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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

富士山噴火は前兆の「低周波地震」に要注意=鎌田浩毅

富士山の断面図と噴火直前に起きる現象
富士山の断面図と噴火直前に起きる現象

「火山」としての富士山/2 噴火前の「低周波地震」が前兆/77 

 富士山直下で2000年10月、低周波地震が観測され、「マグマだまり」が生きていることが大きなニュースとなった。これがきっかけとなり、静岡、山梨、神奈川3県などは01年7月、「富士山火山防災対策協議会」を組織し、最初のハザードマップ(災害予測図)を04年に作成した。今春のハザードマップ改定は17年ぶりとなる。

 今回は低周波地震などの噴火の前兆現象について解説しよう。現在、富士山の地下約20キロには、高温の液体マグマで満されたマグマだまりがある(図)。これが地表まで上がってくると噴火が始まる。

 噴火の前にはさまざまな前兆現象が観測される。まずマグマだまりの上部で「低周波地震」と呼ばれる、ユラユラ揺れる地震が起きる(図のa)。人体に感じられない小さな地震だが、しばらく休んでいたマグマの活動が始まったときに起きる。低周波地震は、通常の地震と違ってゆったり揺れる地震のことをいう。

 簡単にいえば、岩石がバリバリと割れる時に我々が日常生活で経験する「高周波」の地震が起きる。それに対して、地下にある液体などがユラユラと揺らされた場合には低周波地震が起きる。低周波地震はマグマ活動の初期に必ず起きるので、噴火予知では非常に重要である。いわば、火山の「休止期」が終了したことを示すサインなのだ。

 次に、マグマが上昇してくると、通路(火道)の途中でガタガタ揺れるタイプの地震が起きる。人が感じられるような「有感地震」であり、高周波地震である(図のb)。地震の起きる深さは、マグマの上昇に伴って次第に浅くなっていくので、マグマがどこまで上がってきたかが分かる。

微動頻発なら間近に

 その後、噴火が近づくと「火山性微動」という微細な揺れが発生する(図のc)。高感度の地震計でのみ観測可能な地震で、揺れの始まりと終わりがはっきりしない。短いものは数秒程度だが、長いものでは数週間も続くものまである。一般に火山性微動は、火道の中でマグマや火山ガスが上昇するときに起きると考えられている。

 火山性微動は噴火の直前予測の重要な手がかりとなる。火山性微動が頻繁に起きると、数時間~数日で噴火につながることが多く、噴火が間近い「スタンバイ状態」となったことを意味するため、火山学者は緊張する。

 この火山性微動の発生回数が急激に増える様子を過去の噴火と比較して、噴火の時期をおおまかに予測する手法がある。これまでハワイのキラウエア火山や北海道の有珠山などでも活用されてきた。低周波地震、有感地震、火山性微動を合わせて「火山性地震」とも呼び、これら三つの推移からマグマが地表に噴出するまでの時間を推定することができる。

 富士山では数年に1回くらいの頻度で低周波地震が起きている。現在のところマグマが無理やり地面を割って上昇してくる様子はないが、災害を防ぐ・減らすには前兆現象が起きる前に備えておくことが欠かせない。

 次回は富士山がどこから噴火するかを考えてみよう。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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