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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

トンガ噴火は世界的な寒冷化を引き起こす可能性もある=鎌田浩毅

トンガ海底火山の大噴火/下 世界的な寒冷化を招く可能性も/85

 1月15日に南太平洋の島国・トンガの海底火山が大噴火した。海域で起きた火山の噴火では、過去100年で最大級である。8000キロ離れた日本でも津波の被害が出たが、さらに懸念されることは大噴火によって生じる世界的な気温低下である。

 今回の噴火の規模は、1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火に匹敵する巨大なものだった。今回の噴火は、噴火の規模を示す火山爆発指数(VEI、0~8の9段階で8が最大)でピナツボ火山と同じ6に当たるとの見方があり、昨年8月の福徳岡ノ場の海底噴火の噴出物より1ケタ大きい量が出たと推計される。こうした大噴火は、その後数年にわたって寒冷化を引き起こす可能性がある。

 ピナツボ火山の噴火では、成層圏にまき散らされたエアロゾル(空気中を漂う微粒子)によって太陽の光が遮られ、地球の平均気温が0・5度ほど下がった。2年後の日本では記録的な冷夏によって米の収穫量が3割も減少し、タイ米を緊急輸入する事態になった。

 歴史上の大規模な火山噴火が寒冷化をもたらした例は多数ある。例えば、1815年のインドネシア・タンボラ火山の噴火では、翌年の北米と欧州に夏が来なかった。北米東岸の平均気温は例年より4度も低く、6月に寒波が襲来して雪が積もり、池に氷が張った。また、8月には霜が降りたため、主要作物のトウモロコシが全滅した。

 こうした異常低温は17年まで続き、農業が大きな打撃を受けたため、米国北東部の農民の多くが西部へ移住していった。すなわち、数千キロも離れたインドネシアの巨大噴火によって発生した異常気象が、米国西部の開拓を促したとも考えられている。

「脱炭素」にも影響?

 現在、世界中で問題となっている地球温暖化は、1回の大噴火による急激な寒冷化で、状況が一気に変わるかもしれない。19世紀最後の数十年間が寒かったのは、大規模な噴火が続いたせいではないかと考えられている。具体的には、1883年のインドネシア・クラカタウ火山、86年のニュージーランド・タラウェラ火山、90年のアラスカ・ボゴスロフ火山などが立て続けに噴火したからである。

 一方、20世紀はそれ以前の世紀と比べて大噴火がほとんどなかった。すなわち、大噴火による気温低下が発生しなかったため、20世紀後半の温暖化が顕在化した可能性もある。現在の脱炭素とカーボンニュートラル(温暖化ガス実質排出ゼロ)政策が、大規模な火山噴火でひっくり返る可能性は否定できないのである。

 昨年10月には、パプアニューギニアのマナム火山で大噴火が起きた。福徳岡ノ場も含め、環太平洋火山帯で火山活動が活発化しているようにも見えるが、統計的にはこの程度の噴火は通常である。ただし、20世紀の後半から大噴火が異常なほど少なかったことは事実としてある。このように、地球上では日常の時間・空間スケールをはるかに超える現象が発生するため、地学の持つ「長尺の目」で対処する必要がある。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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