教養・歴史書評

中央銀行の「最後のディーラー」の役割に注目=評者・井堀利宏

『21世紀のロンバード街 最後のディーラーとしての中央銀行』 評者・井堀利宏

著者 ペリー・メーリング(ボストン大学バーディースクール教授) 訳者 山形浩生 東洋経済新報社 2640円

長期の資金を短期に融通 金融危機を防ぐ新たな役割

 本書は、日本のバブル崩壊やリーマン・ショック(08年)、さらには新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のような大規模な経済・金融危機を念頭に、米国における「シャドーバンク」など金融当局の直接的な監視・監督を受けない金融機関の台頭も踏まえて、中央銀行の果たすべき役割を議論している。

 表題にある「ロンバード街」は英ロンドン金融市場の代名詞であり、経済学者のウォルター・バジョットが1873年に出版した著書名でもある。バジョットは、金融危機では中央銀行が「最後の貸手」として行動すべきだと主張した。ところが、リーマン・ショックは通常の銀行の枠に入らないノンバンク(シャドーバンク)が引き起こした危機であり、中央銀行の標準的な政策では処理しきれなかった。

 本書は、中央銀行が貨幣供給量をコントロールして実体経済に影響を与える「マネービュー」という著者独自の視点で、金融危機における中央銀行のあり方を展望する。

 シャドーバンクは、預金保険の対象とならない短期の市場性資金を調達し、長期の資産担保証券や債務担保証券などに投資することで、長短の利ざやを確保する。著者は長期の証券を短期の現金にシフトするディーラーの「シフト能力」と流動性の供給コストに注目する。リーマン・ショックでは、レポ(現先)市場でシャドーバンクが担ってきたディーラーとしての機能が喪失し、金融不安が増大した。

 これに対して、FRB(米連邦準備制度理事会)は「最後の貸手」を超えて、無意識のうちに「最後のディーラー」として、米国の金融市場にとどまらず世界の金融市場に積極的な資金融通を行った。これが金融危機を脱するのに有効だった。著者は、昨年からのコロナ危機ではFRBが意識的にこの機能を発揮し、金融危機が顕在化するのを防いだと指摘する。

 こうした「最後のディーラー」の機能が今後ますます中央銀行に期待されるという著者の主張は興味深い。標準的な経済学で扱いにくいシャドーバンキングなど、変貌する金融市場の実態に注目している点も説得力がある。コロナ危機などの大きなネガティブショックに中央銀行がどう対応すべきかの議論は、示唆に富む。

 ただし、米国の金融制度や歴史を前提とした記述が多く、日本の読者にはハードルが高い。翻訳者による「あとがき」は有益であり、まずこの箇所から読むべきだろう。

(井堀利宏・政策研究大学院大学特別教授)


 Perry Mehrling コロンビア大学バーナードカレッジで2017年まで30年にわたり教鞭を執った後、現職。ジョージ・ソロスらが設立した「新しい経済思想研究所」のアドバイザリー・ボード・メンバー。

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