資源・エネルギー鎌田浩毅の役に立つ地学

「火山」としての富士山/1 17年ぶり改定のハザードマップ/76

     日本最大の活火山である富士山は現在、噴火の「スタンバイ状態」にある。静岡、山梨、神奈川3県などでつくる「富士山火山防災対策協議会」は今年3月、噴火時のハザードマップを17年ぶりに改定した(図)。富士山の地下は今どうなっているのか、噴火の予知はどのように行うのかなどについて今回から解説しよう。

     2004年のハザードマップ初版から改定されたポイントは三つある。まず、過去の噴火をどこまで参照するかの範囲が、初版では過去3200年間を対象にしたのに対して、改定版では5600年間に拡大された。その結果、想定される火口の範囲が広がり、市街地の近くまで災害が及ぶ可能性が出た。

     次に、想定される溶岩の噴出量が約2倍に増えた。具体的には、溶岩噴出量が7億立方メートルから13億立方メートルへと増加した。それに伴い、04年版では44カ所とされていた溶岩流の噴出地点も、今回は252カ所と大幅に増やした。これに伴い、溶岩流が到達する地域は従来、静岡県と山梨県の2県15市町村とされていたが、神奈川を含む3県27市町村へ拡大された。

     さらに、溶岩の流れる量が増えれば、流れる速度も速くなり、溶岩流の到達時間も大幅に変わる。例えば、山梨県富士吉田市や静岡県富士宮市の市街地に溶岩流が到達するまでの時間は、従来は10時間ほどと考えられていたが、今回の改定で最短で2時間と大幅に短縮された。神奈川県方面の溶岩流の到達時間についても、相模原市緑区までは約9日、小田原市には約17日間で到達すると発表された。

    「噴火のデパート」

     溶岩流は山梨県側と静岡県側のどちら側が噴火するかで被害は異なる。富士山の北西麓にある火口から噴火すれば、溶岩流は富士急ハイランドなどがある山梨県富士吉田市へと至り、中央自動車道の富士吉田線も高確率で分断される。河口湖をはじめとする富士五湖に溶岩が到達する可能性もある。

     反対の南東側にある宝永火口をはじめとする静岡県側の火口から噴火すれば、溶岩流は、新東名高速道路まで最短1時間45分、東名高速道路には最短2時間15分、東海道新幹線の三島駅付近に最短5時間で到達する。そうなれば東西を結ぶ日本の大動脈が分断され、何十万の人が被害を受けることになる。

     富士山は「噴火のデパート」と呼ばれるように、多様な噴火を起こす厄介な火山である。なお、ハザードマップに示された全範囲に溶岩などが押し寄せるものではない。従って、溶岩流の噴出口を確認してから、その下流地域は早急に避難を開始するようにする。また、ハザードマップは健康な人を標準に作成されているため、移動等に時間がかかる高齢者や入院患者などは早めの避難が必要になる。


     ■人物略歴

    かまた・ひろき

     京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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