資源・エネルギー鎌田浩毅の役に立つ地学

日本沿岸に続々と漂着する「軽石」の正体=鎌田浩毅

    軽石が漂着した鹿児島県奄美市の小湊漁港(11月2日)
    軽石が漂着した鹿児島県奄美市の小湊漁港(11月2日)

    日本沿岸に軽石漂着 「100年に1度」大噴火で噴出/75 

     小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火で放出された軽石が今、沖縄県の沿岸に漂着するほか、高知沖の海域でも確認されている。すでに魚の養殖や船の運航などに大きな支障を来しており、今後は本州への到達も懸念される。今回の噴火は日本の領土・領海では100年に1回あるかどうかの大噴火であった。

     福徳岡ノ場は東京から約1300キロ南の太平洋にある。噴火したのは8月13日で、噴出したマグマの量は約5億立方メートルと見積もられている。この量は、江戸の街に5センチの火山灰を降り積もらせた1707年の富士山噴火(約7億立方メートル)に匹敵する。もし陸上で噴火していたら大災害になっていたはずである。

     福徳岡ノ場は日本に111ある活火山の一つであり、1986年の噴火では幅600メートル、高さ15メートルの新島が生じたが、波の浸食によって消滅した。その北300キロにはやはり活火山の西之島新島があり、伊豆七島を経て富士山まで続く「伊豆・小笠原─マリアナ島弧」と呼ばれる火山列島をなす。これらは、その東にある太平洋プレートが西にあるフィリピン海プレートの下へ沈み込むことによってできた火山帯である。

    今後は本州沿岸にも

     今回大量に軽石が生じた理由は、マグマの中に5%ほど含まれている水が原因である。地下のマグマが地上に近づくと圧力が下がり、水は水蒸気となって数多くの泡がマグマの中にできる。高温のマグマが海底から噴出して急冷されると、水蒸気の泡が空洞として残されて軽石となる。

     マグマがそのまま固まると溶岩となり、水より重いために沈んでしまうが、多数の空洞がある軽石は水より軽く、たたいても簡単には壊れないことから海上を何千キロも漂流する。軽石が海底に沈むには数十日かかるという実験結果があるほか、漂流する間に細かくなって完全に粉になるには、少なくとも数年はかかると予想される。沿岸に漂着した軽石は、粘り強く除去するしか目下の対処方法はない。

     軽石は海流などによって西に1400キロ移動し、沖縄に達した。今後はさらに黒潮によって沖縄から東方向へ向きを変え、九州や四国、本州の沿岸に到達する恐れがある。今後の拡散の予測は難しいが、海洋研究開発機構のシミュレーションによれば、1~2カ月ほどで東海・関東の海域に達するという。

     なお、一般に漂流する軽石は有害ではない。マグマにはごく微量の硫黄やフッ素が含まれているが、漂流している間にほとんど失われるため、人体に危険な量は残っていない。ただ、軽石漂着による生活への支障は大きく、軽石で埋まった港では漁船の出漁や発電用の重油の陸揚げができなくなったりしたほか、養殖魚が大量死する被害も出ている。

     今回は日本列島から遠い太平洋の海底噴火だったが、同規模の噴火が陸上で起きればその被害は計り知れない。日本列島は2011年の東日本大震災以降、「大地変動の時代」に入っており、活火山への警戒を怠らないようにしたい。


     ■人物略歴

    かまた・ひろき

     京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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