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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

10月に最大震度5強が襲った首都圏の直下では、3枚のプレートがひしめいている=鎌田浩毅

10月の首都圏・震度5強地震 直下でひしめく3枚のプレート/73

 千葉県北西部を震源とする強い地震が10月7日午後10時41分ごろに発生し、東京都足立区や埼玉県川口市などで震度5強を観測した。首都圏では重傷者3人と軽傷者39人、住家の火災2件が出た。日暮里・舎人ライナーの脱輪などで交通機関もまひし、多くの人が帰宅困難になった。水道管破裂による漏水も発生したほか、首都圏では7万5000台のエレベーターが停止し、28件の閉じ込めがあったと報じられている。

 東京23区で震度5強以上の揺れを観測するのは、2011年3月の東日本大震災以来である。地震の規模を示すマグニチュード(M)は5・9、震源の深さは75キロで起きたもので、首都圏の下に沈み込んでいるプレート(岩板)の境界付近で発生した地震である。また、05年には今回とほぼ同じ場所で同規模の地震が発生しており、今回と同じ最大震度5強の揺れによって重傷者軽傷者39人が出た。

 実は、首都圏の下には3枚のプレートがひしめき合っており、世界的にも地震の起きやすい変動地域にある(図)。具体的には、首都圏は北米プレートという陸のプレート上に乗っているが、その下では南からフィリピン海プレートという海のプレートが沈み込み、さらにその下に東から太平洋プレートという別の海のプレートがもぐり込んでいるのだ。

「直下地震」の要因に

 こうしたプレートの境界が一気に滑ったり、また地下の岩盤が大きく割れたりすることで、さまざまなタイプの地震が発生する。今回は太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界付近で起きたが、こうした状況が近い将来「首都直下地震」を引き起こす要因となる。

 政府の中央防災会議は、首都直下で発生する地震を具体的に予測してきた。例えば、「東京湾北部地震」と呼ばれるM7・3の巨大地震が起きると、湾岸を中心に首都東部が震度7の極めて激しい揺れに見舞われる。これは、今回の地震の約30個分相当の巨大地震である。また、震源については全19カ所を想定している。一方、現代の地震学では、今回の地震が首都直下地震を誘発するかどうかはまったく分からない。

 中央防災会議は首都圏でM7・3の直下型地震が起こった場合の被害を予測し、冬の夕方6時に最大震度7の揺れが襲った場合の死者は2万3000人、全壊・焼失建物61万棟、被害総額95兆円と試算している。このうち、火災による犠牲者は1万6000人で、死者総数の7割に当たる。首都直下地震では強震動による建物倒壊のほか、火災の延焼による犠牲者の激増が最も懸念されている。

 関東大震災(1923年)では犠牲者10万人のうち、9割が火災で死亡した。特に、地盤が軟弱な首都圏東部と、環状6号線と8号線の間の「木造住宅密集地域」では地震直後の火災が起きやすいので警戒が必要である。現代の地震学では、首都直下地震が起きる時期を正確に予知することは難しいが、いつ発生してもおかしくはない巨大災害と捉え、常に防災対策に取り組んでおく必要がある。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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