新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

阿蘇山噴火が「豊肥火山地域」の活動再開と考える理由=鎌田浩毅

激しく噴煙を上げる阿蘇山・中岳
激しく噴煙を上げる阿蘇山・中岳

阿蘇山・中岳が噴火 豊肥火山地域の活動再開か/74

 熊本県の阿蘇山・中岳が10月20日午前11時43分に噴火し、噴煙が約3500メートルまで上昇した。大きな噴石が南方向へ900メートル飛散し、さらに火口から北方向へ火砕流が1600メートル流下した。気象庁はその7日前、噴火の前兆現象として観測される火山性微動の振幅が大きいことから、噴火警戒レベルを「2」に引き上げていたが、火砕流の警戒範囲は火口から半径約1キロだった。今回の火砕流はその範囲を上回って流れており、噴火後に噴火警戒レベルを「入山規制」を示すレベル「3」へ引き上げた。

 今回の噴火は「マグマ水蒸気爆発」と呼ばれるもので、高温のマグマが火口内の水に触れて激しい爆発を起こす現象である。中岳では火口に水がたまって湯だまりとなる状態が長く続いていたが、近年はマグマの熱によって干上がっており、マグマの活動が活発化しつつあった。

 これまで阿蘇山では数十年に1度ほどの割合でマグマが地表に噴出する「マグマ噴火」が発生している。その間には頻繁にマグマ水蒸気爆発も起こしており、2016年には噴煙が高度1万1000メートルまで達した。こうした阿蘇山の活動は、地学的には二つの視点から説明される。

 一つ目は10年前の東日本大震災によって日本列島の地盤が不安定になった結果、全国で111ある活火山のうち20火山の地下で地震活動が活発化した。この中には箱根山や草津白根山など、実際にその後、噴火した火山のほか、今回の阿蘇山も入っていた。いわば「噴火スタンバイ状態」にある火山で、20火山には富士山も含まれている。

火砕流に厳重警戒

 二つ目は、16年4月の熊本地震との関連である。熊本県熊本地方を震源とする地震では、同県益城(ましき)町で震度7を記録し、276人の犠牲者を出した。その後も地震が頻発し、熊本県東部だけでなく北東にある大分県まで飛び火した。

 阿蘇山は熊本地震の震源から北東へ30キロほど離れた場所にある。熊本地震の2日後に阿蘇山・中岳で小規模な噴火があり、火口から100メートルほど噴煙が上がった。さらに同年10月には1980年以来36年ぶりとなる爆発的噴火が発生し、噴煙が高度1万1000メートルに達した。

 熊本地震と阿蘇山噴火には成因的な関連がある。熊本・大分両県の震源と阿蘇山は直線上にあり、「大分─熊本構造線」という地質境界に沿っている。これは紀伊半島と四国を横断する「中央構造線」が九州に上陸した断層帯であり、地震と噴火が連動する「豊肥(ほうひ)火山地域」に特有の現象である。ちなみに、筆者の博士論文のテーマがこの現象で、40年前に研究していた地域が実際に活動して非常に驚いた。

 豊肥火山地域で起きる地殻変動の特徴は、何十万年という長期間にわたって地震と噴火を繰り返すことだ。豊肥火山地域で過去600万年にわたり断続的に続いていた活動が、5年前の熊本地震をきっかけとして今回の噴火でさらに活発化したと考えられる。

 今回の噴火は、東日本大震災以降の「大地変動の時代」の地殻変動と、大分─熊本構造線の活動という地学的な二つの「長尺の目」で捉え、今後の推移を注意深く見守る必要がある。特に、今回観測された火砕流は、高温のマグマ物質の破片が高速で流れ下る非常に危険な現象であり、厳重な警戒が必要になる。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

11月26日号

データセンター、半導体、脱炭素 電力インフラ大投資18 ルポ “データセンター銀座”千葉・印西 「発熱し続ける巨大な箱」林立■中西拓司21 インタビュー 江崎浩 東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長 データセンターの電源確保「北海道、九州への分散のため地産地消の再エネ [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事