教養・歴史書評

『百合子とたか子 女性政治リーダーの運命』=評者・新藤宗幸

    『百合子とたか子 女性政治リーダーの運命』 評者・新藤宗幸

    著者 岩本美砂子(三重大学教授) 岩波書店 1980円

    ジェンダー不平等といかに対したか 女性政治家2人の足跡を検討

     10月31日実施の衆議院総選挙は、政党などに候補者の男女均等努力を課した政治分野の男女共同参画推進法施行後初の選挙だった。だが、女性の当選者は前回より2人減の45人で、ジェンダー平等から程遠かった。

     本書は土井たか子と小池百合子の足跡を追いつつ「ジェンダー不平等」の打破の道を追究する。

     土井たか子は、同志社大学法学部で田畑忍の憲法学講義に心打たれ憲法学徒として歩み始める。彼女は自ら進んで政治の世界に入ったわけではない。社会党委員長の成田知巳や周辺からの要請を断われず1969年12月の衆院総選挙に立候補し当選する。平和と人権を基軸に議員活動を展開した彼女が一躍脚光を浴びるのは、86年の社会党委員長選挙に当選後である。中曽根康弘政権の国家主義と新自由主義政治への対抗を鮮明にし、女性たちの心をつかんだ。「マドンナ旋風」ともいわれたが、東京都議会選挙をはじめとする地方選挙、89年の参議院選挙での勝利など華々しい成果をあげる。89年8月、土井たか子は参議院本会議で首班指名を受ける。女性初だった。

     一方、小池百合子は、細川護熙(もりひろ)が創設した日本新党に加わり参議院議員として政治家生活をスタートさせる。彼女は日本新党解散後、所属政党を次々と変え自民党にたどり着く。小泉純一郎首相による郵政民営化総選挙では「刺客」として東京10区に選挙区を移し当選する。小泉政権の環境大臣時代には「クールビズ」を提唱し脚光を浴びる。そして2016年の東京都知事選挙に自民党東京都連の抵抗を退け当選を果たす。

     だが、著者の小池評価は厳しい。築地市場の移転問題をはじめ知事選の公約はほとんど実現できていない。小池の大きな失敗は17年9月の希望の党の結成だ。政権を狙える可能性もあったが、民進党の一部の合流を「排除いたします」と発言したことが大きく報じられ、失敗した。小池は長期的な女性政策を持たないし、タカ派的言動も目立つ。

     現代は「ジェンダー・バックラッシュ」(男女平等推進に対する揺り戻し)の時代だ。男性による「鉄の塊」の支配を打ち破ろうとする女性政治家は退潮している。

     では、いかにして女性や排除される者への目線を忘れない女性リーダーを育てるか。著者は男性目線でなくジェンダー平等の観点から候補者リクルートを政党に求めることだという。正当な主張だが難題だ。この問題に限らず「鉄の塊」の支配の打破に向けた政治の問い直しが、市民に必要とされていよう。

    (新藤宗幸・千葉大学名誉教授)


     岩本美砂子(いわもと・みさこ) 1957年生まれ。京都大学法学部卒業後、名古屋大学法学部助手等を経て96年より現職。女性学、政治学が専門。著書(共著)として『ジェンダー社会科学の可能性 第1巻 かけがえのない個から』など。

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