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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

トンガ大噴火の噴煙は関東一円を覆う規模=鎌田浩毅

トンガ海底火山の大噴火/上 関東一円を覆う規模の噴煙/84

 日本から約8000キロ南東にある南太平洋の島国・トンガの海底火山が1月15日、大噴火した。噴煙は上空20キロ以上も立ち上がり、海域で起きた火山の噴火では、過去100年で最大級である。トンガの海底では昨年11月に噴火が始まり、その後も消長を繰り返しながら噴火が断続的に起きていた。

 一般に、海底火山の噴火では高温のマグマと海水が接触し、水が体積1000倍ほどの水蒸気になることで大爆発が起きる(本連載の第72回を参照)。

「マグマ水蒸気爆発」という現象であるが、その後も地下からマグマが供給されると海上に噴煙が数十キロも立ち上がる。「プリニー式噴火」と呼ばれ、今回の噴火もそのケースである。衛星から観測された噴煙が広がる範囲は、関東地方一円を覆い尽くすほどだった(図)。

 また、噴火に伴って太平洋の広域で津波が観測され、1月15日夜から16日にかけて、鹿児島県や岩手県などで1メートル前後の潮位上昇が観測された。四国と九州では漁船が転覆・破損する事故もあった。

 気象庁は当初、15日午後7時過ぎに「日本の沿岸で若干の海面変動が起きる可能性はあるが、被害の心配はない」と発表していたが、その1時間後には日本の全国各地で急激な気圧変化が観測され、さらにその後、潮位上昇が見られたのである。これは、津波発生としては過去に例がない異例の現象である。

 そのため、気象庁は16日未明に奄美群島・トカラ列島(鹿児島県)と岩手県に津波警報を発表し、防災対応を呼びかけた。すなわち、地震に伴って発生する通常の津波に対してはマニュアルが用意されているが、今回のように専門家にも初めての現象に対しては対処が後手後手になってしまう。

軽石発生の恐れも

 地学的には、こうした津波は大規模噴火に伴う衝撃波で発生した可能性が高い。先に到達した衝撃波が海面を揺らすことで、遠方の日本付近で津波となったのである。

 もう一つの可能性としては、大量にマグマが噴出した場合、海底にカルデラができて津波が発生することがある。例えば、1883年のインドネシアの火山島クラカタウの大爆発ではカルデラができ、発生した津波が太平洋の対岸にあるコロンビアとの間を数回にわたり行き来した。

 ちなみに、トンガの噴火は昨年8月に起きた小笠原諸島沖・福徳岡ノ場の海底噴火よりはるかに大きな噴火である。トンガ周辺では噴火によって、大量の軽石と火山灰が降り積もった。よって今後、福徳岡ノ場と同様の被害が広い海域で出る恐れもある。

 トンガでは電話やインターネットがつながりにくく、1月17日時点で被害の詳細は明らかではない。首都ヌクアロファでは沿岸地域に水が押し寄せ被害が出ているとの情報もある。トンガの噴火はまだ継続中で、今後どうなるかは火山学者も予測できない。リアルタイムで観測を続けながら、随時、噴火シナリオと規模を予測する必要がある。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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