下でエネルギーを溜(た)めこんだ状態が続いているのは確実です。

 首都圏では関東大震災の発生から今年で98年が経過し、それ以来マグニチュード7クラスの直下型地震が全く起きていません。また、同様の大きな被害を首都圏にもたらす東海地震も安政東海地震以来160年以上起きていません。

 さらに江戸時代を振り返ると、関東大震災と同じタイプの元禄関東地震(1703年)の4年後には、宝永地震(1707年)が発生しました。これはマグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震の一つであり、2030年代に発生が確実視されているものと同規模です(鎌田浩毅著『富士山噴火と南海トラフ』ブルーバックス)。

 まとめると、平安時代には南海トラフ巨大地震の9年前に相模・武蔵地震という内陸地震が、また江戸時代には南海トラフ巨大地震の4年前に元禄関東地震という地震が相模トラフで起きていたわけです。もちろん年表の通りに進行するわけではありませんが、近未来の日本が二つの激甚災害を抱えていることは地球科学的に確かな事実なのです。

 地震への備え

 地震発生時にすべきことは、とにかく自分の身を守ることです。地震の直後に発せられる「緊急地震速報」が入ってから大きな揺れがくるまでは、数秒~数十秒の余裕があります。この間に激しい揺れに備えて、身を守れる場所に移動します。

 揺れが収まったら、津波警報が出ている場合はいち早く安全な場所へ移動を始めます。そうでない場合は、台所などの火の始末をしてから、家族や周りの人の安否を確認します。ただし、大きな揺れが収まってもその後から余震がくるので油断してはいけません。

 帰宅困難者を出さない工夫

 東日本大震災の際には首都圏で650万人もの「帰宅困難者」が発生しました。よって、会社や学校が遠方にある場合は、むやみに家に帰ろうとしてはいけません。まず自分の身の安全を確保し、会社や学校あるいは最寄りの安全な場所で状況を判断します。

 安全に帰宅できるようになれば帰宅ルートを検討します。交通機関が復旧していない場合は、徒歩で帰宅しなければなりません。「災害時帰宅支援マップ」などを利用して、安全なルートで家に帰ります。

 家まで帰るのに、場合によっては数十キロ歩く必要があるでしょう。歩き慣れていない人が1日に歩ける距離は、10~15㌔ほどです。よって、無理せず適度に休息をとりながら、体力に余裕を持って歩くことが肝心で、場合によっては家に帰るのをあきらめる決断が必要です。

 職場は首都直下地震に備えて「帰らなくても大丈夫」な体制を整えておく必要があります。全従業員が帰らなくても数日間はオフィスで生活できるだけの食料と水を備蓄しておけば、帰宅困難者とは逆の他の人を助ける「救援部隊」となります。これは首都圏が持つ最大の「防災力」ではないかと私は考えています(鎌田浩毅著『首都直下地震と南海トラフ』MdN新書)。

 飲み水最低3日分の備蓄、耐震補強…

 本稿を読んだ方が直ちに対策に取り組んでほしいことを三つだけ述べます。まず寝室や居間に倒れてくる家具や置物はないかをチェックし、固定してください。次に、飲み水を人数の3日分でいいので備蓄してください(本当は7日分欲しいですが)。三つ目に、建物の倒壊と火事を起こさないため、耐震補強をしてください。首都直下地震の被害想定における死者の多くは、建物倒壊に伴う圧死と、それに付随して発生する火災が原因とされているからです。国だけでなく個人にも準備が肝要です。事前にしっかり備えをしておけば、災害の約8割まで減らすことができるのです。

かまた・ひろき

 1955年生まれ。地球科学者。東京大理学部卒業。4月より京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。理学博士

「サンデー毎日11月14日号」表紙
「サンデー毎日11月14日号」表紙

 11月2日発売の「サンデー毎日11月14日号」は、他にも「さようなら、皇室。 眞子さん『亡命』への3年間の葛藤」「衆院選を検証する 金子勝 詐欺としての『新しい資本主義』」などの記事も掲載しています。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

8月9日・16日合併号

世界経済 ’22年下期総予測第1部 世界経済&国際政治14 米国は景気後退「回避」も 世界が差し掛かる大転機 ■斎藤 信世/白鳥 達哉17 米ドル高 20年ぶり高値の「ドル指数」 特徴的な非資源国の通貨安 ■野地 慎18 米長短金利の逆転 過去6回はすべて景気後退 発生から平均で1年半後 ■市川 雅 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事