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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

動く大陸&割れる大地/4 欧州を襲ったマグマ水蒸気爆発/72

 北大西洋に浮かぶ氷の島アイスランドで2010年4月に起きた火山噴火は、世界に深刻な影響をもたらした。エイヤフィヤトラヨークトル火山から噴出した火山灰が欧州大陸を覆いつくした結果、医薬品・電子部品・生鮮食料品などの航空貨物がストップし、一時は28カ国が空港を全面閉鎖したのである。航空各社が被った被害総額は1600億円に達し、01年に起きた米同時多発テロを上回ったとされる。

 こうした甚大な影響が出た原因は、アイスランドの地学と密接に関係する。前回は大西洋の中央海嶺(かいれい)が上陸したため噴火が頻繁に起きる説明をしたが、厚い氷河に覆われている火山にマグマが貫入するとこうした危険な噴火が起きる。すなわち「マグマ水蒸気爆発」という爆発力が強い噴火である。

 最初に火山の地下で地震が発生し、次第に地震の起きる場所が浅くなった。高温のマグマが地上へ近づいて来た結果、山頂近くの氷河が徐々に溶け大量の水がたまり始めた(図)。

 その水が引き続き地下から上昇してきたマグマと触れ、水蒸気になり体積が1000倍ほどに膨れ上がった。この膨張でマグマが細かく引きちぎられ、非常に細かい火山灰ができた。火山灰と水蒸気は高度1万メートルまで噴き上がり、大量の火山灰が上空を吹く西風に乗って欧州中に拡散したのである。

 アイスランドは高緯度にあるため、日本のように偏西風が常時吹いているわけではない。ところが、当時は運悪く西風が連続して吹いていたため、欧州全域まで火山灰が広がった。

航空機の「大敵」

 上空を漂う火山灰は航空機の大敵である。火山灰はたばこの灰の燃えかすなどではなく、冷えたマグマのかけらである。ガラスでできた細かい粉であり、これが航空機のエンジン吸気口から入り込むと、非常事態が起きる。

 1500度にも達する航空機のエンジン燃焼室で、火山灰は再び溶けてマグマに戻る。溶けた火山灰が燃焼室から出ると、外気によって一気に冷やされ固まって岩石となる。これが燃焼ガスの噴射ノズルや排出口をふさぐと、エンジンはやがて停止してしまう。

 1982年に起きたインドネシア・ガルングン火山や89年の米国のアラスカ・リダウト火山の噴火では、こうした現象が実際に起きた。ジャンボジェット機の四つのエンジンがすべて止まり、墜落の危機に直面したのである。幸運にも固まった岩石が剥がれ落ちてエンジンが再始動し、墜落は免れた。

 現在、火山灰は人工衛星画像を用いて空中を漂う状況が監視されている。国際的な取り決めで、火山灰の漂う領域は飛行禁止となっている。2010年は噴火直後から火山灰が欧州一帯に広がったため、空港が閉鎖された1週間に航空機約10万便が運休した。大規模な火山噴火はこうして経済にも甚大な影響を及ぼすのである。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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