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教養・歴史書評

アメリカ 人気俳優の自伝、人生哲学の深みの理由とは?=冷泉彰彦

 ウィル・スミスといえば、押しも押されもせぬハリウッドのトップ俳優である。ラッパーやDJとしてデビュー後は、テレビの喜劇俳優として知名度を獲得し、1996年の映画「インデペンデンス・デイ」と翌97年の「メン・イン・ブラック」でスターダムの頂点に駆け上った。その後は、エンタメ作品だけでなくシリアスな役にも進出し、2001年の「ALI アリ」と06年の「幸せのちから」では、アカデミー賞の主演男優賞候補にもなっている。

 そのスミスの自伝『WILL』が大ヒットとなっている。11月9日に発売以来、アマゾンの「最も売れた本」のノンフィクション部門では1位をキープしており、今季の歳末ギフト商戦の目玉ともなっている。

 人気の秘密は本書の中で語られるスミスの人生哲学だ。スミスは、人間の欲望の奥には「恐怖」があり、それがあらゆる人間の行動を動かしているというセオリーを本書で繰り返し語っている。ラッパーとして感情を表現するのも、喜劇俳優として笑いを取るのも、俳優として等身大の人物の苦悩を演じるのも、全てこの「恐怖」という概念の理解がベースになっているというのだ。

 スミスは「フィラデルフィア西部の貧困地区の出身」である自分が「恐怖」を語ると、「どうせ家庭内暴力と貧困の話だろう」と思われるかもしれないが、それは違うとしている。確かにスミスの父親には横暴な面もあり、自分や兄弟は父を恐れていたのだという。その一方で、父から学んだ多くの教訓や生活、家族への態度は自分の人格のベースとなっているとしている。愛憎半ばする家族への思い、そのリアリティーは本書の最大の魅力だろう。コロナ禍という「恐怖」を経験する中で、多くの人が人生を見つめ直したこの時期にふさわしい作品だとも言える。

 なお、本書は16年に「The Subtle Art of Not Giving F*ck(馬鹿馬鹿しいことに翻弄されないためのヒント)」という自己啓発本で大ヒットを飛ばしたマーク・マンソン氏との共著であり、自伝でありながら人生哲学の啓蒙(けいもう)書という仕立てになっている。テレビ司会者オプラ・ウィンフリー氏が「あらゆる自伝中の最高傑作」という賛辞を贈っているのは、そのためもあるだろう。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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