教養・歴史書評

日本の未来のためには、中国経済崩壊論より「強さ」を知るべし=評者・田代秀敏

『中国経済は強い そのシステムとポストコロナの世界経済』 評者・田代秀敏

著者 古島義雄(中国経済・国際経済研究者) 晃洋書房 3300円

日本とも米国とも違うシステム 巨大経済の持続可能性を探る

 中国経済の崩壊を予測する本は、天安門事件が起きた1989年から陸続と出版され続けて今に至る。

 その間に、中国の購買力平価換算の国内総生産(GDP)は、99年に日本を逆転し、2007年に日本の2倍となり、16年に米国を逆転し、19年に日本の4倍となった。

 中国は07年から日本の最大貿易相手国であり、19年に中国+香港は輸出入総額の23・7%を占め、15・4%の米国を凌駕(りょうが)した。

 中国から日本への旅行客は19年に959・4万人に達し、訪日旅行客全体の30・1%を占め、旅行消費額は1兆7704億円と全体の36・8%を占めた。同年の米国から日本への旅行客は172・4万人(5・4%)で、旅行消費額は3228億円(6・7%)に過ぎなかった。

 中国経済崩壊論に耽溺(たんでき)して日本経済の停滞を忘却するより、中国経済の強さを解明し活用する方が、明らかに日本経済の未来に資する。

 しかし中国経済は巨大である上に、日本経済とも米国経済とも大きく異なるシステムを有している。大きな違いは「強さの源泉」であると同時に「異端論の材料」でもある。

 第1章「中国異端論」は、中国が欧米あるいは日本の研究者からどのように認識されてきたかを時系列に沿って紹介し、本書全体の格好のイントロダクションとなっている。

 第2章から第7章は、金融、財政、企業、社会保障と保険業界、教育の各システムを順に紹介する。どの章も極めて充実した内容である。

 しかし読者には、第1章から最後の第9章「中国異端論を超えて」へ飛び、その次に第8章「中国の経済システム」を読んでから、第2章から第7章に進むことを推奨する。

 第9章は、リーマン・ショックそしてコロナ恐慌による巨額財政出動と超金融緩和によって「ワシントンコンセンサス」が昔の話となった現在において、「北京コンセンサス」ないし中国モデルが持続可能であるかを考察する。

 第8章は、発展途上国から先進国へ移行するのと同時に計画経済から市場経済へと移行する過程にある「地域分散型複合的資本主義」としての中国経済の特徴を概観する。

 その後に第2章から第7章の各論を興味に応じて読み進むと、中国経済の全体像を把握できるだろう。

「価値判断を避け、予断を持たず、客観的かつ分析的に俯瞰(ふかん)し、把握する」と宣言する通り、本書は中国経済の強さを冷静に解明する。その強さを冷静に活用することが、日本経済の未来を開くはずである。

(田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)


 古島義雄(こじま・よしお) 一橋大学大学院経済学研究科にて経済学博士号取得。日本長期信用銀行アジア部長、世界銀行東アジア太平洋局上級開発専門官、福山大学教授等を歴任。著書に『中国金融市場論』等がある。

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